パブリック・リレーションズ

2006.06.02

実務家に求められる10の能力8.問題解決能力

こんにちは、井之上喬です。
月日の流れは本当に早いもので、もう6月に入りました。皆さん、いかがお過ごしですか?

近年グローバル化が進展するなか、企業や組織体は状況の変化を捉えてスピーディに問題に対処していかなければ、この厳しい競争社会を生き抜いていくことはできません。実務家に求められる10の能力として、先週は「誠実さ」についてお話しましたが、今週は問題解決能力についてお話したいと思います。
問題解決とは、端的に言うと、「あるべき姿と現状のギャップ(問題)を埋めること」です。

問題解決能力とは、この、あるべき姿と現状のギャップを埋めるために、問題や課題の本質を抽出し、大局的な見地から実現性の高い解決策を双方向のやり取りを通して、立案、計画・実行する総合的能力です。

パブリック・リレーションズにおける問題解決とは、所属する組織やクライアントが直面する問題を解決し、掲げたゴール(最終目標)を達成することです。

問題解決能力について、米国のパブリック・リレーションズの資格認定(APR=Accreditation in Public Relations)のガイドラインには、「収集情報の中から適切な情報を見極めて論理的に決断を下す能力、問題の原因を見極め、解決するチャンスを見い出し、状況や事実に基づいて適切に対処する能力、論拠に基づいて結論づける能力、複雑な問題に対処する際に複数の解決策を講ずる能力」などが示されています。

PRにおける問題解決のプロセス

一般的に問題解決プロセスは、情報収集により現状の正確な把握・分析をおこない問題の本質を捉え、その原因を究明し、解決までの戦略を具体的に描き、プログラムを計画・実行し成果をあげることです。

しかしながらパブリック・リレーションズにおける問題解決のプロセスは、自己修正型パブリック・リレーションズのライフサイクル・モデルのプロセスに当てはめることができます。
一般のプロセスを一歩進めたこのモデルには、どのような目標に向かって問題を解決していくのか、またどのようなターゲットとの関係性において戦略構築をおこなうのか、そして活動結果や情報の分析・評価により必要な自己修正をおこなうなどのプロセスが加えられています。このように継続的な取り組みにより一段上の目標達成を可能とする問題解決プロセスとなるのです。

その過程で必要となるのは、実務家に求められる資質や能力を網羅した総合的で多岐にわたる高度な技術と能力です。

まず問題を時間軸で捉える

危機管理をもカバーするパブリック・リレーションズの実務家にとって、多岐にわたる問題の初見で重要となるのはまず問題を時間軸で捉え行動する能力です。目の前に横たわる問題が、危機発生時のように一刻を争うほどの急を要する問題か、戦略的な展開の中で時間をかけて対応する問題なのかなど時間軸で問題のレベルや対処すべき方策を瞬時に判断して行動することが極めて重要といえます。

次に、現状の把握と分析の段階では、時間軸の中で要領よく必要な情報を収集する調査力と、問題の本質やその原因を浮き彫りにする分析力が重要となります。また、業界概況や各種統計などデータ収集の情報源を確保する技術やSWOT分析などの分析手法を駆使できる能力に加え、問題の核心を捉える洞察力や直観力も必要となります。

解決策を講じる段階で重要となるのは、豊かな創造性と論理的な戦略構築をもとにシナリオを作成する能力です。そのためには、複雑な問題に対処する際に複数の解決策を講ずる能力やベースとなる豊富な知識や経験そして客観的に物事を俯瞰する広い視点なども求められます。

そして実行段階において不可欠となる能力は、必要となる人材や情報などの資源を確保し、その全てを統合してゴールへと牽引する強いリーダーシップです。リーダーシップを発揮するには、すべての責任を背負う覚悟と、他者の問題に共感し問題解決に真摯に取り組む姿勢が必要です。それにより他者との信頼関係を醸成して必要な人々を巻き込んで問題解決へと協働することを可能にするのです。

問題解決に導いた2つのケース

綿密な調査を通して問題の原因を見極め、解決するチャンスを見い出し問題解決に導いたケースとして、90年代半ばに私が関わった日本のアフターマーケット(自動車補修部品市場)における規制緩和プログラムがあります。

94年、日本市場におけるシェア低迷に直面していた米テネコ社からの依頼で要因究明の調査を開始。調査を通して日本市場における不当ともいうべき法制や非関税障壁の実態をつかみ、「テネコ・リポート」を作成。

このレポートを両国政府へのロビーイングやメディア・リレーションズにおいて最大限に活用した結果、94年10月に決裂していた日米自動車交渉を好転させることに成功。95年、1ドル80円を切る中で規制緩和の実現をみたのです。これによりテネコ社の日本におけるビジネスは飛躍的に拡大するという当初の目的を達成しました。

対処したという点では、04年4月公職選挙違反で自由民主党議員が辞職したことを受けて行われた衆院埼玉8区補欠選挙の成功にも共通しています。

不戦敗を避け、自民党本部初の全国公募で選ばれた無名の新人候補をたてて、民間有識者で構成されたアドバイザリー・グループによる候補者選考(最終6名まで)、インターネット調査、有権者各層に対するきめの細かい政策提案、イメージ戦略、メディアトレーニングなどを選挙戦に取り入れたPRプログラムを展開。予想外の差で民主党現職候補に対して勝利したのです。この事例の詳細は、「読売新聞」(05年1/8朝刊)に紹介されました。

問題解決能力を磨くには、新聞などに取り上げられている身近な問題をパブリック・リレーションズのライフサイクルに当てはめ、ソリューションにいたる仮説を考えてみること。そしてその仮説について周囲の人たちと議論してみることです。
ここで忘れてはならないの「倫理観」に沿った行動、 「双方向性コミュニケーション」 「自己修正」の3つのキーワードです。

パブリック・リレーションズは個人の小さな問題からスケール感のある組織体の問題まで対応できる手法です。そこに技術と能力を伴った人間のソフト能力を介在させることで、PRは21世紀最強のリアルタイム・ソフトウェアとなりうるのです。パブリック・リレーションズを通してこれから多くの問題が解決されることを願っています。

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