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2012.09.24
暑さ寒さも彼岸まで〜「芸術の秋」の訪れ
こんにちは井之上 喬です。
「暑さ寒さも彼岸まで」という慣用句を皆さんもご存知のことと思います。冬の寒さ(余寒)は春分頃まで、夏の暑さ(残暑)は秋分頃までには和らぎ、凌ぎやすくなるという意味です。 実際、気象庁の観測データとこの慣用句とは概ね重なるようです。
先週末は秋分の日でした。あの猛暑も何処かへ行ったように暑さも和らぎ、虫の音にも秋の訪れを感じる今日この頃。今回は「芸術の秋」をテーマにお話します。
この1年、芸術鑑賞した人は67%
日経産業地域研究所のインターネット調査によると、この1年間で美術展や映画、演劇などを鑑賞したことがある人は全体の67.0%だったとのことです。
1年間に1回は施設に足を運んで鑑賞したと答えた人の中で最も多かったのは映画館で50.9%。美術展が27.8%、そしてポピュラー音楽が18.9%という順でした。
映画館やポピュラー音楽は若い世代ほど行った人が多く、逆に美術展は60代の42.0%が行ったと答えるなど、年齢が上がるほど美術展へ行く人の比率が高まる傾向を示しています。
芸術鑑賞の頻度については美術展や映画、演劇など各分野とも前年に比べて「変わらない」が最多でしたが、「減った」は「増えた」より多い回答がありました。これは昨年の東日本大震災後に公演の中止・延期が相次いだことが影響しているようです。
芸術鑑賞した人が1年間に支払った入場料の合計は平均でおよそ1万6000円。分野別では「演劇・ミュージカル」が1万8430円と最も高い数字を示しました。
「今後、芸術鑑賞に行く機会を増やしたいか」の質問に対しては、60代の積極姿勢が目立ったとのこと。芸術鑑賞の頻度は全体的に低下傾向にあるものの、シニア層を中心に関心は高いようです。
故・淀川長治さんは最高のPRパーソン
前々回のブログで、高倉健主演の映画「あなたへ」を紹介しました。夫婦の愛の深さや感動的な出会い、そして画面いっぱいに拡がる抑制のきいた秋の季節感など、今でも鮮明な印象とともに想い起すことができます。
こんなに素晴らしい感動を与えてくれた映画産業も長年の不況から脱しきれずにいます。日本映画製作者連盟の調べによると、2011年の日本の映画興行収入は約1811億円。前年比で20%程度減となり、過去5年間で最も低い水準に落ち込んでいます。
この1年間に映画館で映画を鑑賞した人は全体の45.3%にとどまっています。また、1年以内に鑑賞した映画本数が前年に比べてどう変わったかについては、「増えた」が全体の10.3%にとどまったのに対して「減った」は3倍の29.9%という結果だったとのこと(以上gooリサーチ)。
10年には「アバター」をはじめとする3D(3次元)作品が映画館でこそ楽しめるコンテンツとして集客力を発揮したが、11年以降は消費者を映画館まで引き込むコンテンツ不足が要因ではないかと分析しています。
私たちの時代には、ヨドチョーさんの愛称で親しまれ、その独特の語り口からサヨナラおじさんと呼ばれた淀川長治さん(1909-1998)や「いやぁ、映画って本当にいいもんですね〜」のセリフで知られる水野晴郎さん(1931-2008)といった映画評論家が映画を本当に楽しく紹介してくれました。
私たちパブリック・リレーションズ(PR)専門家の視点からは、淀川さんも水野さんも映画と大衆とのリレーションシップを拡げ、かつ高めたインフルエンサー、そしてPRパーソンとして位置づけることができます。
その後、淀川さんや水野さんのような魅力ある人材が映画界に登場してこなかったことも映画産業が不況に陥った要因の一つではないかと私は思っています。
年間の芸術鑑賞者67%という数字は、逆に約三分の一の人が美術展や映画、演劇などを鑑賞したことがないことを指しています。
私のブログで今年1月、2012年は美術展の当たり年で、「美術展の10年に1度の当たり年」と専門家のコメントを紹介しました。この秋は美術展に限らず「芸術の秋」を多くの方に楽しんで欲しいものです。