パブリック・リレーションズ

2008.10.25

『体系パブリック・リレーションズ』を紐解く 3〜必須条件となる文章力

こんにちは井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?

3週連続して今週も、世界で「パブリック・リレーションズのバイブル」として高い評価を得ている Effective Public Relations (EPR)第9版の邦訳『体系パブリック・リレーションズ』(ピアソン・エデュケーション)をご紹介します。

今回は、第2章の「パブリック・リレーションズの実務家」(井上邦夫訳)の中から、パブリック・リレーションズ(PR)の分野で成功する必須条件として採りあげられている文章能力について紐解きます。

私もかつて実務家に求められる10の能力の3回目で「文章力を伴ったコミュニケーション技術」(06年3/17)について書いています。広報担当者やパブリック・リレーションズの実務家は、様々なリレーションズを通して戦略的に設定された目標や目的を達成していく仕事です。具体的に行動する上で企画書やプレス・リリースの作成など、文章を書くことが要求される場面が数多くあります。したがってプロフェッショナルとして質が高くかつ説得力のある文章は、相手の理解と共感を得るのに有効です。EPRでパブリック・リレーションズの実務家の必須条件として採りあげられていることからも、文章能力の重要さは世界共通のことであるようです。

文章能力はキャリアの一生を通じて続く

「パブリック・リレーションズの実務家は、様々な状況に対応するため、また自分たちがなすべきことについて外部の期待に応えるために必要な言動パターンを身につけてきた。次の4つの主要な役割が、パブリック・リレーションズの実務の多くを示している」と本書では語っています。それらは「コミュニケーション・テクニシャン」であり、「エキスパート・プリスクライバー」(パブリック・リレーションズの問題に対して処方箋を書く専門家)、「コミュニケーション・ファシリテーター」(まとめ役)、「問題解決ファシリテーター」です。

特にコミュニケーション・テクニシャンには、ニュース・リリースや特集記事の執筆、社内報の執筆と編集、ウェブサイト・コンテンツの作成、ステークホルダー(利害関係者)向けニュースレター、手紙の発送・返信、株主への報告書と年次報告書、スピーチ原稿、パンフレット作成、フィルム・スライドショーの原稿、業界紙の記事企画、企業広告の文案、製品や技術関連資料の作成など広範な業務が紹介されています。そして「職務と責任の組み合わせは組織によって大きく異なるが、パブリック・リレーションズ業務の中心的役割として文章作成スキルの要件はキャリアの一生を通じてずっと続く」と結んでいます。

また、クライアントがパブリック・リレーションズの実務家に求める特性には、ビジネスがどのように機能するかについての理解やコンピュータソフト、ニューメディア・テクノロジーを使いこなすスキル、時事問題に関する知識などが挙げられていますが、「あらゆる調査で常にトップに挙げられる特性は文章作成能力であり、これは他の特性を大きく引き離してナンバーワン」と書かれています。特にメディアに配信するプレス・リリースはメディアの信頼を得たクオリティーを持たなければならないことからも、このことは理解できます。

文章力低下は日米共通

この第2章を読んでいて、文章能力に関するある米国企業経営者の次のようなコメントが強く印象に残っています。「多くの新卒者の最も弱い分野の1つは文章を書くこと。それはおそらく『愕然とする』類のものであり・・・・」といった内容のもの。これなどは最近、「若者言葉」、「ギャル語」、「バイト敬語」など日本語の乱れの問題として議論を呼んでいるわが国においても、同じように文章能力の低下傾向が見られます。

ネット社会の到来で情報がますます氾濫する中で、e-メールの急速な普及などにより文字表現によるコミュニケーションは以前よりはるかに増えています。パブリック・リレーションズ実務家の活動領域の広がりとともに、ますます文章能力のスキルが問われることになるでしょう。

文末になりますが、パブリック・リレーションズの実務家を目指す人たちに『体系パブリック・リレーションズ』第2章の中にある、次の言葉を贈ります。「パブリック・リレーションズのキャリアの階段を昇り始める前に、まず文章の書き方を学ぶべきである」(64頁)。

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