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2015.10.23

「サステナビリティ」に関する国際シンポジウムから〜1400余年も前から持続性は日本の伝統文化

皆さんお元気ですか、井之上 喬です。

先週イタリアのベネチア国際大学(Venice International University:写真)で、「サステナビリティに関する国際シンポジウム」(共催:アルカンターラ社、10月15-16日)が開催され、私もキーノートスピーカー、パネリストとして参加しました。

118の島々からなるベネチアの歴史は5世紀中ごろに始まりますが、会場は同大学があるサン・セルヴォロ島。

10か国を超える国の産業界、学術界からの専門家やポリシーメーカー、国連機関、NGO団体などで国際的に活躍する多くの関係者が集い、サステナビリティの重要課題に対処する議論が2日間にわたって交わされました。

また、アジア、ヨーロッパ、アメリカにおけるサステナビリティの現状や各国の規制の状況、また自動車産業とそのサプライチェーンにおけるサステナビリティがいかに変革の原動力となり得るのかなどについて熱く討論されました。

シンポジウムで挙げられた3つの課題

1つ目は規制の枠組み。アジア、ヨーロッパ、アメリカにおけるサステナビリティ規制の主な違い。そして、これらの違いは今後、各地域におけるエコシステムへどう影響していくのかについて。

2つ目は財務への影響。企業が行うサステナビリティへの投資は、その業績にどのような影響を与えるのか。そして3つ目は、消費者にとってサステナビリティが、製品のプロセスや製品・サービスの選択を左右するほど重要な要因となっているのかどうかについてでした。

シンポジウムでは各国、各分野を代表した基調講演をはじめプレゼンテーション、双方向のラウンドテーブルやオープン・ディスカッションを通じて、それぞれの体験や実証的資料、公式の見解が前述の3つの課題を含めまとめられました。

シンポジウムはサステナビリティに関する共通のビジョン構築に貢献し、今後の活動の方向づけを行うこともでき、有意義な国際会議となりました。

写真右から呉燁(Ye Wu)教授(中国・清華大学環境学院)、ウンベルト・ヴァッターニ学長(ベネチア国際大学)、大聖泰弘教授(早稲田大学理工学部)と筆者

日本からの私以外の講演参加者は、自動車工学の専門家で早稲田大学理工学部の大聖泰弘教授、同時期にドイツ滞在中の世界初の燃料自動車Miraiのチーフエンジニアのトヨタ田中義和さんもビデオ・プレゼンターとして参加しました。田中さんは以前私の主宰する水素研究会で水素燃料電池車(Mirai)についてお話しいただいたゲストのお一人。

私の基調講演では、「Japan’s Tradition of Sustainability and a 2011 Tsunami Turning Point」をテーマにサステナビリティ概念の日本の伝統的な捉え方と、2011年3月11日に東日本を襲った津波が日本の諸政策に歴史的転換を促したことなどについてお話しました。

 

脈々と流れる日本のサステナビリティ精神

以前、私のブログで「日本は世界最古の国家」であると紹介しました。日本の建国については諸説ありますが、考古学者たちが主張するように大和朝廷の基盤となる王権が畿内で成立した三世紀前期とした場合でも、1800年前となるようです。

建国だけでなく、創業1000年を超える企業が日本には7社もあります。世界的に見ても1000年以上続いた企業は12社で、上位6位までを日本企業が独占しています。

世界最古の企業は金剛組です。金剛組は寺社建築工事業を営む企業で、創業は飛鳥時代西暦578年に四天王寺の建立に携わって以来、1437年間も続いている組織体。

金剛組が今日まであるのは、これまで四天王寺が何回も火災に遭い、再建を通して建築ノウハウが後世に伝承されたとされています。

一方、伊勢神宮は20年に一度、建て替えします。その理由のひとつに「建築などの職人は30年で一世代がかわるので、師匠と弟子が技をゆずる期間を考えると20年に一度がちょうどいい」ということが挙げられているようです。

記録によれば神宮式年遷宮は、持統天皇が690年に行ったのが第1回目でおよそ1300年以上続いているとのこと。最近では、62回目の遷宮式が2013年に行われています。

持続可能性を意味する「サステナビリティ」は、近年、欧米を中心に企業活動分野でも広く用いられるようになりましたが、日本において同様な考え方が、既に1400年以上も前に存在し、これまで伝統として脈々と受け継がれてきたことになります。

また近江商人の経営理念に「三方よし」という江戸時代に由来をもつ言葉があります。「売り手よし、買い手よし、世間よし」というもので、売り手と買い手がともに満足し、また社会貢献もできるのがよい商売であるということを意味しています。

近江商人が実践してきたこの理念は、パブリック・リレーションズ(PR)の根幹をなすリレーションシップ・マネジメントの萌芽といえなくはありません。

一般的にサステナビリティにはハード的側面とソフト的な側面があります。

これまで日本は幾多の困難に遭遇しながらも乗り越えてきましたが、先の大戦では、国土は完璧なまでに破壊し尽されたものの、こうしたハードウェアを失っても日本人の精神性やこれまで継承されてきた文化、技術などのソフトウェアは残りその後の「日本の戦後経済の奇跡」を起こす原動力となりました。

2011年3月11日の東日本を襲った未曾有の震災は、福島原発事故とも重なり、大参事となりましたが、一方で日本の産業やエネルギー政策に根本的な変革を迫り、日本はいま水素社会に向かって走り出そうとしています。

私たち日本人が長い時をかけて脈々と受け継いできた「サステナビリティ」は、水素社会実現のためのイノベーションに繋がることが期待され、さらに夢は広がります。

シンポジウムにおける私のスピーチを通して、人類の未来を支えるかけがえのない地球を次世代に渡すために、「倫理」「双方向性」「自己修正」を抱合するパブリック・リレーションズ(PR)が果たすべき役割への大きな期待を強く感じました。

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