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2014.04.10
急ピッチで進む大学の授業改革〜ネットで無料配信する授業も普及
皆さんこんにちは、井之上 喬です。
入学、新学期の時期を迎え、新たらしい環境に胸を膨らませている学生の方も多いことと思います。今回は、日本経済新聞社が主要な国公私立大学149校の学長(理事長)を対象に実施したアンケート調査を基にお話します。
対象となった149の大学(回答は146大学)は、いずれも同社グループがこれまでに実施した各種調査で、卒業生の満足度や地域貢献度などが高く評価された大学だとのこと。
学生の多様化に対応
このアンケート調査からは、学生の意欲や知的好奇心を高めようと、教養教育や体験・双方向型授業の拡充、インターネットを活用した講義の導入など急ピッチで授業改革を進める大学の姿が垣間見られました。大学全入時代の到来を背景に大学間の統廃合が進む中で、学びのスタイルが大きな変りつつあるようです。
学長に今後拡充する教育分野を複数回答で聞いたところ「教養教育」が91.1%でトップにランクされました。グローバル社会で活躍する人材には深い教養が必要だとされており、大学が社会の要請を意識していることが窺えます。
第2番目は、就職など出口を見据えた「キャリア教育」で79.5%。以下、「大学院教育」(75.3%)、「専門教育」(71.9%)と続きました。
授業改善(FD:Faculty Development)活動の具体的な取り組みの中で、旧来型の大教室での講義に代わって注目を集めているのが、体験や社会活動などを取り入れたアクティブ・ラーニングやPBL(Project-Based Learning:課題解決型学習)。
こうした授業は、「全学部で実施している」(68.5%)と「一部の学部で実施」(29.5%)を含めると、ほぼ全ての大学で行われていることになります。アクティブ・ラーニングなどの具体的な内容は「グループワーク」(95.1%)、「プレゼンテーション」(94.4%)、「フィールドワーク」(91.6%)がいずれも9割を超えるものの、欧米などの大学で一般的な「ディベート」は69.2%とやや少なかったと報告されています。
学生に求めるのは主体性
大学が学生に求めるものは「主体性がある」、「基礎学力がある」、「コミュニケーション力がある」が上位となり、将来、国内外でリーダーとなる人材を育てようという狙いが明確に表れていると報告されています。
逆に、学長から見て現在の学生に欠けているポイントとして、「グローバルな視点」、「主体性」、「積極的である」が上位に挙げられています。「真面目さ」、「協調性がある」を挙げた学長は少なく、「真面目で協調性はあるが、主体性や積極性、グローバルな視点に欠ける」といった印象を学長らは今の学生に持っているようです。
また、改革の一つとして大学の授業をインターネット上で無料配信するMOOC(Massive Open Online Course:大規模公開オンライン講座)も、米国を中心に急速に広まってきており、日本でも普及する機運の高まりが認められます。
日本の大学では3割近い大学が強い関心を寄せ、参加に向けて動いているようです。東京大学は昨年9月から、京都大学は今春、世界の有力大学が名を連ねる米国のMOOCで講座を配信しています。国内でもNTTドコモなどが立ち上げた日本版MOOCは4月開講で、10を超す大学が参加を表明しているといいます。
私が副会長を務めるグローバルビジネス学会(Society of Global Business:http://s-gb.net)は、グローバル化に対応する人材育成を目的に、知見・経験豊富な専門家により2012年に設立されています。
現在我が国は、企業活動を国内重視から海外重視へと大きく舵を切ろうとしています。地球規模の変化が顕著となり、グローバル化が加速する中で各分野における新たな変化に対応できる人材育成が、我が国の喫緊の課題となっており、これに対応したものです。
今回紹介した大学の授業改革から私たちが期待する人材がより多く輩出されることを期待しています。
グローバルビジネスは、単に国際的な事業展開を行うことにとどまらず、企業や個人が、経営資源を活用して目的達成のためにさまざまな地域のステークホルダーと良好な関係構築を行い業務遂行することにあります。
また、多様な価値観が混在するグローバル社会にあっては、倫理観に支えられたコミュニケーション能力に加え、必要なときに自らを修正できる機能を有するパブリックリレーションズ(PR)の役割はますます重要となります。