アカデミック活動

2007.12.16

資生堂相談役、池田守男さんを授業に迎えて

こんにちは、井之上喬です。
みなさん、いかがお過ごしですか。

先日、資生堂の相談役の池田守男さんを早稲田大学の私の「パブリック・リレーションズ 概論」の授業にお迎えしました。テーマは「パブリック・リレーションズと組織体?資生堂にみる経営の真髄」で、ご本人のビジネス哲学ともいえる「サーバントリーダーシップ」を中心にご講義頂きました。

「PRは隣人愛そのもの」

講義の冒頭、組織体経営にとって「倫理観」が何よりも重要であると語りました。次に自ら進んで他者に手を差し伸べる精神である「隣人愛」について触れ、「パブリック・リレーションズは隣人愛そのもの」として、あらゆる関係性を充実させるパブリック・リレーションズの重要性を語ってくれました。

池田さんは、香川県高松高校を卒業後上京し、牧師を目指し神学校を卒業します。しかし、もう一度社会に戻り社会の役に立ちたいと資生堂に入社し秘書室に配属。その後、取締役秘書室長、代表取締役副社長、代表取締役執行役員社長、会長を歴任。現在は同社の相談役として、数々の団体や政府委員会などの要職に就き、講演活動など広く活躍されています。

池田さんとの最初の出会いは1990年代初め、池田さんが秘書室長時代。中曽根政権で外務大臣をしていた倉成正さんの定例早朝勉強会に当時の資生堂福原社長の代理として出席されていたときでした。私とは精神性で共有するものがあったこともあり、以来時折、食事をご一緒したり、出版パーティにお越しいただくなど交流をさせていただいていました。

講義の中で池田さんは、今日の物質主義の行き過ぎを危惧し、薬師寺の元管主高田好胤の言葉「物で栄えて、心で滅びる」や同郷の大平正芳総理(当時)が施政方針演説で発した、「経済の時代から文化の時代へ真の生きがいを追求する社会を」などを引用し、経済性の追求に加え人間性・社会性・文化性を追求する精神性の充足こそ21世紀の取り組むべきテーマであることを明示しました。

池田さんは企業の取り組みとして日本経団連が2002年と2004年に行なった企業行動憲章の改正に触れ、コンプライアンスの強化や企業の社会的責任(CSR)を推進する取り組みを紹介。一方で、いまだ企業不祥事が頻発している現状を憂慮し、コンセプトの具体化が急務であると強調しました。

また池田さんは、教育再生会議委員(座長代理)を務め、昨年60年ぶりに改正された教育基本法の改正に中心的な役割を果たしています。池田さんは人づくりの基本となる教育の重要性にも触れ、日本児童の世界における学力水準低下を憂慮しつつ、戦後教育における個人の過度な自己主義偏重の弊害を一掃し、他者の存在を尊重する精神に支えられた公共の精神を人々の中に育てなければならないと説きました。

池田さんは、2007年4月発足の公益認定等委員会の委員長。そこでは「公は官が担う」とする考え方から脱却し、「民間が公共を担う」ことで民と官の橋渡しが可能となり、社会全体が厚みをまし真の豊かさが感じられる社会の実現が可能となるのではないかと語っています。

1つのビジョンの下に仕える

「仕える」「支える」を生活信条とする池田さん。秘書を天職とし、「秘書はまさにサーバントである」を会得。しかし「仕える」とは、闇雲に仕えることでなく、1つのビジョンの下に仕えることを意味すると強調。このコンセプトについては、池田さんの著書『サーバントリーダーシップ』(2007年 かんき出版)に細述されているので、興味のある方は是非、ご一読をお勧めします。

池田さんは2001年資生堂の社長に就任した際、お客様の視点に立った徹底的な改革を提案。戦略的には、創業の精神に回帰し、新しい視点で解釈。組織的には「社長は全社員のサーバントに徹する」と宣言。その斬新な経営理念のもと見事に資生堂を復活へと導きました。
池田さんはその大改革をリレーションシップを良好にする改革と位置づけ、パブリック・リレーションズの本質を体現するケースだと振り返りました。

具体的には、資生堂の名前の由来である易経の一節「至哉坤元、万物資生( 天地のあらゆるものを融合し、新しい価値を創り、その価値をお客様や社会にお役立てする)」とする創業の精神を、各部署の視点で具体化し、全社に浸透させたこと。そして「信頼」こそ経営の原点としパブリックから信頼を獲得するため、お客様、小売店、資生堂の3者の接点である「店頭」から商品群や流通の見直しなど全ての仕組みを改変した経緯を説明してくれました。

また、その精神を反映する逆ピラミッドの組織図について、理念・信条・方針はトップダウンで行なうが、それを具体化する際には改革の中心となる「店頭」をトップや逆ピラミッド組織の下であるトップが支える、サーバントリーダーシップ型が有効であるとしました。
時間は瞬く間に過ぎ、講義の後には受講生から質問が活発に飛び出しました。

講義後、ある受講生から「経済性が追求される企業経営で大切にすべきことは何か?」との質問に対し、池田さんは、企業の永続性を担保する経済性と社会性の両立が大切であり、競争の中にも多様性の尊重や互助・互恵の精神が必要。これらを醸成する関係性の構築が企業の取り組みに求められると述べました。

続いて「サーバントリーダーシップの原点は何か?」の質問に対し、池田さんは幼少体験を取り上げました。故郷の高松に訪れる四国八十八箇所を托鉢して巡るお遍路さんとの交流を通して、差し上げて食べて戴くという気持ちで接していたであろう祖父母の思いを回想。そしてその思いが「自ら生きているのではなく多くの恩恵の中で生かされている」「人のお役に立つ存在になりたい」とする考え方へと発展し自らの原点を築いたと語ってくれました。

最後に池田さんは受講生に、「知をもって社会全体へ役立たせて頂くという気持ちを強く持ち続けて欲しい。そうすれば社会は厚みのある豊かで素晴らしいものになっていく」と力強いメッセージを送り授業は終了しました。

池田さんの抑制のきいた熱い言葉は、パブリック・リレーションズを深く理解し、隣人愛の精神をビジネス現場で実践してきたひとりの経営者からの受講生への熱きエールとして、一人ひとりの胸に深く刻まれたことでしょう。
池田さん貴重なお話し本当にありがとうございました。

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