パブリック・リレーションズ

2009.01.24

オバマ新大統領就任演説〜パブリック・リレーションズで診る

こんにちは井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?

1月20日、「変化」を求める米国民と国際社会の大きな期待を担って、ワシントンの連邦議会議事堂前でバラク・オバマ氏がアメリカ合衆国第44代大統領に就任しました。約200万人の聴衆を前に宣誓と就任演説が行なわれ、その後4万人が警備する中、ホワイトハウスへのパレードでは、「オバマ!」コールで沿道が埋めつくされました。

彼のスピーチは21分。その内容は実に多彩で感動的なものでした。スピーチ内容からは彼が目指すものが見えてきます。今回は、パブリック・リレーションズ(PR)の視点でみたオバマ・スピーチを分析します。

すべてのターゲットを気に留めた

スピーチは全体として米国民向けのもではあるものの、原稿には彼がターゲットとする主要なパブリックが網羅されていました。ちなみにスピーチライター(首席)のジョン・ファブロー氏は弱冠27歳。

紙面の都合で詳細は避けますが、オバマ大統領のスピーチの中には、サブプライムで家を失った人たち、職を失った人たち、倒産した企業、医療保険に入れない人たち、教育関係者、また、実体経済を支える生産者(労働者)、IT関係者、医療関係者、新エネルギー開発関係者、イラク・アフガンに派遣されている米軍人。

そして、イラク、アフガニスタンなどイスラム国の国民と指導者、キリスト教徒、イスラム教徒、ユダヤ教徒、ヒンドゥ教徒、外国政府では、名指しこそしていないものの、ヨーロッパ、日本などの同盟国、これまで敵対していた、イラン、ロシア、北朝鮮などの政府首脳など。実にきめ細かいターゲットに対しそれぞれのメッセージが準備されていました。

特に、対テロ、対イスラム諸国へのメッセージの具体的手立てとして、朝日新聞の1月22日付朝刊は、オバマ大統領が20日の政権発足当日、直ちにテロ容疑者を収容しているキューバのグアンタナモ米海軍基地収容所、及び併設されている特別軍事法廷の閉鎖への見直しをゲーツ国防長官に命令したことを伝えています。間をおかず1月22日、これらの1年以内の閉鎖を命じる大統領令に署名しました。オバマ氏のこの迅速な対応は、新政権がいかにイスラム諸国との新しい関係づくりを外交の最優先課題にしているかを物語っています。

織りなす功利主義と義務論

オバマ新大統領のスピーチには、全ての国民が享受されるべき権利と義務について言及されています。パブリック・リレーションズの視点でみると、個人や組織体の行動規範としての倫理観である「功利主義」と「義務論」が織り込まれていることがみてとれます。

スピーチの冒頭にある、「すべての人は平等で自由、そして幸福を最大限追求する機会が神からの賜物として約束されている….」は、「最大多数のための最大幸福」を提唱する功利主義思想がその根底に流れているとみることができます。

また、スピーチの後半には、米国が建国以来、精神的な支えとしてきた真理に立ち返るよう訴えています。これらには、「今私たちが求められているのは、新たな時代の責任。一人ひとりの米国人が自分自身や米国、そして世界に対して責務があることを認識することで、その責務をいや嫌受け入れるのではなく、むしろ困難な任務に対しすべてを投げだして引き受ける….」、また、「最も暗い困難を乗り切るのは、堤防が決壊した時に見知らぬ人を迎え入れる親切心であり、友人が仕事を失うのを傍観するのではなく自分の就業時間を削る労働者の無私の心である。」などのメッセージがあります。これらのメッセージには、「困っている人がいたらたとえ嫌であっても助けの手を差し伸べなければならない」とする「義務論」的な行動の必要性が強調されているといえます。

オバマ大統領のスピーチには、空前の経済危機に直面する米国民に対して、米国再生のために共に手を携え目標達成のために頑張ろうとする「義務論」的な内容が多かったようにみえます。しかし彼のスピーチは、米国民にとどまらず、全世界の人々に対して語りかけたものといえ、倫理的行動の必要性を強く訴えていることが分析できます。

ちょうど2年前、訪問先ワシントンのホテルのTVで初めて聞いたオバマ・スピーチ。新大統領のスピーチには彼が目指す方向性が明確に見て取れます。スピーチ内容はもとより、目標設定やそれぞれの対象(ターゲット)となるパブリックの心を掴む多様なメッセージ。対話を通した双方向性をもったコミュニケーション姿勢、それらのどれをとっても戦略性と緻密性を感じます。まさに天性のPRパーソンといえます。

彗星のように登場し、大統領の階段を駆け上がったオバマ大統領。彼の一挙手一投足を世界の人たちはいま固唾をのんで見守っています。混沌とする世界にあって、米国のリーダーとしてだけでなく、世界のリーダーとして、その高い役割が期待されるオバマ氏の任務が無事に完遂されることをただ祈るばかりです。

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