時事問題

2011.04.18

マスメディアに見る東日本大震災報道〜早急な情報の一元化を

皆さんこんにちは、井之上 喬です。

東日本大震災から1カ月を過ぎた4月12日、原子力安全・保安院(保安院)と原子力安全委員会(安全委)は、共同で記者会見を催し、福島第一原発事故の深刻度を国際原子力事象評価尺度(INES)の暫定評価で、最悪の「レベル7」と発表しました。

同日の各紙夕刊の1面では「福島原発事故最悪レベル7」、「チェルノブイリ級」といった大見出しが躍りました。
とりわけ新聞は、このチェルノブイリと同じ「レベル7」という数字にフォーカスするあまり、多数の死者を出したチェルノブイリと直接の放射能死亡者を出していない福島事故が同様のものであるような印象を与え、一瞬世界中を混乱に陥れました。

しかし読売新聞は翌日の夕刊(4/13)で、国際原子力機関(IAEA)のデニ・フロリ事務次長の12日(現地時間)の記者会見の談話を引用。「福島の事故とチェルノブイリ事故は規模などが全く違うと強調し、(中略)チェルノブイリ原発は稼働中だったが、福島第1原発は停止後で圧力容器の爆発も起きておらず、放射性物質の放出量が大きく異なると指摘した」と同事務次長の抑制のきいたコメントを掲載しています。

また読売はフランス放射線防護原子力安全研究所(IRSN)のパトリック・グルムロン人体防護局長の12日の記者会見も紹介。「福島の状況は深刻だが、被害の大きさはチェルノブイリ原発事故と比べてはるかに抑えられている」と暗に「レベル7」は高すぎることをほのめかし、日本政府とは異なった見方を示しています。

混乱:4つの情報源で異なる見解

震災発生以来、発信する情報の混乱が外国人の国外脱出や風評被害などにより経済活動に深刻な事態を引き起こしています。
東日本大震災とりわけ福島原発に関する主要な情報源は、首相官邸をはじめ安全委(内閣府)、保安院(経済産業省)、そして東京電力の4つが挙げられます。

大震災直後から感じていたことですが、4つの異なった情報源から発信されることで、同じ事象に対して4者の説明が食い違ったり発表のタイミングのズレが生ずるなど、情報の混乱を広げる要因をつくっています。

ここでその混乱がどのようなものなのか幾つか紹介したいと思います。

前述の共同会見では、福島第一原発事故発生以降放出された放射性物質の量について、保安院は37万テラベクレル、安全委は63万テラベクレルと大きく異なった推定値を発表。

保安院のスポークスパーソン、西山英彦官房審議官は、第一原発の放出量は1割程度で「チェルノブイリとは相当異なる」とその違いを強調。それなら何故レベル7に引き上げたのか理解に苦しむところ。

この共同会見の発表を受けて政府の枝野幸男官房長官は、「チェルノブイリ原発事故と違って、直接的な健康への被害は出ていない」(4/12日本経済新聞夕刊)とコメント。

一方、同日行われた東京電力の記者会見では、「事故の様相が違うとはいえ、放射性物質の放出量という観点からすればチェルノブイリに匹敵する、あるいは超えるかもしれない」(4/13毎日新聞朝刊)といった政府や保安院とまったく異なる発言。

またTBSテレビが「サンデーモーニング」(4/3放送)で、情報の混乱ぶりを番組テーマに以下のように取り上げています。
入院中の清水社長に代わり東京電力のトップとして会見に臨んだ勝俣恒久会長は、「1号機から6号機まで一応の安定をみることができました」とコメント。

しかしその直後に行われた安全委の会見で代谷誠治委員は、「何が起きるか予断を許さない。そういう状況が続いていると思うのが普通」と東京電力の見解を真っ向から否定。

また、3月28日(月)の会見で枝野官房長官は、「一時溶融した燃料と接触した格納容器内の水が、何らかの経路で直接流出したものと推定される」と2号機の格納容器内で燃料が溶けている可能性を指摘。

するとその直後、東京電力の記者会見では「燃料が溶融して格納容器まで出ていったという可能性を推定させるような情報は、私どもは持ち合わせていない」。

ところが今度は安全委の斑目春樹委員長が「ペレット(固形燃料)も若干溶解したこともあり得たのではないかと判断している」と溶融の可能性を示唆。

今回の混乱は原子力行政の複雑さを反映したものと考えることもできますが、このTBSの番組が指摘しているように、日本は相変わらず断片的に異なった見方を持った生情報をばらばらに出し、全体的な説明がどこで行われているのかはっきりしない危機的な状況をつくりだしているといえます。

情報の混乱は政府や自治体への不信を招く

4つの情報源が混乱の度を増していく中で、野村総合研究所から「震災に伴うメディア接触動向に関する調査」結果がニュースリリースとして3月29日に公表されています。

この調査によると震災関して重視する情報源は、1位がNHKのTV放送(80.5%)で、2位が民放のTV放送(56.9%)、3位はインターネットのポータルサイト(43.2%)で新聞情報は5位(36.3%)となりました。これは、何よりも映像効果と速報性が重視された結果でしょうか。

また、メディアへの信頼度の変化(「上がった」、「下がった」、「変わらない」、「わからない」から択一)については、信頼度が一番上がったのがNHK(28.8%)で、信頼度が一番低下したのは政府・自治体の情報(28.9%)と伝えています。

菅首相が「福島第一原発周辺は10年、20年住めない」と語ったとされる問題がその真偽も含めて波紋を広げています。

東日本大震災からの復興ビジョンを策定する「復興構想会議」が政府の肝いりで立ち上がったばかりなのに、政府による情報管理の甘さは政府・自治体情報に対する信頼度をますます低下させています。

私は、以前から東日本大震災の政府広報について情報源の統合化と、今回の震災のような国難に直面した際の内閣記者会(官邸クラブ)の制度改正が必要不可欠だと考えていました。

これまでのように枝野官房長官が単独でプレスに情報を提供し、プレスからの質問に答えるといった形態には当然限界があります。質疑応答などカバーすべき領域は多様で専門性も高く、個人で対応することには到底無理があるからです。

先日、私はニューヨーク・タイムスの記者から政府の情報発信体制のありかたについて取材を受けました。

混乱は外国メディアの間にも生じているようで、その記者は政府から発信される情報データでどれを信じていいのかわからないと、情報の混乱が深刻な問題になっていることを明かしてくれました。

今後の対応として、官邸を軸に東電や保安院、安全委からのスポークスパーソンに加えて、地震や原発の専門家、そして広範囲にわたって災害救援活動に従事する自衛隊、消防庁、警察庁の現場のトップなど、必要とする関係機関の人も同席させ官邸での会見に臨むといった形態が望ましいと思います。

この体制であれば、大抵の質問にその場で適切に答えられるし、情報の齟齬や発表のタイミングのズレは最低限防げます。

また記者会見は、官邸クラブのメンバーだけでなく一定のルールのもとに国内メディアや外国メディアの枠を広げ、同時通訳で行います。世界中で情報共有を行うことで、グローバルに蔓延しつつある風評被害を押さえることができるはずです。

現在の外人記者を対象にしたブリーフィングは、情報発信が2元化されることにもなり、通訳ミスなどの危険性をはらみ二重のリスクを背負いかねません。

この日本で起こった複合災害は世界が共通の問題として注目していることから、官邸での一元的な通訳付き記者会見の模様を世界中にネット配信することは海外世論に相当なインパクトを持つものと考えます。

今回のような緊急事態が発生した際には、情報源の一元化は不可欠です。パブリックリレーションズ(PR)における危機管理では、混乱を避けるための情報の一元化が大前提となっているからです。

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