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2022.02.02
正念場の“ニッポン株式会社”
~時価総額で大きく世界に遅れー新たな企業価値をどこに求めるか
皆さんこんにちは井之上喬です。
新しい年もあっという間に節分を迎え、季節は着実に春に向かって動いていますね。
新型コロナウイルスのオミクロン株の感染が急拡大していますが、皆さんお元気にお過ごしでしょうか。コロナ禍は、急激に感染者数が増加する第6波で相変わらず厳しい状況ですが、常に前進することを忘れずに、新しい時代への備えをしっかりしたいと思います。
起爆剤になるか4月の東証市場再編
新型コロナ禍により、私たちの価値観は大きく変化しました。その中でもとりわけ企業の価値については、グローバルな外部環境が激変する中、数字の内容だけでなく、何を重要な指標とみるかなど、本質的な部分での地殻変動も起きているように感じられます。
この流れの中で東京証券取引所は、4月4日に市場再編を実施します。ねらいは、日本の株式市場の国際的な地位の向上を図り、グローバル規模で国内株式市場へ投資資金を呼び込むことのようです。
再編の目玉になるのは、日本を代表するような優良企業、と目される企業を対象にした「プライム市場」です。
上場維持の基準には株主数や流通時価総額、ガバナンス(企業統治)などで高い基準を設けたと説明します。とはいえ1月の東証の発表によると、プライム市場に移る企業は、現在の東証1部上場の80%にあたる1841社。一部からは「看板の掛け替えに過ぎない」とする厳しい見方も聞かれます。
もちろん市場の再編、創設は大きな仕事です。一つの大きな区切りとはなるでしょう。しかし、決してゴールではありません。むしろ新たなスタートラインに立ったとの認識で、市場関係者には、再編の目標に掲げた「世界に評価される日本の株式市場」に向け一層の努力を傾けて欲しいと願っています。
そのためには、財務情報に加え、SDGsやESG投資などに関する活動など、非財務情報を積極的に世界に発信することも不可欠です。過去や現在の事業、業績の数値化にとどまらず、企業が社会、世界の中でどのような位置をしめ、どのような関係を築こうとしているのか、未来へ向かう姿勢も問われる時代になっているのです。この方向へと歩を進めるためには、日本企業のグローバル化や世界での地位向上を目指し私が長く研究と実践を重ねてきた、パブリック・リレーションズ(PR)の果たす役割がますます大きくなってきます。個人的には身が引き締まる思いでこの動きに注目しています。
さて、今回気になる点の一つは、プライムの上場基準の時価総額100億円以上です。皆さんはこの基準をどう感じますか。高いでしょうか、それとも適切、あるいは低いでしょうか?
改めて時価総額推移を検証
時価総額は、株価に発行済み株式数を掛けたもので、企業の価値を端的に表す指標です。世界の現況をみると、朝日新聞「企業価値 日米で明暗」の見出しの記事(1月11日付け)にあるように、世界の時価総額トップ10(1月7日時点)のうち6社はアップル、マイクロソフトなど米国のIT企業が占める一方、日本勢はトップ企業のトヨタ自動車が29位に0.32兆ドル(約37兆円)でようやく姿を現わします。
アップルは一時世界で初めて3兆ドル(約345兆円)を突破し、テスラも1兆ドルを超えて大きく躍進するなど、米国、特にIT企業の強さには目を見張るものがあります。
時価総額の推移で比較したいのは平成元年、1989年の数字です。当時の日本はバブル経済の絶頂期。三菱地所がニューヨークのロックフェラーセンターを買収し世界を驚かせた年でしたが、この年の世界の時価総額ランキングトップ10にはNTT、日本興業銀行、住友銀行、富士銀行など銀行を中心に、実に日本企業7社が名を連ねています。
ちなみにこの時、残りの3社はIBMが7位、エクソンが8位、ロイヤルダッチシェアルが10位。トヨタ自動車は11位でした。
パブリック・リレーションズ(PR)の考え方が企業価値創造に不可欠
上で触れた、私が考えるパブリック・リレーションズとは、さまざまなステークホルダーとの良好な関係構築を通じ、最短で企業や組織の目標や目的を達成するためのマルチステークホルダー・リレーションシップマネージメントです。
これを基本理念に、関係を結ぶ対象によって用いる手法、重点、内容は柔軟に変わっていきます。これまで携わった、海外企業も含む通信や半導体、自動車などのパブリック・リレーションズ諸活動を例にすると、中心となるメディアリレーションズに加え、規制や貿易障壁の緩和のためのガバメントリレーションズ(GR)、新たな成長のためのパートナー企業との連携を図るインダストリーリレーションズ、資金調達や財務体質強化のためのインベスターリレーションズ(IR)などがあります。これらを総合的、戦略的に展開し、クライアント企業の日本市場での事業継続と成長の後押しをしてきました。
さらに、政府や日本企業にも、最先端技術の紹介やビジネスマッチングなどを行うなど、双方向での共存共栄(win-winの関係)をはかってきました。
これらの経験を通して痛感するのは、日本はバブル崩壊後、産業構造の変化への迅速な対応に乗り遅れ、その結果将来の成長に向けた必要な規模の設備投資への決断や、グローバル規模での積極的なアライアンスやパートナーシップ構築などを怠ってしまったのではないか、ということです。
時代の流れや潮目を読み、必要であればリスク覚悟で一気呵成に攻めに入る。そのために必要な決断力をいつの間にか失い、世界から大きく後れを取った結果、現在の日本の状況があるのではないか、と考えています。いまこそ、新しい一歩を踏み出すために、それぞれの分野で「失われた30年」の検証が求められているのではないでしょうか。
今回は、世界経済のなかでの日本企業の価値について考えました。日本企業が世界市場での厳しい競争に立ち向かい、新たな企業価値を創造するためには、パブリック・リレーションズ(PR)の考え方をベースに、既成概念にとらわれず、日本の英知を結集して、失敗を恐れず大胆に挑戦することが欠かせないと感じています。
若い世代を中心にわくわくするような、将来に夢を持てるような日本を再構築する。そのために、パブリック・リレーションズ(PR)を社会全体に根付かせていきたいと、思いを新たにしています。