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2014.02.20

家族力大賞から『きずなづくり大賞』へ〜家族と地域のリレーションシップ・マネジメント

こんにちは、井之上喬です。

毎年この時期になると、社会福祉法人東京都社会福祉協議会(古川貞二郎会長:元内閣官房副長官)が主催するエッセイ・コンテストの表彰式が行われます。今年は2月12日、昨年と同じ京王プラザホテル43階「ムーンライト」を会場に催されました。

2007年にスタートした「家族力大賞」は7回目を迎える今回から、家族に留まらず、人と人、家族と地域とのきずなやつながりの体験をより多くお寄せいただきたいとの願いをこめて新たに、「きずなづくり大賞」と改称しました。

新呼称のもとで、広く体験談を募集したところ、今回も多くの心あたたまる作品が寄せられました。

古川会長はエッセイ・コンテストの役割について、「作品には家族や地域の新しい関係を築くための多くのヒントが含まれていると感じました。これらの貴重な体験と実践が、家族や地域のあり方を考え、地域の力をより一層高める一助となれば幸い・・・」と述べ、寄せられた作品を通して得られた多くの気づきやアイディアが、今後の福祉行政に活かされることへの期待を表明していました。

今回は、入賞13作品の中でも私の心に強く残った2つの作品を紹介したいと思います。

学び塾「猫の足あと」

先ずは、東京都知事賞に輝いた岸田久恵さん(西東京市)の『学び塾「猫の足あと」』。

「4月、玄関先に顔を見せた修介君(仮名)は、はにかんだ笑顔で自分のお小遣いで買ったチョコレートの箱を差し出し、お礼の言葉とともにぺこりと頭を下げて。」という文章から始まる「猫の足あと」塾は、都立高校を志望する、塾に行っていない中学3年生を対象とした無料学習塾のことです。

作者の岸田さんは小学校教師。子供の貧困問題に関わるようになって、「お金がなくて学校へ行けない」実態に強く心を痛めることになったといいます。

ちょうど保険証がなくて病院に行けない子供、給食のない夏休みに痩せてしまう子供のことが報道された頃のこと。

教材費や給食費が払えない、修学旅行の費用が出せなくて参加しない、入学金や授業料が払えず進学を断念する子供や学生のことも知ります。経済格差が教育格差につながっていることも実感します。

教師として学校の中だけでできることの限界を感じていた岸田さんは、家族全員で話し合いある決心をしたのでした。

2011年、岸田さんが代表で、大学2年生の娘さんが副代表、そして中学校数学教師の旦那さんが顧問というように、一家総出の自宅での学習塾がスタートします。

名称は大学受験を目指す息子さんの発案で猫に関係のある名前の学び塾「猫の足あと」と決定。

2人の塾生で1対1の勉強会がスタートしますが、やがて5人になり娘さんの友達も教師に加わります。週1回が基本の塾は、受験が近づくと3-4回行います。そして勉強の合間に夕食を一緒に食べます。

塾生の一人修介君(仮名)は、知り合いの先生から「ぜひお願いしたい」と紹介された市内の中学3年生。

修介君は、学校での集団授業が合わず理解が進まないこと、不況やお父さんの病気が重なり通学が経済的に厳しい状態にありました。

塾で学んだ修介君は都立の定時制高校への進学を果たします。
この学び塾を通して岸田さんの息子さんは将来自分の進む道が決まったといいます。現在大学で教師を目指して勉強しているとのことです。

『みんなで子育て あずかりあい「あいあい」』

2つ目の作品は東京都社会福祉協議会会長賞のなかから前田京子さん(品川区)の『みんなで子育て あずかりあい「あいあい」』です。

商業ビルの建ち並ぶJR大井町駅のすぐ近くに品川区立大井倉田児童センターはあります。その一室で行われているのが2004年からママさんたちの自主的な活動として続いているあずかりあい相互支援自主サークル「あいあい」です。

来年で10年を迎えるこの活動は、当時3歳の子どもを育てていた前田さんの孤独な子育て体験から産み出されたものでした。

子育てに日々悪戦苦闘するそんな時に、カナダのプレイグループについて書いた本(『地域から生まれる支えあいの子育て―ふらっと子連れでDrop・ln!』小出まみ著)に出合いました。

そこには、数人のお母さんが協力することで、当番のときには数人の子どもを預かるけれど、自分が当番じゃないときには子育てから一瞬解放され自由な時間が持てる―こんな素敵な活動が紹介されていたのです。

これを読んだ前田さんの中にピーンとひらめきが走り、日本版プレイグループあずかりあい「あいあい」の誕生に繋がったといいます。
活動をさらに大きく広げていきたい、と思っていた矢先、前田さんの夫の転勤で東京を離れなければならなくなりました。

その後6年間、東京を離れていた前田さんが縁あって再び東京に戻ってきたところ…「あいあい」は若いお母さんたちに見事に引き継がれて、続いていたのです。

前田さんがはじめた「みんなで子育て」は、コミュニティ活動としてしっかり根付いていたのです。

紹介した2作品の他にも深い思いや共感、連帯感、更にはさまざまな課題に立ち向かう力強さなど感銘するストーリーが沢山ありました。

例えば、息子さんの結婚式に際し、子育ての時に自主保育で助けあった血縁のない仲間達が祝福に駆けつけてくれ、家族的な結びつきを実感した作品(東京新聞賞:小山澄子さんの『親族代行作戦』)。

団地の空き店舗を借りて、地域の子どもから高齢者までが集える居場所づくりに取り組んだ作品(東京都社会福祉協議会会長賞:吉?洋子さんの『地域の空にはばたけ!「コミュニティスペース・つばさ」』)などです。

きずなを感じさせてくれた話の中に、ソチのオリンピックでのジャンプの葛西選手やスケートの羽生選手の言葉があります。

銀メダルに輝いた葛西選手は「僕を産んでくれた両親、いつも僕を支えてくれた一番大事な母、母が亡くなってから僕を支えて応援してくれた姉、妹にもメダルを獲って恩返しがしたいと思っていた」とインタビューに応えています。

また、日本に金メダルをもたらせた羽生選手は、「たくさんの方々に応援していただいて最高の結果を残せた」と謝意を述べています。

これまで何度かこのブログの中で、パブリック・リレーションズ(PR)は、主体(企業・組織・個人)を取り巻くさまざまなステークホルダー(パブリック)との間のリレーションシップ・マネジメントと紹介してきました。

「きずなづくり大賞」の入賞13作品においても、また、葛西選手や羽生選手のコメントにおいても、家族や地域社会の協力と支えが目標達成に大きな力となっている様子が窺えます。換言すれば、インターナル・リレーションズやコミュニティ・リレーションズの成功事例ともいえます。

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