アカデミック活動
2008.04.19
人間教育を軸に世界をリードするビジネススクール、IESE(イエセ)〜MBAの新しい潮流
こんにちは、井之上喬です。
みなさん、いかがお過ごしですか。
いま世界のさまざまな事象に変化が起きています。長期化するイラク戦争、米国のサブプライムローン問題に端を発した世界金融不安を見ても分かるように、いまやこれまで機能してきた米国のシステムが世界全体をリードすることは困難になってきています。
さまざまな分野で新しいシステムが模索される中、50年間にわたり世界の経済界に大きく貢献してきた、スペイン発のビジネススクールがあります。それはIESE(イエセ)経営大学院。1958年創立の同校は、1964年にハーバード大学と提携。ヨーロッパでは初の2年制MBAコースを創設しました。
物事の裏には必ず人間がいる
IESE(イエセ)経営大学院の本拠地はスペインのバルセロナ。ナバラ大学に設置された経営大学院です。その拠点は世界各地にあり、マドリード、ニューヨーク、ベルリンなどにはキャンパスを有しています。
イエセ経営大学院の評価は高く、エコノミスト誌のMBA世界ランキングでは2年続けて(2005年、2006年)1位を獲得しているのをはじめとし、欧米の経済・経営誌のランキングでは、常に上位に位置。特にビジネスケース作成において定評があり、その実績はアメリカでも広く知られています。先日そのイエセ経営大学院のメンバーが来日。日本工業倶楽部で同校創設50周年を記念するセミナーが開かれました。私も長年の友人でイエセと関わりの深い、地球ボランティア協会専務理事の稲畑誠三さんから誘われ参加。
なぜスペインから世界的なビジネススクールが生まれたのか不思議に感じるかもしれません。講演会でまだ40代後半のエネルギーに満ち溢れたカナルス学長は、「世界で一番の影響力を持つ学校となる」ことを目標に事業を展開してきたと述べました。
なんといってもこのビジネススクールで特徴的なのは、人間に焦点を当てた教育姿勢です。IESE(イエセ)が掲げるミッションは、「教育を通じで社会の発展に貢献する」ことです。そのミッションの軸にあるのは、世界で展開されている物事の裏には人間がいるという思想。どのような時にもぶれない規準を与えてくれる、あらゆる経営判断にもその背後にある基準に倫理的判断を加える。それがイエセの教育哲学といえます。
その高い評価は、人を軸に、特に人格や倫理的な側面を重んじてカリキュラムを作成し、ビジネス上の問題の分析能力と意思決定のスキルの向上は無論、人格的に覚醒されたリーダー育成に成功していることからきているのだと思います。
成功に必要な3つの要素
グローバル化の中で大きな問題となるのは地域ごとの多様性。IESE(イエセ)ではプログラムの中で、地域ごとにおける文化的社会的な差異を学習できるよう、 教授陣を23カ国から迎えています。また、ビジネスとの直接的なつながりを重視した同校のインターナショナル・アドバイザリー・ボードは、ボーイングやエリクソン、マイクロソフトといった世界的な企業のCEOや最高経営幹部で構成されています。
今回来日したメンバーのひとりゲマワット(Pankaj Ghemawat)教授は、ハーバード・ビジネススクール時代、最年少教授として若干31才で就任(1991年)した俊英。同教授は、2007年に自著 Redefining Global Strategy を発表(邦訳書は2009年2月発売予定)。グローバル化する世界に必要な枠組みと実践に必要な取り組みを紹介しています。彼は同書で、これからのビジネスの成功は、「多様性への適用と多様性の抱合、そして多様性の活用」というグローバル時代に重要な3つの要素のバランスからもたらされると述べています。
まさにこれまでの経済的成長を基盤としたビジネス・モデルから、新しい価値観を持ち合わせたグローバルビジネスの成功モデルに必要とされる概念を提示しているといえます。
1学年210名を受け入れるイエセ経営大学院は、毎年日本から十数人が企業から派遣され学んでいるようです。
急速にグローバル化する21世紀。これらの新しい取り組みは、組織体が目標達成のために機能することを求められるパブリック・リレーションズの取り組み姿勢でもあるともいえます。深刻化する環境破壊、食糧危機、民族紛争などその解決には多様性の抱合なしで世界は立ち行きません。それを可能とするのは人間の意志です。人間の意志を有効に機能させ世界をリードできるシステムが今求められています。
IESEの試みもそのひとつ。セミナーに参加してヨーロッパ型の成功を目の当たりにし、脱アメリカ型の潮流がビジネスの世界でも確実に始まっていることを再認識した気がします。