パブリック・リレーションズ
2007.02.17
井之上ブログ100回記念特集〜Effective Public Relations 〜世界中で愛読されている、米国初のPR公式教科書の紹介
こんにちは、井之上喬です。
皆さん、いかがお過ごしですか。
2005年4月4日号を皮切りに週に一度のペースで発行してきた井之上ブログ。本号で100回目を迎えます。読者の皆さん、いつもご愛読いただき誠にありがとうございます。おかげさまで読者数も順調に増えていることを嬉しく思うと共に、毎号、身の引き締まる思いで発行に臨んでいます。
今回は100号を記念して、パブリック・リレーションズ登場・発展の地、米国で、最も多くの人に読まれているパブリック・リレーションズの名著 Effective Public Relations (以下EPR: Prentice Hall Business Publishing)をご紹介します。
世界で親しまれるロングセラー
毎年、数万部もの売上げを記録するEPR。同書はパブリック・リレーションズの教科書と呼ばれ、1952年の初版刊行以来、半世紀以上にわたり愛読されている大ロングセラーです。2006年には第9版が刊行されています。日本でも通称、「カトリップのエフェクティブPR」として知られています。
最新版である第9版は、476ページにわたるA4サイズより一回り大きい大型本。同書ではパブリック・リレーションズを「組織体とそれを取り巻くパブリックの双方に利益をもたらす関係性を構築・維持するマネジメント機能」と定義づけています。そしてこの考え方を軸に、パブリック・リレーションズの理論と実践に必要とされる手法が分かりやすく解説されています。
全体が4部17章で構成されるEPR。第1部ではパブリック・リレーションズの起源とその変遷を発展段階にわけて概観。それぞれの時代に活躍した実務家や研究者のストーリーを交えながら説明しています。第2部では倫理やコミュニケーションなど、PRの理論を支える基盤や原則を解説。さらに第3、4章ではその理論に基づいて、企業や政府におけるパブリック・リレーションズの実際や実践に役立つプロセスや手法を紹介しています。
豊富な情報を満載した同書は、多角的にパブリック・リレーションズを捉え、包括的でバランスよく論じられている良書です。
同書は、米国PR協会(PRSA)も含め複数の団体が参加し行われている、ユニバーサル認定プログラム ( http://www.praccreditation.org/about/ )においても参考図書として認定されています。これまで海外では、スペイン語、イタリア語、中国語、韓国語、ロシア語、日本語などの現地語で出版されています。
このような良書が教材として長い間、大学の教育現場で愛用されている、米国におけるパブリック・リレーションズ教育の懐の深さには目を見張ります。
著者はPR教育のパイオニア
その立役者は、著者の一人であるスコット・カトリップ(Scott Cutlip, 1915-2000)。20世紀を代表する米国におけるパブリック・リレーションズの研究者。ウィスコンシン大学ジャーナリズム&マス・コミュニケーション学科で、29年間教鞭をとり続け、学問としてのパブリック・リレーションズを確立した学者です。
業界の有力誌であるPR Weekはカトリップを「パブリック・リレーションズ教育に正当性を与え、パブリック・リレーションズ教育のベースを築いた人」と評しています。
カトリップの功績は、特に大学におけるPR教育のモデルを構築したことにあります。彼の教え子には、PRを4つのモデルに分類したジェームス・グルーニッグやEPRの後継者グレン・ブルーム等をはじめ、現在第一線で活躍している多くのPR研究者がいます。
現在米国の大学には約600名を数えるパブリック・リレーションズの教師がいるとされていますが、カトリップはそれらの誕生に多大な貢献をしたといえます。また世界中で精力的に講演活動を行なうなど教育者としての彼の秀逸性が伺えます。カトリップは2000年に他界するまで現役でした。PR Weekはカトリップをパブリック・リレーションズ業界における20世紀の重要人物トップ10に選出しています。
一方、EPRの共著者アラン・センター( Allen H. Center,1912-2005)は、ニューヨーク・タイムズ誌の広告事業部を経験した後、米国モトローラ社に入社。後に同社のパブリック・リレーションズ担当副社長を務めた経験を持つ実務家です。センターは、米国PR協会(PRSA)の設立に携わり、2005年に93歳でこの世を去るまで、積極的にパブリック・リレーションズ実務家の専門的地位の向上に努めました。
三人目の著者で、カトリップの弟子でもあるグレン・ブルーム(Glen Broom,1940~)は、1885年に発刊された第6版から執筆に参加。カトリップとセンター亡き後、残された最後の著者として2人の遺志を引き継ぎ、PRの研究に取り組んでいる研究者です。現在はサンディエゴ州立大学の名誉教授。3年前からオーストラリア、ブリスベンにあるクィーンズランド工科大学の客員教授も務めています。
研究者カトリップとブルーム、そして実務家センターのエッセンスが詰まった Effective Public Relations 。日本では以前に『PRハンドブック』のタイトルで日本語訳が出版(松尾光晏・訳、日刊工業新聞社:1974年)されましたが、このたび最新版の第9版の日本語訳が出版されることになりました。日本広報学会の特別プロジェクトで、私もメンバーの一人として監訳活動に参加させて頂いています。順調に進行すれば年内に出版される予定。
原書の方は、来年夏には第10版が出版される予定。昨年夏サンディエゴで初めてブルームさんにお会いしたとき、2008年の第10版発行に向けて奔走中でした。時代と共に改訂版を出版し、常に最先端の情報を読者に提供しようとする精神はEPRのDNAとして、2人の著者が他界した現在も受け継がれています。
英語で476ページを読了するには少し努力を要するかもしれませんが、原書に触れ、米国におけるパブリック・リレーションズを概観してみてはいかがでしょうか。組織体とパブリックの双方の利益に資する行動や双方向のコミュニケーションが生まれた背景、そして米国におけるPRの現状を彼らの言語で理解することは、パブリック・リレーションズをより深く理解することにつながると考えています。
今回は100回記念。読者の皆さん、これまでのご愛読ありがとうございます。毎週の発刊は思いのほか大変でした。多くの方々の励ましをいただき、ここまでこれたことに心より感謝しています。そして、皆さんとパブリック・リレーションズについてシェアできたことをとても嬉しく思います。
これからも、パブリック・リレーションズの奥行きの深さや幅の広さを様々な形で執筆していきたいと思います。今後とも、井之上ブログにご期待ください。
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