趣味

2011.05.16

フェルメール、大航海時代に思いを馳せる 〜時を超えた1枚の絵画が語りかけるもの

こんにちは井之上喬です。
東日本大震災発生から2カ月以上が経ちました。

震災の影響はさまざまな分野に及んでいますが、展覧会や美術館にも震災の影響が出ているようです。
直接、震災の影響を受けて休館している美術館も宮城県や福島県を中心に多いようですが、震災や原発事故の影響を懸念し海外からの美術作品が届かず日程の変更や中止を余儀なくされた展示会も少なくないとされています。

先日、東京・渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで開催中のシュテーデル美術館収蔵「フェルメール『地理学者』とオランダ・フランドル絵画展」に行ってきました。

95点のうちほとんどが本邦初公開

ヨハネス・フェルメール(Johannes Vermeer:1632-1675)は、17世紀にオランダで活躍した、レンブラントと並び17世紀のオランダを代表する画家。フェルメールの『牛乳を注ぐ女』(1658-1660頃) は彼の代表作です。

今回の絵画展は、文豪ゲーテの生地として名高いドイツのフランクフルトにあるシュテーデル美術館の改築のため実現したもの。
同美術館収蔵品の中から宗教画家として著名なレンブラント、ルーベンスなどの作品を含む、選りすぐりの95点が展示されていますが、そのうちの実に90点が日本初公開。

その中での注目は東京初上陸のフェルメールの『地理学者』。

オランダのデルフト生まれのフェルメールは、経歴が不明な点が多くその作品も30数点しかないようですが、そのなかの傑作が『地理学者』といわれています。フェルメールが生涯で男性単身を描いたのは2点だけとされていますが、この絵は1 年前に描かれた『天文学者』に続く残りの1点。
同じオランダの巨匠レンブラントの作品は、『サウル王の前で竪琴を弾くダヴィデ』、『マールトヘン・ファン・ビルダベークの肖像』の2作品。また、ルーベンスとブックホルストの合作『竪琴を弾くダヴィデ王』も出展されています。

そのほかにも今回の展示会では、「ネズミのダンス」(フェルディナント・ファン・ケッセルに帰属)、「洪水以前/寓意画(裏面)」(カーレル・ファン・マンデル)、「調理台の上の魚」(ヤーコブ・フォッペンス・ファン・エス)、「凍ったスヘルデ川とアントワープの景観」(ルーカス・ファン・ファルケンポルヒ)などなど、多くの作品が心に残りました。

大航海時代に思いを馳せる

オランダは17世紀から18世紀にかけて、貿易で栄えたオランダは世界に雄飛していました。とりわけ17世紀はオランダ東インド会社が設立され、大航海時代を謳歌します。

『地理学者』が描かれた1669年は、鎖国下の長崎に人工島の「出島」と「商館」が築造・建設され、オランダは唯一交易が認められた(1641-1859)相手国。

『地理学者』はそんな未知なる世界への知的探求に没頭する男性を表現した秀作で、サイズは縦53×横46.6 cm。
日本でいうとF10号ほどの小ぶりの絵ですが、その陰影を強調した絵の前に立つたとき、登場人物のほとばしるような思いが伝わり、思わず立ちすくんでしまいました。

作者のフェルメールは、それまで知られていなかった世界が次々に明らかにされた大航海時代を象徴するかのように、希望に満ちた地理学者を描きたかったのでしょうか。

窓からさす光と影の絶妙なコントラストの中に描かれた室内の情景は見事で、フェルメールが室内描写に細心の注意を払っていることが素人目にも感じられます。

大航海時代のオランダで航海には欠かせない地理学者をテーマに、地球儀、地図、コンパスと定規など地理学者の仕事道具や、地図などのモチーフ、そしてそれを取り巻く生活の品々が描かれています。

絵の中の地理学者が身に着けている上着は、「ヤボンス・ロック」(日本の着衣)と呼ばれているもの。フェルメールのモチーフには当時出島からオランダにもたらされ、評判を呼んだ日本の着物とおもえる衣裳を用いた人物像が何点かあるとされています。
これら日本の着物は当時、裕福な市民階級の間で流行し、ステータス・シンボルになっていたようです。17世紀の大航海時代のヨーロッパと日本とのつながりにも思いをつなげる1枚の絵画でした。

世界には、まだまだ日本に紹介されていない素晴らしい芸術作品がどれほど存在するのでしょうか?人の営みと創造力に改めて驚かされた時間と空間でした。

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