パブリック・リレーションズ

2006.06.09

「PRパーソンの心得」第1回:PRパーソンにとってのCSRとは?

こんにちは、井之上喬です。
皆さん、いかがお過ごしですか。

前回「パブリック・リレーションズは21世紀最強のリアルタイム・ソフトウェアである」とお話したように、PRプログラムの成功には関わる人の考え方や取り組み姿勢が大きく影響します。そこでこれから「PRパーソンの心得」と題して、実務家として成功するための志や心構えについてシリーズでお話したいと思います。今回はシリーズ第1回として、「PRパーソンにとってのCSRとは」について考えます。

個人が社会へ貢献(ISR)するという意識

20世紀に企業が追求してきた利益至上主義が行き詰まり、人類最大の共有財産である地球の危機的状態が進行するのなかで、近年CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)への注目が高まっています。

一般的にCSRとは、企業や組織体が利益追求のみならず環境保全や社会全体の持続的な成長のために経済、社会、環境の分野などで積極的に関わる取り組みをさします。企業の社会的責任(Social Responsibility)の概念は、1920年代に欧米の教会を中心に起こった、武器やギャンブルなどに関わる企業への不買運動や投資抑制運動から生まれたとされています。

日本では70年代に公害問題を通して企業の社会的責任がクローズアップされ、80年代のバブル期を迎えると利益還元策としてメセナ(芸術・文化支援活動)が盛んに行われましたが、企業の社会への関わり方は時代とともに変化しています。

21世紀を迎えた今日、地球規模での深刻な環境問題や相次ぐ不祥事による企業統治や企業倫理の重要性が叫ばれるなか、CSRへの関心が高まり本格的取り組みをおこなう企業が増えています。
マーケティングの権威であるフィリップ・コトラーは、CSRは、企業が本業を活かしその枠組みの中で自主的に実現すべき社会貢献であると彼の著書の中で記しています。

一方、企業や組織が個人の集合体であることを考えると、個人もCSR的な意識や発想を持ち自主的に行動することができます。
また、CSRの概念を個人に当てはめると、個人にとってのCSRは「日々の仕事のなかで個人が自主的に果たすべき社会貢献」であるといえます。この考え方に敢えて名前をつけるならば個人の社会的責任、ISR(Individual Social Responsibility)となります。

この考え方は、一般的な個人のボランティア活動にみられる、本業から離れておこなう社会貢献活動とは異なった、「自らのプロフェッション(専門職)が社会貢献そのもの」とするもので、私たち人類とりわけ先進国の個々人に求められる行動規範となるでしょう。

PRはCSRそのもの

パブリック・リレーションズを初めて学問として体系化したエドワード・バーネイズは「パブリック・リレーションズは社会的責任の実践」であると述べています。だとするならばパブリック・リレーションズはCSRそのものであるといえます。

したがってパブリック・リレーションズに携わる個人が「自分の関わるプロジェクトを通して社会に貢献する」ことは本来のパブリック・リレーションズを実践することになり、PRパーソンのISRの実践は極めて自然で、実現可能な志でもあるといえます。

私自身もこれまでパブリック・リレーションズを通して、ISRを実践できるよう常に心がけ仕事を選択してきました。幸いにも、インテル社やアップルコンピュータ社など、志の高いクライアントとの出会いや素晴らしい先輩や仲間との交流を通して、社会に良いインパクトを与える数々のプロジェクトに携わることができました。

日本には戦後50年以上もの間、パブリック・リレーションズ(PR)が矮小化され、物を売るための宣伝・広告や販促的な技法として捉えられてきた歴史がありますが、近年、本来のパブリック・リレーションズの奥行きの深さや幅広さが理解されるようになって来ました。

また、パブリック・リレーションズへの関心の高まりのなかで、PRの本質とその可能性を理解し、社会に貢献したいと考えパブリック・リレーションズの道に進む人も増えています。私が大学で教えている受講生たちの姿をみていても、彼らの意識の高さには目を見張るものがあります。

PRパーソンがISRを実践する上で大切なことは、日々の細かい活動や作業に埋もれ、志を失わないことです。組織体の一員として活動している場合、仕事を通してどれだけ社会貢献できるかは、自分の会社の経営トップや上司、あるいは担当するクライアントやクライアントの意識に左右されがちです。そんな中でも希望を失わず高い志を持ち続けることが極めて重要となります。
そして高い志を掲げて行動していれば、いつかチャンスは到来します。PRパーソンとしてパブリック・リレーションズを通して社会に貢献するというたゆまない意識が、社会に大きな影響を与えるプロジェクトを生み出す原動力ともなるのです。

社会の目線に立って「今何が必要とされているか、その中で自分は何ができるか」を常に考えること。自らの人生の中で、社会への貢献ができる道を探求し、自分の生き方と社会貢献(SR)が合致することが理想といえます。

いま個人としてISRの実践をおこなうことのできるPRパーソンが強く求められています。一人ひとりが健全な社会の発展に寄与する志こそが、社会に山積する諸問題を乗り越え輝かしい未来を実現するために必要とされているのです。

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