先週から今週にかけて株主総会が本番を迎えています。バブル期を越える史上最高益を上げる企業が続出し、3月期決算企業の配当総額も過去最高を更新しています。経済産業省の発表によれば、2005年1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率で4.9%を示しており、日本経済もやっと出口が見え始めている感があります。
近年、国内でも、インベスター・リレーションズ(Investor Relations: IR)活動の重要性が大きく叫ばれるようになりました。時価会計の導入、M&A(企業の買収・合併)の活発化、株式保有比率が20%を超える外国人投資家の台頭、間接金融から直接金融への資金調達先の変化などにより、株主価値重視経営への転換が大きく作用しています。
パブリック・リレーションズとは最短距離で目的を達成するリレーションズ活動で、投資家=インベスターとの関わりをインベスター・リレーションズといい日本では投資家向け広報(IR広報)としています。IRの目的は、インベスターとの相互理解を深め、適正な株価を形成し、企業価値・株主価値を高めることです。投資家に有効な判断基準を提供し、インベスターとの友好な関係を築いていく活動といえます。その実践におけるIR担当者の役割は非常に大きく、その取り組み方次第で結果に大きな差をもたらします。
インベスター・リレーションズについて、米国のPRのバイブル書といわれる『エフェクティブPR』の著者、スコット・カトリップがその書のなかで「IRとは、上場企業で行われるパブリック・リレーションズの一分野であり、株主の信頼を増加させ、個人投資家や金融アナリスト、機関投資家の興味を引くようにすることによって株価を押し上げ資本コストを下げる役割を果たす」とし、「コーポレートPRの専門活動領域として株主や金融コミュニティ関係者との良好な相互関係を構築し維持する活動である」と定義しています。
一方、全米IR協会(NIRI)は、「インベスター・リレーションズ (IR) は、企業、金融コミュニティおよびその他の利害関係者間での最も有効な双方向性コミュニケーションを可能にし、財務やコミュニケーション、マーケティング、そして証券関係法の下でのコンプライアンスなどの諸活動を統合した戦略的経営上の責務であり、結果として企業の証券の公正な評価に貢献するものである(2003年3月、NIRI理事会で採択))」と定義しています。
http://www.niri.org/about/mission.cfm
NYの金融界の最先端に長年身を置く何人かの友人に、成功するIRの秘訣を聞いたとき異口同音に戻ってくる答えは、「一に戦略、二に戦略、三に戦略」と経営トップによる企業の将来の方向性やビジョンを示す経営戦略の重要性を強調していますが、パブリック・リレーションズの専門家としてIRを捉えた場合、成功させるためには以下の4つのポイントがあると思います。
1.何よりもまずは明確な経営戦略。将来の成長性をアピールする
インベスターは企業の価値創造力に投資します。その理解を得るには、将来へ向けたビジョン、経営戦略、それを実現するプロセスを明示しなければなりません。また、その戦略内容が明確であることはもちろん、投資家をひきつける魅力をもち、納得できるものでなければなりません。企業の最前線で市場と関わるIR担当者は、経営サイドと極めて近いところに位置する必要があります。
2.透明性のある情報開示で投資家に明確な判断基準を提供する
明確な経営戦略と実行プロセスと共に重要な判断基準となるのが、証券取引法などで規定される法定開示や東京証券取引所などで規定される適宜開示など、過去そして現在の業績や将来の業績見通しを示す企業情報です。IR関連の法令や規則を理解し、遵守しながら、投資判断に必要な企業情報を正確にしかもタイムリーに開示することが求められます。
3.双方向性コミュニケーションをとおして市場の声を聞く
魅力ある戦略と透明性のある正確な情報をタイムリーに発信し、インベスターの信任を得るには、IRの知識に加え、コミュニケーションに関する高い技術が必要となります。市場との積極的な双方向性コミュニケーションをとおして市場の声を聞くことが、継続的な企業価値創造力を高める好循環を生み出すからです。企業と市場の橋渡し役であるIR担当者の役割は、社外に対しては企業をアピールし、社内、特に経営サイドに対しては市場の声を届けることです。市場の反応をフィードバックとして捉え、速やかに経営戦略に反映する努力は、互いの信頼関係を促進すると同時に、企業の価値創造力を高める結果にもつながります。
パブリック・リレーションズの専門家としてもう少し詳しく述べると:
●ターゲットとしては、既存の株主と潜在株主、機関投資家、一般投資家、証券アナリスト、ファンド・マネジャー、投資顧問、財務省、証券取引委員会、証券取引所などが上げられます。また近年、企業統合やM&Aなどにより激変する経営環境の中で、従業員に対するコミュニケーションも重要視されるようになっています。
●とりわけ、一般投資家へ分析情報を提供するアナリストやファンド・マネジャーとのコミュニケーションは特に重要です。彼らの本来の役割が、情報の分析や評価による市場での適切な株価形成を促すことからも、できるだけ多く直接対話を行う機会をもち彼らの理解を得る必要があります。
●また、ターゲットへのコミュニケーション・チャンネル(情報媒介者)となるメディアとの良好なリレーションズ作りにも積極的に取り組む必要があります。IR活動をメディア・リレーションズと連動させることで、発信する情報やメッセージをタイムリーかつ広範囲に伝えることができます。
4.危機管理システムの導入により万全な体制を整える
ネット社会にあって、どんなに素晴らしいIRを行っていても、危機発生時の対応を誤るとすべて無に帰すことは雪印事件の例を見るまでもありません。イッシュ・マネジメント、リスク・マネジメント、クライシス・マネジメントといった3つの概念を統合する危機管理システムの企業導入により、リスク情報の開示はもとより、リスク・ファクターを明確化し危機への備えを、外部専門家も加え万全なものにしなければなりません。
特に、上場企業にとって、危機発生時の対応はメディアへの対応を意味します。ひとたび不祥事を起こした場合、メディアへの対応いかんによっては、資本市場からの退場を求められるからです。
IRを成功に導く4つの要件は、企業の経営努力そのものに他なりません。
IRへの努力が、経営そのものに磨きをかけ、真の意味での企業価値を高めることにつながります。つまり、好循環を実現しているIRは、コーポレートPRやブランディングにも大きく貢献するということです。最近は、CSR(企業の社会的責任)などへの関心の高まりから、企業を評価する基準として、財務諸表以外での取り組みにも注目が集まっています。
ニューズウィーク日本版の6月15日号で興味深い記事を見つけました。企業の財務力(50%)+CSR評価(50%)を判定基準に、企業をランク付けしようと試みた特集記事でした。
今後、こうした傾向が強まっていく中、CSRにどう対応していくかといったこともIRにおいて重要な要素になってくることと思います。IRは、急速に進む資本市場のグローバル化のなかで、その変化に対応するため、迅速かつ着実に行なう継続的な活動であり、今後、IR担当者に課せられた責任と役割はますます高まっていくものと考えます。