パブリック・リレーションズ

2008.11.01

『体系パブリック・リレーションズ』を紐解く 4〜政府とメディア・リレーションズ

こんにちは井之上喬です。
もう11月に入りました。皆さんいかがお過ごしですか?

今週も、『体系パブリック・リレーションズ』Effective Public Relations (EPR)第9版の邦訳:ピアソン・エデュケーション)をご紹介します。EPRは米国で半世紀以上の-ロングセラーを記録するパブリック・リレーションズ(PR)のバイブル的本です。

「新聞の存在しない政府を持つか、あるいは政府の存在しない新聞を持つかその決断が私に残されたとすれば、私はためらうことなく後者を選択する」。これは新国家創設にとって不可欠の報道の自由を保障した米国第3代大統領トーマス・ジェファーソンの言葉です。今回は、第16章の「政府とパブリック・アフェアーズ」(井之上喬訳)について、主要な活動である「政府とメディア・リレーションズ」をお話します。

「政府のパブリック・アフェアーズの目的」

この本ではまず、政府のパブリック・アフェアーズ(以下PA)の目的として、一般的に以下の7項目を挙げています。

1)有権者に政府機関の活動を伝える 2)国家プログラム(投票、舗道整備など)への積極的な協力や規制プログラムの順守の確実化。3)制定した政策やプログラムをパブリックが支援(国勢調査への協力、災害救援活動など)するよう育成する。4)政府閣僚に対してパブリックの主張を伝える。5)内部のための情報管理(職員むけのニュースレター、電子掲示板、インターネット・サイトのコンテンツ) 6)メディア・リレーションズを円滑にする 7)コミュニティと国家の建設(国民健康キャンペーン、国民の安全保障プログラムを利用した様々な社会プログラムなど)。

同書はまた、「政府のパブリック・アフェアーズ実務家の基本的な仕事は、情報を伝えることにある。」と明示。政府内外の人々への継続的で確実な情報フローを最優先事項としています。「重点項目は規模に関係なく、各組織が行う行政サービスについて、一般と特別なオーディエンス(情報受信者)に情報を準備して伝えることにある。」とし、その活動は通常、内外への一般情報サービスを通じて遂行すると記しています。

これら情報の通達は、望ましい成果を得るロビー活動の一環ではなく、国民に情報を伝えて周知徹底することであるとし、連邦政府より下位レベル(州、市町村)の場合のPA活動は、地域や予算を組み合わせて調整されることが多いと論じています。

いずれの場合も、重点項目は同じで、「パブリックに政府活動や行政サービスについて情報を伝えることにある。」と述べています。しかし、「情報サービスが海外のオーディエンスを意図して、情報発信される場合は、それが単なる情報伝達か、あるいは人々への影響を与えるためのものかで対立することもある。」とも論じています。つまり、単なるお知らせか、そうではなく、政府の政策を受容させることで影響を与えたいと考え情報発信することなのか、異なったアプローチがあることを述べています。

「政府におけるメディア・リレーションズ」

冒頭のトーマス・ジェファーソンの言葉にみられるように、米国は政府発足以来憲法修正第1条で報道の自由を保障しています。『体系パブリック・リレーションズ』では最近になって憲法で保障された報道の自由は拡大され明確になったとし、「情報公開法や『サンシャイン法、(議事公開法)』には政府についての自由な発言や論評ができる言論の自由に加えて、政府の情報にアクセスする権利なども文書化されている。」とメディアの政府へのアクセスの自由度について論じています。

「例えば、国家安全保障、訴訟、特定の個人記録など、明らかに不適当な分野を除き、政府が保持するほぼすべての情報は、報道機関が閲覧することも、調査目的で一般人が閲覧することも可能である。」また、「その多くにおいて、未完成の報告草案や手書きの記録でも、記者がこれらに特別な知識を持っている場合は、それらを特定項目に絞って請求し、閲覧することもできる。」と政府情報のオープン性も強調しています。

著者のカトリップ、センター&ブルームは、政府とメディアとの間には立場の違いと共に情報の有効性についての認識の差があると論じています。そして、政府メディア双方に困難な問題があるにもかかわらず、政府は依然として重要な情報を伝える手段としてニュースメディアに大きく依存しているとしています。またメディアの影響力について、マイケル・グロスマンとマーサ・クマールの言葉を引用し、「報道機関について、『国家の政治シーンにおいて、大統領をはじめ、議会や官僚、政党、圧力団体などの主要な権力に影響を及ぼし、同時に、それらの権力から影響を受ける主要な権力の一つになった』」と述べています。

しかし一方では、「メディアが彼らの本来の仕事の基準に達しているとは考えていない。」と政府部内の一部の見方を示しています。つまりクリントン大統領の一連のスキャンダルが表面化した際に、多くの主要報道機関が、大統領の外国首脳との関係を報道する代わりに、ポーラ・ジョーンズやモニカ・ルインスキーとの関係についての過剰報道に対する国民のメディアへの疑問について明らかにしています。
また政府報道については、「政府の森羅万象を解釈するには訓練を積んだ専門家が必要であり、(中略)政府のパブリック・アフェアーズ専門家は国民とコミュニケーションを図るため、ジャーナリストと協働して重要な役割を演じる…」と高度な専門家の介在の必要性を説いています。

政府とメディアとの関係性については日本においても、首相やその周辺のスキャンダルにフォーカスされるあまり、本来の国民が必要とする報道が十分になされなかったり、重要な法案の審議中に別の問題でメディアの関心がこの問題に向けられ過剰報道するなど、同じようなことが言えます。

戦後長きにわたって日本の政府からの情報発信は、そのシステムにおいても極めて脆弱なものでした。サブプライム問題で世界が不安定な中にある今こそ、日本の過去の教訓を内外に向けて強力に情報発信しなければなりません。ぜひ一度『体系パブリック・リレーションズ』を手に取ってください。新しい施策が浮かんでくるはずです。

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