アカデミック活動

2018.04.21

世界最大の自動車技術学会SAEから〜化石燃料自動車のソリューションとなる水素技術

皆さんこんにちは、井之上喬です。

4月10日-13日の間、私は米国デトロイトに滞在していました。この地で4月10日から3日間にわたって開催された世界最大の自動車技術学会SAEの世界大会に参加するためです。

基調講演会場では、ショッキングな文字が目に飛び込んできました。壇上の大型デスプレー(写真右)に「従来の人が操作運転する車や修理工場、ディーラー、そしてメディア環境は今後20年で全て消滅するだろう」。思わず唸ってしまいました。

化石燃料自動車の販売禁止への流れ

参加者1万5千人を超える大会に、日本からは水素研究の第一人者である山根公高博士(水素エネルギー研究所代表)が最終日の13日、将来の内燃機関水素自動車をテーマに発表しました。山根先生は私が主宰し、2009年にスタートした「水素研究会」の主要なメンバーです。

3月には伊ベネチアで「変化への対応:地球温暖化と脱炭素社会」をテーマに催された国際シンポジウムにキーノートスピーカーとして招かれ、私もご一緒しました。
世界13億台の自動車のうちの4分の1が商業自動車(トラック・バス)。その大半がディーゼル燃料を使用していると言われています。

ドイツ、フランス、イギリス、オランダ、ノルウェー、インド、中国などは次々と深刻な環境問題を背景に、近い将来のディーゼル燃料を初めとする化石燃料自動車の販売禁止を発表しています。

そうした中、山根さんはクリーンでCO2を排出しない水素を燃料とする商業車用水素車について大胆な提案を行いました。40年に及ぶ研究の集大成とした、山根さんの満を持した発表は会場に大きなインパクトを与えました。

会期中米国NEC社長の池野昌宏さんが多忙にも拘らず駆けつけてくださいました。ポール・ラバラ事務局長はじめグローバルビジネス学会メンバー4人が奇しくもデトロイトの夜を楽しむこととなりました。

デトロイトに先立って、ニューヨークではTwoSigmaのデビッドシーゲル共同会長やNYU大学院でPRを学ぶ教え子と再会したり、ボストン大学訪問では久しぶりに、パブリック・リレーシヨンズ(PR)の教鞭を執るDon Wright教授やOtto Lerbinger教授らと旧交を温めました。

全世界の自動車関係者が一堂に集まる2018年度World Congress Experience(主催:米国自動車技術学会)での山根さんの発表について、ご本人からの情報に基づいてその背景と概要を記します。

日本発水素技術「山根モデル」

山根さんは、「2000年に入って、地球上の気候変動現象がより厳しい方向に向かっていることを強く感じている。この現象は地球温暖化問題と国家安全保障にも直結するもので、その深刻化は世界で大きな注目を浴びるようになった」としています。

また、「自動車メーカの最新の技術を持っても、ガソリンやディーゼルを燃料とする従来の化石燃料自動車の継続利用は不可能となる。今後さらに厳しくなる燃費規制、排気規制に如何に対応するかが大きな課題となる」と新しい取り組みの背景を語っています。

「日本が40年以上の歳月をかけて研究開発してきた最も新しい水素内燃機関技術を紹介して、世界の自動車エンジニア全員が協力して我々が目指す地球温暖化問題と国家安全保障問題を早期に解決すべく取り組みたい」と次のような具体的な考えを熱く訴えました。

  1. 水素内燃機関がその目的を達成できる理由と必然性
  2. 課題となっている水素燃料価格の低減とステーション数の増加を可能にする方法の提案
  3. 社会的な話題となっている燃料電池自動車や電気自動車に比べ、これまで水素内燃機関への関心が何故低かつたかの理由

山根さんは、「最先端の技術を利用した水素内燃機関自動車は、その性能において現在世界の商業車の90%を占めるディーゼル自動車と比べ、同等以上の優れた製造ができる。また、同じ水素を燃料とする燃料電池自動車と協働して、水素の社会的インフラ整備を加速させることが可能になる」としています。

写真左からポール・ラバラ事務局長、筆者、山根博士

 

2018年度World Congress Experienceで発表された「山根モデル」は地球温暖化と化石燃料枯渇化両方のソリューションとなる大きな可能性を持ちます。私たちパブリック・リレーションズ(PR)の専門家にとっても、大きな変革期を迎えた自動車業界がリレーションシップ・マネジメントを主体としたパブリック・リレーションズをどのように機能させ、その有効性を実証していくか、チャレンジングな課題となっています。

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