パブリック・リレーションズ
2009.02.21
クリントン国務長官来日〜米政府のガバメント・リレーションズ
こんにちは、井之上喬です。
あちらこちらで梅だよりを聞くこの頃ですが、みなさんいかがお過ごしですか?
オバマ大統領が誕生して1カ月が経ちます。最初の課題で史上最高額の7,870億ドル(約70兆円)の景気刺激法案(アメリカ復興・再投資法)も議会を通過し、2月17日の大統領署名によりオバマ新大統領は最初の関門をクリアーしました。
最重要課題であった国内の経済政策に続いて外交課題では、ヒラリー・クリントン国務長官が日本、インドネシア、韓国、中国の4カ国を16日から22日までの間で歴訪。日本は最初の訪問国となり、1月16日-18日の日程で来日。超大国米国の外交責任者として、国務長官が最初の訪問先にアジアを選ぶことは近年例のないことだといわれています。今回は、アジア重視の姿勢を見せるオバマ政権のガバメント・リレーションズについて考えていきたいと思います。
米国のアジア訪問のねらい
新政権のガバメント・リレーションズは極めて戦略的にみえます。新政権誕生間もない2月初旬には、バイデン副大統領を欧州に派遣し、クリントン国務長官がアジア4カ国歴訪、そして同じタイミングの2月19日にオマバ氏自身が最初に選んだ訪問国は、隣国で米国最大の貿易相手国のカナダです。大統領、副大統領、国務長官がそれぞれの役割を分担しながら最初の多角的・戦略的外交が展開されたのです。
訪問する4カ国の順番をみても米国のしたたかな計算が見て取れます。日本を最初の訪問国にしたのはいろいろな理由が考えられますが、大統領選挙期間中ほとんど日本についての言及がなく、形式を重んじる世界第2の経済大国日本の世論を配慮してのことと見ることができます。2番目の訪問国インドネシアは世界最大のモスレム国であると同時に、オバマ氏が幼少時代の一時期を過ごした国。そして北朝鮮と国境を分ける韓国を経て、最後の訪問先には21世紀の最重要国となる中国を選んでいます。
また訪問先の国民の支持を得ようと、限られた時間の中で大学を訪問し若者と交流するなど、草の根に浸透する積極的なプログラムが展開されています。
米国のアジア重視は数字の上でも見て取れます。面白いことに中国と日本はいずれも米国国債と外貨準備高で世界第1、第2。米国債では中国の6962億ドル、日本の5783億ドル(米国財務省統計2008年12月現在)を合わせると総発行残高の約41%。
一方、外貨準備高(ドル換算)では第1位は同じく中国の1兆6822億ドル(2008年3月)、日本は1兆1549億ドル(2008年6月)で日中合計すると世界全体の約40%と群を抜いた数字となっています。
つまり、経済危機にある米国の国務長官が、最初に訪問する地域はアジアとりわけ東アジアであることの必然性が見えてきます。北朝鮮の核施設問題も大きなテーマ。そしてホワイトハウスで外国首脳を受け入れる最初の国を日本の首相とし、2月24日の日米首脳会談開催も決定されるなど日本重視の取り組み姿勢を見せています。
オバマ大統領はいち早くジョージ・ミッチェル元上院議員を中東担当特使に、リチャード・ホルブルック元国連大使をアフガニスタンやパキスタンのイスラム過激派がらみの西南アジア担当特使に任命していましたが、世界のリーダーとしての自覚が米国のガバメント・リレーションズから伝わってきます。
国益のない「外遊」
麻生首相とオバマ大統領との会談開催の実現は、世界第1位と第2位の経済大国が協調して経済的難題やアフガニスタン問題の解決に力を合わせて立ち向かおうとする意思の表れとみてとることができます。読売新聞2月18日付け社説では、クリントン長官が日本を初外遊先に選び、麻生首相とオバマ大統領の首脳会談を24日開催と早々に決めたことについて、「いずれもオバマ政権が日米関係を重視する表れとされる。だが、それに満足するだけで良いはずがない。より大切なのは、日米対話の内容を充実させ、戦略的な外交を展開することだ」。
しかし残念なことに、日本政府の外国政府に対する戦略的なガバメント・リレーションズは全く見えてきません。
麻生首相は昨年の就任直後の9月25日、国連総会に出席。10月には「アジア欧州会合第7回首脳会合」出席のために北京を訪問。11月にはワシントンでの「金融サミット」へ出席し、同月ペルー、リマの「APECアジア太平洋経済協力会議」へ出席。12月には福岡で「日中韓首脳会議」を開催。
そして新年の2009年1月には「日韓首脳会談」のために韓国訪問。また1月末はスイスでの「ダボス会議」に出席。2月18日のサハリンではロシア大統領との首脳会談など、就任後精力的に外交課題をこなしているようにみえます。
しかし首相だけ一人が精力的な外交を行っている姿勢は伝わってくるものの、日本の外交戦略はみえてきません。日本の外務大臣や他の閣僚も安倍政権から日替わり弁当のように変わり、誰が何処を訪問したのかさえ分からない情けない状態。米国のような統合化された戦略外交などは望むべくもありません。
日本は首相の在任期間以上に閣僚の在任期間は短かく、在任中の「外遊(外国訪問)」は時として、目的が明確化されないガバメント・リレーションズとなっているように見受けます。政治家として実績づくりのための外国訪問は文字どおり「外遊」でしかありません。
それが原因ではないにせよ、国会会期中の外国訪問は禁止状態にあり、重要法案を通す際には閣僚を国内に張り付けにするなど、国益を左右する外交課題に対する複合的で多面的な展開はみられません。
ガバメント・リレーションズは、民間企業から政府機関に対する手法と考えられがちですが、政府の外国政府機関とのやり取りも規模の違いを別にすればその手法は同じです。いま高度な手法が要求されるパブリック・リレーションズ(PR)。専門家の育成が急がれています。