時事問題
2018.06.12
迷走する日大アメフト部タックル問題 〜倫理観、双方向コミュニケーションそして自己修正機能の欠如は明白
皆さんこんにちは井之上喬です。
東京なども梅雨入り、台風5号が通過しましたがしばらく鬱陶しいウェットな天候が続きそうです。
体調管理には気をつけ、カラッとした夏を迎えたいものです。
ジメジメしてすっきりしない象徴として一連の「日大アメリカンフットボール部タックル」問題があります。
日本に蔓延する不祥事の根本原因はパブリック・リレーションズの欠如
それにしても最近、日本企業や行政、大学などでの不祥事が頻発していると感じる方も少なくないと思います。
なぜでしょうか?
私が設立した井之上パブリックリレーションズは、2020年に50周年を迎えますがこれまでのパブリック・リレーションズ(PR)のコンサルティング経験からその原因をこう考えています。
『パブリック・リレーションズが組織のシステムに組み込まれていないから』
極めてシンプルです。最近の一連の不祥事は「倫理観」の不在と「双方向性コミュニケーション」の欠如により「自己修正」機能が働いていません。
この3つのキーワードを基盤とするパブリック・リレーションズが組織のシステムに組み込まれていないことに起因しているのは明白といえます。
特にソーシャルメディアの影響力が急拡大し、個人がブログやツイッターを利用して、内部告発も含め自由に情報発信できるような時代が到来、すべての組織体にとって透明性の確保や情報開示の即時性、説明責任などがより重要になっています。
その根幹をなすのが、さまざまなステーク・ホルダー=マルチステーク・ホルダーとのリレーションシップ・マネージメントであるパブリック・リレーションズだと確信しています。
5月6日の関西学院大と日本大学との定期戦で日大の選手が関学のクオーターバック(QB)を悪質なタックルで負傷させたこの問題は、なぜこれほどまでに日本国民注目のニュースになったのでしょうか。
今回の日大アメフト部タックル問題、その発生からこれまでの日大アメフト部、大学としての日本大学の対応を、倫理観、双方向性コミュニケーションそして自己修正機能を基盤とするパブリック・リレーションズの視点から検証してみます。
1本のYouTubeがきっかけに
それはテレビでも新聞、雑誌でもなく、1本のYouTube動画で始まっています。皆さんもテレビのニュースで何回もご覧になったあのシーン。
無防備なQBを後ろから狙ってタックルする、スポーツでは考えられない悪質さや危険性を誰が見ても感じたのではないでしょうか。
ネットで炎上、そしてテレビや新聞が後追い報道し多くの国民を巻き込む関心事になりました。
この問題には多くの関係当事者が存在します。日大側では日大、日大アメフト部、監督、コーチ、選手、選手父母会、教職員組合、OBなど。関学側ではアメフト部、監督、ディレクター、被害選手、被害選手の父親など。そして関東学生連盟、文部科学省、スポーツ庁など。
これまでの詳細な経緯は省きますが、これだけ多くの利害関係者が存在し、それぞれが記者会見、声明文、メディアとのインタビューなど異なった立場で次々と情報発信すればするほど、それぞれの事実認識が乖離するばかりです。
いうまでもなく日大側の初動のまずさがこの問題を大きく迷走させる事態を招いているのです。
まず、様々なステークホルダーに対するリレーションシップ・マネジメントが欠落していることは明白です。
そして倫理観。スポーツの基本であるルールを無視した反則行為をしたこと自体は許されることではありません。また行為を強いた監督・コーチが虚偽の説明をするなど、大学スポーツ界にこのようなチームが存在すること自体驚きです。
続いて双方向性コミュニケーション。監督、コーチの言うことは絶対であり選手はそれに従うことが当然である。つまりコミュニケーションそれも双方向性が完全に欠如しています。最先端技術でデータを分析し、個々の選手の能力を戦術的にフルに生かすアメフトのイメージとは大きくかけ離れた体質です。
そして自己修正機能。いまだ理事長が顔を出さない状態を作っているのは「日大の体質そのもの」、と指摘する方も多いようです。2012年にはそれまで教授会によって選出された総長制が廃止され、理事長による支配体制が強化。その体制下で大学の常務理事でアメフト部の監督は、人事部長(6/11解任発表)兼任で人事権も掌握、教職員は異を唱えられない状況の中で上意下達体質が蔓延していたようです。
とても自己修正が機能する環境や体制ではありません。ここでは現在政府部内で進行中の、森友・加計問題に横たわる、幹部職員の人事権をもつ内閣人事局と行政幹部職員との関係性との類似点を見ることもできます。
以上の3つのキーワードから見てみると、すべてが欠けていることは明白でこれが現在の迷走を招いていると言って良いでしょう。
問題発生から1カ月がたちましたが、弁護士7人で構成される第三者委員会は今後、選手らに聞き取り調査を行い、7月下旬をめどに再発防止策などをまとめる方針を打ち出しています。
しかしながら田中英壽理事長が一度も顔を出さない中での、第三者委員会調査のあり方自体についても各方面から疑問が出ています。
折しも11日、日本大学教職員組合は田中理事長の辞職などを求める要求書を大学側に提出しています。このように日大側の対応は後手後手に回り、その結果、日大のブランドは大きく失墜しています。
記憶に新しい2000年の雪印乳業食中毒事件に見られるように、危機管理への対応のまずさは企業では命取りになることを日大関係者は肝に銘ずるべきです。
第三者委員会の判断に頼るのではなく、トップ自らが多くのステークホルダーに説明責任を果たすことが必要です。大学が自浄能力を発揮できるかしっかり今後を見ていきたいと思っています。