アカデミック活動

2013.01.07

アジア諸国といかに協働すべきか?〜喫急の課題はグローバル人材育成

新年あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願い申し上げます。

2013年の最初となる井之上ブログです。今年も皆さんとさまざまな問題や課題について一緒に考えていきたいと思います。

昨年暮れに行われた総選挙では、3年3ヵ月続いた民主党が大敗を喫し、自民党が復権しました。

第三極が乱立し国民に積極的には支持されない自民党が消去法で残ったと言われていますが、新政権誕生前から円安や株価上昇がみられ、長い間閉塞感に陥っていた日本社会は政権交代により、かすかな希望の光に久しぶりに明るい新年を迎えています。

構造的な問題を抱え低迷する日本にあって、グローバル市場への企業対応が強く求められています。

とわけ経済成長で大きな潜在力をもち変化の速いアジア地域において、いかにビジネスを拡大し成功させるかが問われています。そのために日本企業にはシステムの再構築が迫られ、ネットワークの強化・拡大やグローバル人材の育成は喫急の課題となってきています。

アジアパワーを取り込む

とりわけ世界人口の60%近くを抱えるアジア地域には、異なった言語、宗教・文化・歴史を有する多くの国々が存在しています。

日本のグローバル化の流れは、1985年のプラザ合意による円高とITの進展にその始まりを見ることができますが、特に90年代に入り、多くの日本企業は円高対応によりアジア新興国・地域への工場進出をはかり、アジアを生産/製造基地として位置づけするようになります。

また現地政府の優遇政策による安価な人件費やサプライチェーンの確保、そして日本企業が同一の工業団地に工場を建設することによる裾野産業の現地化促進など、日本企業はひたすら効率化を図ってきました。

当時のアジア市場は未成熟で、もっぱら安価に生産された製品は欧米市場への輸出を目的としたものでした。

そんなアジア新興国・地域もこの数年で状況が一変します。日本や欧米資本の投資が進むにつれ、「世界の工場」から「世界の消費市場」としてのアジアが脚光を浴びています。

いまや、ASEAN諸国(10か国)に加えたASEAN+6(日本、中国、インド、韓国、豪州、ニュージーランド)のGDP合計は約20兆米ドルで、EU(約17.6兆ドル)やNAFTA(約18兆ドル)を上回るほどの勢い。

また世界的な情報化(ネット)社会が進展する中、人件費の高騰により購買力を身につけたアジアの新興国・地域における富裕層の台頭は競争原理が働く市場を形成し、消費者意識の高まりと共に、企業にきめ細かいマーケティング戦略そしてPR戦略の構築を求めています。

国の事情によって異なるものの、さまざまな規制緩和は、現地経済に新たな成長の機会を与えています。ベトナムのケースを例に挙げると、政府が実施した外資の小売流通業への進出解禁(2009年)は日本からはイオンなどの流通企業の現地進出にドライブをかけ、急速な「消費市場」化に拍車をかけています。

こうしたアジア諸国の変化を把握し、日本企業がいかにこれらの市場を取り込むかが今後の企業の盛衰に大きく影響を与えるのではないでしょうか。

これらアジア市場では、多様化を受け入れることが重要といえます。現地従業員やパートナーに現地および本社のマネジメントが日本型経営を押し付けていないか常にチェックすることが不可欠と言えます。

海外市場に進出する企業は、現地の商習慣や経済・産業・社会の状況を把握し、消費者や現地パートナーそしてその国の政府機関をはじめとするさまざまなステーク・ホルダーに対して、適切に対応しているでしょうか?

アジア地域は日本企業にとって他国の企業と比べ優位性を保っています。それは日本企業のイメージが良好であることからきています。

「フォーチューン」の企業ブランディング調査、「世界で最も称賛される企業」(2012)のトップ50のなかにはトヨタ(33位)とホンダ(50位)の2社しかランクされていません(トップ3は:アップル、グーグル、アマゾン)。しかし、同じフォーチューンの「アジアで最も称賛される企業」(2012)のトップ50では日本企業が実に30社(60%)ランクされ、首位のトヨタに続き、キャノン(2位)、SONY(4位)、本田(5位)と上位10社に5社がランクされています。

この数字が意味するものは、アジア市場での日本ブランドはまだ強くそのブランド力を背景に優位なビジネス展開が可能だということです。

しかし一方では、日経ビジネス年末合併号に紹介されているように、世界の就職人気ランキングトップ50に、日本企業は、SONY(15位)とトヨタ自動車(45位)の2社しか入っていないことが明らかにされています(トップ3は:グーグル、KPMG, P&G)。(出所:国際コンサルティング会社ユニバーサル社の2012年調査)。

原因の分析がありませんが、「日本企業の職場環境は息苦しすぎる」と不満をぶつける外国人社員が少なからずいることも理解しておく必要があるのではないではないでしょうか。

グローバルビジネス人材の発掘と教育

このように急速なグルーバル化への対応が迫られる中で、日本企業の喫緊のテーマは、いかにグローバルビジネスを推進できる人材を確保し育成するかではないでしょうか。

先の日経ビジネスでは、日本企業によるさまざまな取り組みについて紹介していますが、中でも興味深いのは日産です。

同紙は、ゴーンさんが日産社長に就任してから社内にNAC(ノミネーション アドバイザリー カウンシル)という組織を立ち上げていることを紹介しこう述べています。「NACとは、世界各国の日産で働く優秀な従業員を発掘・育成し重要な仕事に登用する仕組みのこと。上司の推薦のほか、『キャリアコーチ』と呼ぶ人材発掘のスペシャリストが世界中を飛び回り、優秀な人材を見つけ出す。」とし、さらに同社が、ノミネートした人材一人ひとりに育成プランを作り、若いうちから重要な仕事を任せその成果評価を繰り返し行うことで重要ポストの後継者候補を育てるとしています。

グローバル人材育成のための研修を行っている日本企業に富士通があります。同社は10年以上前からGKI(グローバル ナレッジ インスティチュート)をスタートさせ、毎年30代後半?40代の社員20人程度を本部長推薦で選抜し、半年間にわたって自己研修とグループ研修を組み合わせて行っているようです。使用言語は原則英語で、期間中には数回の海外研修が含まれているとのこと。

日産や富士通の取り組みのように、企業内での人材発掘と研修制度は今後ますます重視されるでしょう。

日本人社員が海外での研修を通して、相互理解による現地の文化や商習慣などを学び、現地社員は日本本社での研修により企業文化やより深い技術の習得、そして社内ネットワークの構築など本社で学ぶ絶好の機会となるはずです。

日本のグローバル企業が日本人従業員だけ雇用していた時代は過去のものとなりつつあります。

有能な外国人雇用者の確保は将来の成長を左右するほどクリティカルです。自社を魅力的な企業にするためには組織構造や企業風土の見直しも必要になるかもしれません。ステーク・ホルダー(パブリック)との良好な関係を構築する、「倫理」「双方向」「自己修正」の3つの要素を抱合する、パブリック・リレーションズ(PR)の強化は必定といえます。

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日本経済新聞社は「The Nikkei Asian Review」の創刊1周年を記念して、京都大学経営管理大学院と「アジア新潮流・グローバルリーダーの条件」と題したシンポジウムを1月24日(木:14:00-18:00)、日経ホールにて開催します。定員500名で参加費は無料。
私は「アジア新潮流 グローバルリーダーの条件」(16:30-17:50)をテーマにパネルディスカッションのモデレーターを務めます。
参加を希望される方は、詳細を以下の日経サイトでご確認のうえ、お申し込みください。
http://esf.nikkei.co.jp/e/event.asp?e=00965

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