トレンド
2020.01.06
「18歳意識調査」に見る日本の若者像
~今まさにパブリック・リレーションズ(PR)の時代
2020年、明けましておめでとうございます。
令和初の新年、皆さんはどのように過ごされましたか?
私はといえば、暮の休み入りの直前にインフルエンザに感染してしまい、そのままダウン状態で寝正月を送ってしまいました。ある意味で、新年早々貴重な体験をさせて頂いたものと思っています。
深刻! 日本の若者の悲観的な「国や社会に対する意識」
昨年11月の終わり、私にとっては少し衝撃的な調査結果が発表されました。それは日本財団(笹川陽平会長)が発表した「18歳意識調査」です。
この調査は、「18歳」の若者を対象にしたインターネットでのアンケートです。2015年の改正公職選挙法で、選挙権年齢が20歳から18歳に引き下げられたことをきっかけに始まったとのことです。
18歳の若者が何を考え、何を思っているのか。継続して調査を実施することで、次代を担う若者の政治や社会、仕事、家族、友人、恋愛などに対するとらえ方を幅広く知り、新しい社会づくりに役立てるのが日本財団の狙いです。
今回は2019年9月下旬から10月上旬にかけて20回目の18歳意識調査を実施しました。調査範囲も日本だけでなく、インド、インドネシア、韓国、ベトナム、中国、イギリス、アメリカ、ドイツと、途上国から先進国まで計9か国に広げ、各国の17~19歳の各1,000人に、国や社会に対する意識を聞きまとめています。
結果についてはさまざまな報道がなされましたが、見出しはどれも「日本の若者の数字の低さ際立つ」、「日本は悲観的」など、ネガティブなものでした。
主な結果を要約版から拾ってみましょう。
「自分を大人だと思う」など自分自身についての質問6項目では、そのすべてで、9か国中最下位でした。
「自分を大人だと思う」、「責任ある社会の一員」と考える日本の若者は約30~45%と他国の3分の1から半分近くにとどまり、「将来の夢を持っている」、「国に解決したい社会課題がある」との回答も、他国に比べ30ポイント程度低い数字となっています。
さらに「自分で国や社会を変えられると思う」人は5人に1人で、残る8カ国で最も低い韓国の半数以下にとどまりました。
国の将来像に関しても、「良くなる」という答えはトップの中国(96.2%)のわずか10分の1でした。途上国、欧米先進国のいずれと比べても数字の低さが際立つ調査結果となりました。
若者の熱意と能力を、躍動する社会作りに振り向けよう
最近、私が所長を務める日本パブリックリレーションズ研究所が中高の先生方との交流を通して実感するのは、日本の教育現場では、ひたすら偏差値の高い学校に進学させることを目標にしていることです。その結果、教える側(教師)と教わる側(生徒)が対極的、一方的な構造を作り、生徒自身の自立性や人格形成に必要とされる全人的、双方的な教育が欠落しています。将来を嘱望される有意な若者が、ひたすら目の前の偏差値を上げるだけの教育の犠牲になってしまった結果が、上記の18歳調査結果のような、自信も、将来の希望も低い若者の意識の根底にあるのではないでしょうか。だとすれば、いわば受験偏重による、偉大なるエネルギーの無駄遣いだといえます。
喫緊のテーマは、暗記偏重型から人との関わりを重視した問題・課題解決型の教育に転換させることだと思うのです。
人間の仕事の半分が人工知能(AI)に取って代わられるといわれるAI時代は徐々に到来しています。そこではまさに、機械的な暗記、型通りの思考ではなく、人と上手に関わりながら、未知の問題を発見し課題を創造的に解いていく人間像が求められるはずです。
今の日本社会に欠けるもの。それは躍動感と感動ではないでしょうか?
とりわけ人間には魂の底から湧き出る「感動」が必要だと思うのです。戦後、廃墟から立ち上がった日本が近代工業化社会の頂点に立ったのは1980年初頭。あれから長らくが経ち、こうした感動はどこかに行ってしまったようです。
未来を担う若者が、豊かな個性のもとでそれぞれの夢と目標を持ち、実現のために努力して、その果実を感動と共に豊かに味わう。次の世代がそんな人生を歩めるような社会的インフラを、私たち大人は今、用意する必要があるのではないでしょうか?
次世代の若者がグローバル化の中で活躍できるような環境整備に、真剣に取り組む責任が私たちにはあると思うのです。
パブリック・リレーションズ(PR)の理論と実践に取り組む
私は一貫して日本にパブリック・リレーションズ(PR)を根付かせる取り組みを継続しています。
パブリック・リレーションズ(PR)は、さまざまなステークホルダーと良好な関係構築を図ることで、多くの社会課題を解決し、最終的には精神的に豊かでよりよい社会の実現に寄与できる、と考えています。
そのためにはパブリック・リレーションズ(PR)の「実践」と「理論」が必要です。
実践の場と言える、私が経営する井之上パブリックリレーションズは、おかげさまで2020年に創立50周年を迎えます。
2004年には、理論・研究の場として日本パブリックリレーションズ研究所をスタートさせました。同年から始まった早稲田大学での講座に続き、京都大学院、九州大学院などでのパブリック・リレーションズ(PR)の講義など、高等教育での人材育成を目的にした活動も行っています。
さらに、国内外での大人向け書籍出版に加え、最近では「きずな絵本シリーズ」を核とする幼児教育、私自身が監修し2019年から本格的に導入が始まった中高生対象のパブリック・リレーションズ(PR)の考え方を学習するためのテキスト「パブリック・リレーションズ for School」など、幼児から初等・中等・高等教育、そしてアカデミックの世界で、パブリック・リレーションズ(PR)の考え方を一人でも多くの若者に理解してもらうための取り組みを展開しています。
日本財団のショッキングな調査結果は、次世代のリーダーとなる若者にこそ、様々なステークホルダーとの良好な関係構築のためのリレーションシップマネージメント、つまりパブリック・リレーションズ(PR)が早期から必要であることを再認識させてくれたのでした。
以下ご紹介するのは、テキスト「パブリック・リレーションズ for School」の中高生への巻頭メッセージです。
『ようこそ!パブリック・リレーションズの世界へ! パブリック・リレーションズとは、「みんながハッピーであること」を基にして、相手のことを考えながら「対等に対話を重ね」、「試行錯誤しながらより良い方向を決める」ことを言います。進学や就職、留学・・・・これからみなさんは、さまざまな人に出会い、数多くの経験を積んでいくことでしょう。時々は、困ったり、悩んだりすることもあるかもしれません。そんな時、パブリック・リレーションズは、きっとそれを乗り越える力を与えてくれるはずです。』
つまり「みんながハッピーであること」=倫理観、「対等に対話を重ね」=双方向性コミュニケーション、そして「試行錯誤しながらより良い方向を決める」=自己修正、この3つが、私が考えるパブリック・リレーションズ(PR)に関する重要な概念です。多感な若者がこれらを考えながら行動することで、現在の日本が抱える閉塞感を改善し、「個」が確立した自立型の人財育成が可能となることを確信しています。
2020年は、東京オリンピック・パラリンピックが開催され、世界中の目が日本に向けられる絶好の機会です。この機会に皆さんもパブリック・リレーションズ(PR)の世界に触れてみませんか!
今年一年が皆さんにとって素晴らしい年となるよう、お祈りいたします。