パブリック・リレーションズ

2008.11.22

『体系パブリック・リレーションズ』を紐解く 5〜戦略立案における調査の役割

こんにちは井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?

今週は、『体系パブリック・リレーションズ』Effective Public Relations (EPR)第9版の邦訳:ピアソン・エデュケーション)をご紹介します。EPRは米国で半世紀以上のロングセラーを記録するパブリック・リレーションズ(PR)のバイブル的な本。

今回は、第11章の「ステップ1:パブリック・リレーションズの問題点の明確化」(北村秀実訳)の中から「戦略立案における調査の役割」(339ページ)についてお話します。

パブリック・リレーションズの実務家を対象としたアンケート調査では、パブリック・リレーションズの専門職に必要な継続教育として、調査手法のトレーニングが、常に上位を占めているといわれています。その理由として、ほとんどの実務家は大学時代に調査手法を学習しなかったか、あるいは調査はPR専門職の仕事の一部とは予想していなかったことが挙げられています。

目の不自由な6人のインド人と象

「戦略立案における調査の役割」の項の冒頭で、日本でもよく知られている「目の不自由な6人のインド人と象」の寓話が紹介されています。目が不自由な6人が象の一部を触っただけで、各人が触ったところだけの印象を手がかりにして象の全体像を描写したという話です。

例えば、鼻を触った人は「象はヘビのようだ」と結論づける。膝を触った人は「象は確かに木のようだ」と言う。このように各人は象の一部だけを触って経験します。最終的には、各人は部分的には正しいが、象の本質についてはほぼ誤ったままで、各自が象との遭遇に基づいて喧々諤々と議論したにすぎなかったということになります。

つまり、パッブリック・リレーションズの実務家に対して、課題となっている状況をしっかり調査しなければ「目の不自由な6人のインド人」と同じ轍を踏む恐れがあると警鐘を鳴らしています。

また、調査の重要性とその目的について「いくら実務家が、調査なしで状況を把握し、解決策を提案できると主張しても、そこには限界がある。実務家は、調査と分析を行ってはじめて、証拠と理論に裏づけられた計画案を提案して主張することができる。この文脈における調査とは、状況を説明して理解するため、そして、対象となるパブリックスが抱いている考えと、パブリック・リレーションズの活動がもたらす結果を確認するための、系統だった情報収集である。それは、執着心、権威、直観にとって代わる科学的根拠となる。そして、その主な目的は、意思決定する際の不確実性を排除することにある。全ての疑問に答え、すべての決定に影響することができないにしても、論理的に系統立った調査は効果的なパブリック・リレーションズの基盤となる。」と論じています。

インフォーマルな調査とフォーマルな調査

パブリック・リレーションズの調査には、高度に発達した社会科学の手法を利用することもできるが、依然としてインフォーマルな手法が支配的であり、実務家がサンプル(調査標本)の代表性が不明であるといった弱点を理解していれば、その手法は有用であると述べられています。インフォーマル手法として、情報提供者の聴取やフォーカス・グループ・インタビュー、オンブズマンの意見、フリーダイヤル、投書やオンライン情報などが挙げられています。

この場合、実務家がサンプル(調査標本)の代表性が不明であるといった弱点を理解していれば、その手法は有用であると述べられています。インフォーマル手法として、情報提供者の聴取やフォーカス・グループ・インタビュー、オンブズマンの意見、フリーダイヤル、投書やオンライン情報などが挙げられています。

一方、フォーマルな調査手法は、科学的に代表性を持つサンプルからデータを収集するよう設計されており、この調査手法は、インフォーマルな方法では適切に回答できない状況についても、回答することができます。但し、フォーマルな調査手法が有用となるのは、調査の全体デザインの選択以前に、調査の質問項目や目的が明確になっている場合に限られ、こうした条件が満たされることによって初めて、確定された精度と許容誤差の予定範囲内で現象や状況を説明する情報をもたらすことができると強調されています。

「成功しているパブリック・リレーションズのマネジャーは、フォーマルな調査手法と統計学に精通している。今では、多くの大学のパブリック・リレーションズ教育で、調査手法の科目がカリキュラムに組み込まれている。実務家向けの継続教育プログラムでも、プログラムの立案、管理、効果測定の際にどのように調査を活用するかの講義が提供されている。」と述べられています。またこの章の文末は、「つまり調査は、パブリック・リレーションズがマネジメント機能を果たすために、また同時に、統制の効いた機能を果たすために不可欠な要素である。」と結ばれています。

20世紀を生きたエドワード・バーネイズは、パブリック・リレーションズにおけるプロジェクト成功の要因は、社会科学に裏打ちされた綿密な調査・分析にあると説いています。まさに調査は目的達成を確実にするための不可欠な手法といえます。

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