アカデミック活動

2024.12.09

「失われた30年検証研究会」の報告書が今月発刊
~国家経営が不在の日本の政治

こんにちは井之上喬です。皆さんお元気ですか?

早いもので2024年も12月に入りました。東京では、遅まきの紅葉とクリスマスの飾りつけがあちらこちらに見られます。

懸念される米国大統領選の影響

11月は、「史上最大の選挙イヤー」の締めくくりとなる米国大統領選挙が5日に実施され、大方の予想に反しトランプ前大統領が圧勝、大統領への返り咲きを果たしました。来年1月20日の大統領就任を前に、新組閣人事や世界の要人たちとのコミュニケーションを着々と進めています。7日には、パリのノートルダム大聖堂の修復完了を記念する式典に先立ち、ウクライナのゼレンスキー大統領、フランスのマクロン大統領と会談し、内外に自らのプレゼンスを高めています。

分断、格差拡大が進む内政や、ウクライナ戦争をはじめとする外交、選挙戦で言及していた諸外国への関税の引き上げに加え所得税や法人税の減免などの経済政策、そして不法移民の強制的な国外送還など、注目される政策は多く、大統領就任後には次々と決定・実施される予定です。これらの政策が今後の世界情勢に大きく影響するのは明白です。

懸念されるのは、大統領の身近な関係者で人選が進んでいること。大統領は国の最高権者であり、その意向が政治の執行に反映されるのは当然です。しかしそれは、何でも自分の思い通りにしてよい、ということではありません。国内で意見が異なるさまざまな人々、あるいは他国も含め、多様なステークホルダーと意見交換(双方向コミュニケーション)し、他者を尊重していくこと。そして一方的に相手だけに変化を求めるのではなく、お互いに変わり(自己修正)ながら、共存共栄を目指すこと(倫理観)が大切です。単なるアメリカ・ファーストではなく、地球規模の視点に立った、次世代に禍根を残すことのない政策の実行を望みたいものです。

「失われた30年検証研究会」記者会見

42人の有識者のヒアリングとそれをもとに提言をまとめた報告書

以前もこのブログでご紹介しましたが、私が代表理事を務める日本パブリックリレーションズ学会が、2年間かけて42名の内外の有識者に対するヒアリングを通して検証する「失われた30年検証研究会」の記者会見を先日、日本外国人特派員協会(FCCJ)で開催しました。

メディアから多くの記者が参加したFCCJでの記者会見

このプロジェクトは私が座長を務め、チーフリサーチャーには、もと日本経済新聞の論説委員を務めた関口和一さん、シニアリサーチャーには元財務副大臣の藤田幸久さんら5人のメンバーが加わり実施してきました。今年6月に最後のヒアリングを終え、12月中に報告書と政策提言が書籍として発刊されます。
研究会のヒアリングには各界から42名の有識者の方に講師をお願いしました。2022年6月、第1回の東京大学の伊藤元重・名誉教授に始まり、白川方明・元日本銀行総裁や野田佳彦・元内閣総理大臣などにもお話を頂き、今年6月の最終回第42回には、このたび内閣総理大臣に就任された石破茂・元自由民主党幹事長が講演されました。

あいさつする検証委員会の井之上座長

関口和一・チーフリサーチャー

FCCJでの記者会見には、これまでの講師から、黒川清・日本医療政策機構代表理事(元日本学術会議会長)、神津里季生・全労済協会理事長(元連合会長)、千本倖生・京都大学総長特別教授(KDDI共同創業者)、東郷和彦・静岡県立大学客員教授(元オランダ駐在大使)、藤田幸久・国際IC日本協会会長(元財務副大臣&当研究会シニアリサーチャー)の皆さんが登壇。石破茂総理と野田立憲民主党代表からもメッセージを頂きました。

黒川清・日本医療政策機構代表理事

神津里季生・全労済協会理事長

政策提言を盛り込んだこのプロジェクトが目指すのは、よりよい日本の実現につなげること。結果を見るまでには長丁場になるでしょうから、クラウドファンディングを始めました。日本語の報告書に加え、将来英語版の発行も考えております。皆様のお力添えを、心よりお待ちしています。

提言の分野や内容は異なっても、通底するのは、多様なステークホルダーとの良好な関わりを通して目的や目標を達成するマルチステークホルダー・リレーションシップマネージメントである、パブリック・リレーションズ(PR)の考え、手法の大切さです。人工知能(AI)の登場で、利便性が向上する一方で情報は錯綜し、世界はますます複雑化しています。しかしどれだけAIが発達しても、判断を行い、実際に行動するのは私たち人間であることに変わりはないからです。

千本倖生・京都大学総長特別教授

東郷和彦・静岡県立大学客員教授

藤田幸久・国際IC日本協会会長
  

石破総理、野田代表からのメッセージ

記者会見では、石破茂内閣総理大臣および野田佳彦立憲民主党代表からメッセージを頂きました。ここで、記者会見で読み上げられた、お二人のメッセージを紹介します。

石破茂 内閣総理大臣からのメッセージ 

「『失われた30年』の教訓を次世代に伝える皆様の取り組みに深く敬意を表します。日本は戦後最大の変化の中にあり、日本の経験が国内外に向けて広く発信され、本提言が新しい国を形づくっていくための礎になることを期待しています」

野田佳彦 立憲民主党代表からのメッセージ

「『失われた30年』について専門家の皆様が2年間にわたり検証されたプロジェクトに感謝申し上げます。日本は前例のない困難に直面していますが、学会の皆様による情報発信を通じた平和と社会発展への貢献に期待しています」

ヒアリングメンバー42名の中で政治家の方は2人だけでした。講演された後、お二人は偶然にも、それぞれ自民党、立憲民主党の代表となりましたが、これも何かの縁と思い、今後も特定の政党に偏らない、広く客観的な取り組みを考えていきたいと思います。

またお二人は、現在・過去に首相となられていますが、日本ほど、国政のトップである内閣総理大臣が目まぐるしく変わる国はありません。いま日本は、1人当たり賃金を韓国に抜かれ、国際競争力も、1993年の世界1位から2024年は38位と、どん底の状態です。新生児数もピークの時の1949年の269.7万人が2024年は70万人を切り60万人台になるのはほぼ確実です。就任した首相の数も、1947年から現在までの77年間で、日本では実に58回(重任含む)も首相が変わっています。つまり在任期間は平均1年半にも満たない状況です。これで巨大な国家の安定した運営ができるとは到底思えません。民間企業であればとっくに倒産でしょう。その原因は首相に解散権を与えていることからきているわけですが、憲法の改正も含めて抜本的な改革が求められています。

11月28日に始まった衆議院の臨時国会は、自由民主党・公明党は過半数を割り、これまでのような数の論理で、新規法案の1つであっても強引に国会審議を進める事はできなくなりました。野党の声に、より耳を傾けながら審議を進めていくことが求められるようになります。この姿は良い意味で理想的な民主主義の姿になるのではないかと、個人的には大いに期待しています。

上でもふれましたが、「失われた30年検証研究会」は提言に止まらず、明確な形にすることが最終目標です。政党色を持たない、学会としての私たちの提言、国民のためだけに目を向けた私たちの提言が、2つの政党にとどまらず、他の政党においても真剣に検討されることを心から願っています。

 

クラウドファンディング:「失われた30年」を検証し、今後の30年につなげる提言書を発行する

提言書籍の出版につきまして、クラウドファインディングでのご協力をお願い致します。

書籍

注目のキーワード
                 
カテゴリ
最新記事
アーカイブ
Links

ページ上部へ