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2018.07.21
スパコンの次は量子コンピューター!〜世界2位じゃなくて、「世界一」を目指す
皆さんこんにちは井之上喬です。
7月なのに体温を上回るような記録的な猛暑が日本列島を襲っています。くれぐれも熱中症などにお気を付けください。
人工知能(AI)がもはやブームではなく、ビジネスなどへの応用が進んでいるなかAI、IoT(モノのインターネット)、AR(拡張現実)、VR(仮想現実)、5Gそして自動運転など、最先端技術に関するメディア報道はこのところ過熱しています。
これらの最先端技術を現実のものにしているのはコンピューティング能力の飛躍的な向上だと思います。かつてのスーパーコンピューターの能力が、今や私たちの手の平のスマホの中に実装されているのです。
スパコンランキングで米国が5年半振りにトップに
ドイツのフランクフルトで開催された「International Supercomputing Conference 2018 (ISC 2018:国際スーパーコンピューター会議)」で6月24日(ドイツ時間)、スーパーコンピューター(スパコン)の処理性能ランキングである「TOP500」の2018年6月版が発表されました。
今回のTOP500ランキングでは、米国オークリッジ国立研究所(ORNL)に設置され、2018年6月より稼働を開始したIBM製AIスパコン「Summit」が1位を獲得しました。米国のスパコンが世界一を獲得するのは約5年半ぶりとのこと。
2位には、これまで4期連続 (2016年6月版から2017年11月版まで)首位を守ってきた中国National Research Center of Parallel Computer Engineering & Technology (NRCPC)の「Sunway TaihuLight (神威・太湖之光)」、米国勢は3位にも米国エネルギー省ローレンス・リバモア国立研究所の「Sierra」が新たにランクインと躍進しています。4位は中国の「天河2号(Tianhe-2)」。また、5位には日本の産業技術総合研究所の「ABCI」がランクインしています。
上位5システムのうち4システムが新規稼働もしくはアップグレードによる性能向上を果たすことで、高い性能を達成したとのことです。
これらの高性能スパコンを支えるのが半導体です。
7月10日から12日にかけて米国サンフランシスコで開催された半導体製造装置・材料関連の展示会「SEMICON WEST」に合わせ、主催団体のSEMIが発表した世界の半導体製造装置市場予測でも2018年は過去最高だった2017年に比べ約11%成長し627億ドルに拡大、その勢いのまま2019年も約8%増の676億ドルと予想しています。
地域別では国を挙げて半導体産業育成に取り組んでいる中国の躍進が目覚ましく、2019年には韓国を抜いて半導体製造装置販売額でトップに躍り出ると予測しています。
SEMICON WESTでの注目もAIだったようです。世界トップの半導体製造装置メーカーであるアプライドマテリアルズは、初めての試みとしてゲイリー・E・ディッカーソンCEOが登壇し「AI Forum」を会期中に実施、注目を集めたとのことです。
AIや5G、自動運転などを支える高性能半導体、そしてそれを製造するための半導体材料、製造装置の需要はこれまで言われてきたシリコンサイクルに依存するのではなく、社会基盤を支えるインフラとして確実に成長していくと予測されます。
スパコンを凌駕する新しいコンピューターが日本上陸!
そんななか7月16日号の日経ビジネスでは「ついに来た!量子コンピューター Google、IBMの野望」との特集を組み、IBM製の量子コンピューターの頭脳となるチップを冷却するクリスタル細工のような装置が表紙を飾っていました。
特集のリード部分を引用してみますと「2018年、コンピューターの歴史が転換点を迎える。夢物語とされてきた量子コンピューターが、ついに実力を解き放つのだ。「超越性」を手に入れた機械は、世界最速のコンピューターを凌駕。IT業界だけでなく、製造業や医療、科学の世界に大きなインパクトを与える。・・・」
量子コンピューターの要素技術を開発したのは日本人ですが、カナダのベンチャー企業Dウェーブ・システムズが製品化、それが2019年にいよいよ日本に上陸することになるようです。
Dウェーブ製のマシンは通常のパソコンの1億倍の処理能力、圧倒的な省エネ性能などの特徴を持っており、さまざまな分野での高速ビッグデータ解析による新しいビジネスの創出が期待されています。
一方でこの夢のコンピューターを巡る覇権争いも一気にヒートアップしています。Google、IBM、マイクロソフト、ムーアの法則で半導体業界をけん引してきたインテル、そして中国政府をバックにしたアリババ集団などが研究開発投資、量子コンピューター関連ベンチャーへの出資を一気に加速しています。
日経ビジネスは、このような大きな可能性を持った量子コンピューター関連技術に投ずる日本政府の年間平均予算が45億円と米国の220億円に比べ1桁少ない、とお寒い現状を指摘しています。
また、かつて世界一の演算性能を実現した「京」の元開発責任者である井上愛一郎氏の興味深いコメントも載せています。
要点はこうです、「コンピューターの世界は技術の黎明期から取り組み、トレンドを生み出した企業が圧倒的に優位だ。先が見えない段階から始めておかないと、いざという時には手遅れになる。」
そして、「量子コンピューターはIT業界を確実に変える。新たなプラットフォーム争いで日本が「不戦敗」のまま終わって良いのか。改めて「世界一」を目指して取り組む必要がある」、と「量子コンピューターでも2位じゃダメ」と、国を挙げての研究開発への取り組みの必要性を訴えています。
2045年にはコンピューティング能力が人間の脳を超えるシンギュラリティ(技術的特異点)に到達するといわれて久しいですが、世界の大きな潮流をリードするような取り組みを日本が国策で緊急に実施することが必要だと思います。
まずはやってみる、そして中途半端な研究開発費ではなく世界中から優れた人材が日本に流入するような大胆な投資が量子コンピューターのような大いなる可能性を持った最先端技術の実現には必要ではないでしょうか。
私たちの未来のために、政府の英断をのぞみます。
技術革新には大きな波があるように思います。1980年代、井之上パブリックリレーションズがMITの人工知能研究所と関わりがあったことは以前このブログでも紹介していますが、天才的エンジニアのダニエル・ヒリスを開発責任者としてMITが1986年に発表した、世界初の6万4千個のCPUを繋げた並列処理コンピューター、シンキングマシンを同ラボで目のあたりにした時の感動と興奮が蘇ってくるようです。