趣味
2011.07.18
『小川の辺(ほとり)』に久しぶりの映画をみた 〜藤沢周平の世界
皆さんこんにちは、井之上 喬です。
猛暑のなか、休みを利用して7月2日から都内で封切上映されている藤沢周平の『小川の辺』(2011年 配給:東映 監督:篠原哲雄、主演:東山紀之、菊地凛子)を見に行きました。
この作品は、藤沢作品のなかでも評価の高い「海坂藩大全」(文藝春秋刊)の一編「闇の穴」を劇場映画化したもので、山形の大自然を背景に、武家の兄妹に訪れた過酷な運命と、藩への忠誠心や正義と友情のはざまで葛藤する武士の苦悩とを交差させて描いています。
山形県出身の小説家藤沢周平(1927-1997)は鶴岡市の農家に生まれました。山形師範学校(現在の山形大学)を卒業し地元の中学校で教師を経験するものの結核を患い東京での長い療養生活を送ります。そしていくつかの業界新聞の記者を経て作家となった苦労の人。
私が藤沢作品に鮮烈に遭遇したのは、2002年NHKドラマの『蝉しぐれ』(出演:内野聖陽、水野真紀)がはじめてでした。
その後同年映画化された、『たそがれ清兵衛』(配給:松竹 監督:山田洋次 出演:真田広之、宮沢りえ)、2004年の『隠し剣 鬼の爪』(配給:松竹 監督:山田洋次 出演:永瀬正敏、松たか子)、そして2005年の市川染五郎主演の『蝉しぐれ』や2006年の木村拓哉主演の『武士の一分』など、映画化された大半の藤沢作品を鑑賞しています。
日本人の精神をみる
藤沢周平のさまざまな体験が、江戸時代を舞台にした庶民や下級武士の哀歓を描いた時代小説を数多く残したのでしょうか。
侍もので藤沢作品に共通するものは、潔さや清廉性、そして真面目さや粘り強さなど日本人が本来持っている精神性です。
とりわけ全集となった、架空の藩「海坂藩(うなさかはん)」を舞台にした一連の藤沢作品は、高い精神性をもった主人公が描かれて映画化され人気を博しています。
物語の展開は、家老(笹野高史)からの藩命により主人公の藩士・戌井朔之助(東山紀之)が藩政を批判し脱藩した親友の佐久間森衛(片岡愛之助)を討つことになります。しかし佐久間の妻田鶴(菊地凛子)は朔之助の実の妹。
戌井家の家長である朔之助は藩命と親友・妹との間にはさまれ心を揺れ動かします。そんな朔之助に、直心流の使い手で兄妹に剣術を指南した、父忠左衛門(藤竜也)は妹を斬ってでも主命に従えと諭します。
兄妹の間に起きるであろう悲劇的結末に涙を流す母の以瀬(松原千恵子)。妻の幾久(尾野真千子)は朔之助の身を案じながらも気丈に振る舞います。
翌朝朔太郎は佐久間を討つために、幼少の頃から兄弟のように育った若党の新蔵(勝地涼)と共に、遠く100里先の脱藩夫婦の住む江戸にほど近い行徳を目指します。
目的地で見つけた佐久間の隠れ家は、兄妹と新蔵が幼い頃に遊んだような小川の辺にありました。
朔之助と親友の佐久間は、その川のほとりでついに向き合うことになります。
今回の作品もそうですが、藤沢作品には毎回夫を支える、おとなしくも芯が強い主人公の妻が描かれています。ペンネームの藤沢周平(本名:小菅留治)が妻の実家の地名(藤沢)や親族の名前(周平の周)から由来していることを見ると、長女(展子さん)を産んだ後28歳で他界した同郷の亡き妻(悦子さん)への強い思慕を感じとることができます。
日本の原風景を満喫
映画の中では心に沁みる、東北の山河の透き通るような自然をふんだんに感じ取ることができます。庄内地方の緑深い森や山そして澄み切った透けるような川といった、東北の豊かで美しい自然が描写されています。
特にこの映画の製作には、県知事や山形市長も映画に登場するなど、地元のフィルムコミッションやメディアも全面的にバックアップ。特に地方に設置されているフィルムコミッションには、地域の観光振興との連動を考え積極的に支援している様子が窺えます。
東北山形が舞台のこの作品は、東日本大震災で苦境にある被災者への思いも重なり私にとって印象深く、映画に出てくる主人公や彼を取り巻く人たち、美しい東北の自然など、ついつい被災地のイメージとダブらせながら見てしまいました。
映画の舞台となった山形は学生時代演奏旅行で山形市や鶴岡市などを訪問したり、数年前に山形市の山寺を訪ねるなど、私にとっては想い出深いところです。
新幹線が開通してからも自然を大切にした、昔からの日本の伝統的な風情を味合わせてくれるところです。
藤沢周平が愛した庄内地方を舞台にした『小川の辺』。日本人の絆を感じさせるこの映画は見る人の心を癒してくれます。武部聡志の音楽や効果音も抑制のきいた一級品に仕上がっています。
そんなこともあってか、103分の映画が終了しても清新な余韻が胸内に深く残り、すぐに座席を立つことをためらわせました。
主演の東山紀之が好演する『小川の辺』は8月はじめまで上映されています。皆さん是非このチャンスに足を運んでみてはいかがでしょうか?
*このブログを書いている最中、サッカーの女子ワールドカップ決勝戦で日本は延長戦2?2から、PK戦で世界ランク1位の米国を制した(3?1)瞬間をTVで見ました。壮絶な戦いを制した、奇跡のなでしこジャパンの粘り強い最後まであきらめない精神力は多くの日本人を勇気づけることでしょう。