こんにちは、井之上喬です。
みなさん、いかがお過ごしですか。
「SONYが世界を狙うためニューヨークに行ったように、私も東京に来ました」と語るマーク・ブックマン(Marc Bookman)さん。SONYが全盛の80年代後半に同社に入社し、7年間の在籍中に盛田会長の薫陶を受けた方です。
その後シリコンバレーでベンチャー企業を起業。携帯検索エンジンのプラットフォーム開発会社、Mobile Content Networks, Inc.(MCN)を設立しました。先日、同社の社長兼CEOであるブックマンさんを 早稲田大学の私の授業、「パブリックリレーションズ 概論」の講師にお迎えしました。テーマは「パブリック・リレーションズと組織体」。
リスクを取って夢を実現
MCNは私の経営する会社、井之上パブリックリレーションズのクライアントでもある企業。彼らの特徴は、携帯での検索結果が2-3回のクリックでスピーディに表示できる技術。今年10月、米国シリコンバレーから東京へと本社機能を移し日本から世界市場を見据えるユニークな企業です。
外国企業のジャパンパッシングが増大するなかで、彼らの心を動かしたのは世界最先端を行く日本の携帯電話のコンテンツ技術とユーザー数9000万を超える市場の大きさ。加えて中国やインドなどの高い潜在性を持つ巨大市場が存在するアジアに位置するという利点。日本からアジア、米国、欧州を攻略する大胆な戦略はいま業界の関心の的になっています。
講義では、まず「リスクをとってイノベーションに取り組むベンチャー・スピリット」の重要性を掲げました。そして日本ではまだ意識されていない、リスクを取りながら自分の夢を実現する素晴らしさを強調しました。 そのなかで、パブリック・リレーションズはブランディングや顧客創造など様々な角度からイノベーションを支える手法であるとし、企業経営におけるその有用性を語ってくれました。
ブックマンさんは2002年に携帯型通信機器上での情報検索に関する調査を開始。ノキアに努める旧友との話から、ノキアのプロジェクトを獲得し2005年にはMCNを設立。
彼はベンチャー企業の成長過程や資金調達のメカニズムなどについて、「アメリカでは、初期の投資にはより大きなリスクを伴うことを株価に反映させているため、早い段階での投資ほど安価な株を取得できるのが特徴」と、ベンチャー企業の成長過程や資金調達のメカニズムなどについて学生にわかりやすく語ってくれました。
一般的に、株式公開(IPO)に向けたベンチャー企業の成長過程には、アーリーステージ、ミッドステージ、レイトステージの3段階あります。また資金調達の段階では、シリーズ(ラウンドともいう)A(第1回目の資金調達の意味)、B(第2回目)、C(第3回目)以下必要に応じて調達。MCNは現在、ミッドステージの資金調達中。
また、ベイパーウェア(vaporware:競合への顧客シフトを抑制するため、完成の目処がないのにPR活動を展開する製品のことで、悪い意味を持つ)を例にとり、「歴史のないベンチャー企業にとって『信用』は財産」と、パブリックから信頼を得るためには誠実さをもって事業を行うべきであると、誠実であることの重要性にも触れました。
ターゲットの興味を連鎖的に引き出す
ブックマンさんは「パブリック・リレーションズには何よりも戦略が大切」であることを強調。その例としてMCNがBtoB(企業顧客)つまり携帯通信会社(キャリア)をビジネスターゲットとする企業であるにもかかわらず、同社携帯エンジンに関する記事が11月に一般紙である朝日新聞に紹介されました。
2-3回のクリックで好きな検索情報が得られることは携帯ユーザーにとっても朗報。この強みを生かしてパブリックへの認知度を高めることでドコモやソフトバンクなどのキャリアの注目を引くことも可能であると説明。パブリック・リレーションズでは、戦略を軸に様々な角度からターゲットの興味を連鎖的に引き出すことで大きな成果が得られると語りました。
講義の後に受講生から飛び出した、「日本の良い点、悪い点は」とする質問には、約束したことを守る日本人の文化的秀逸性について語り、日本での仕事はスムーズに展開できていると答えました。一方、難しい点は、社員の本音を把握すること。ブックマン社長は「日本は自己主張をしない文化。社員の本音を引き出し、不満が問題化する前に解決する努力をしている」と語っています。
教室には、マーケティング担当副社長のスティーブ・バークさんの姿も見えました。彼もSONYに11年間在籍し、海外のコミュニケーションの責任者をしていた方です。MCNは4億5000万人の携帯ユーザーを抱える中国での展開も視野に入れ精力的に活動中。
ブックマン社長の話に生徒も深く共感。東京から世界を見据えるベンチャー企業家として、かって尊敬するSONYの盛田さんが世界進出の際に、巨大マーケットである米国ニューヨークに本拠地を置き飛躍したように、東京から世界への躍進を夢見て事業に取り組む彼の姿に心打たれたようでした。ブックマンさん、本当に有難うございました。MCNの成功を心より願っています。
本号で今年最後のブログとなりました。この1年、井之上ブログをご愛読いただき誠にありがとうございました。また来年もよろしくお願い致します。
皆さんには良い新年をお迎えくださいますよう祈念いたします。
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