パブリック・リレーションズ
2008.07.19
組織体はどうすれば存続できるのか 〜調整・適応そして自己修正
こんにちは井之上喬です。
本州の大半では梅雨が空け、猛暑の夏が幕開けました。
皆さんいかがお過ごしですか?
最近、企業や官庁、自治体などで頻発する不祥事には心底から考えさせられるものがあります。
一連の食品偽装表示や偽装請負、官庁の居酒屋タクシーなどの不祥事はなぜ繰り返されるのでしょうか?
組織体は常に変化する環境の中で生存能力を試されています。内外の環境の変化に、私たちはどのように対応すべきなのか、組織体の生成活動は、「生態学」から学ぶことができます。組織体が成長・維持してくことは、生体が生命の安定的維持を図ることと似ているからです。
生態学における恒常性維持
1930年代初め、X線を初めて医学分野に導入したハーバート大学の生理学者、ウオルター・キャノンは、生体における「ホメオスタシス(恒常性維持)」の概念を確立しました。キャノンはホメオスタシスを、変動する内外の環境に合わせて、自らの身体の調整を試みる生物の資質(自己調整機能:Self-Adjustment)や身体内の安定状態の維持をはかろうとする機能と規定しました。
たとえば、体外の寒さに対する体内の温度調整や高地での血液中の赤血球数の増加による酸素供給の恒常性維持。また糖尿病で、血液中の血糖値の高低によりブドウ糖とインシュリンのバランス調整を行ない、恒常性の維持をはかるなどは恒常性維持が機能していることを意味します。
スコット・カトリップは変化を続ける環境へ対処することをパブリック・リレーションズ(PR)の本質として捉え、生態学の概念をパブルック・リレーションズに持ち込みました。カトリップとアラン・センターは彼らの著作 Effective Public Relations(EPR) の初版(1952年)で、パブリック・リレーションズの本質的な機能として、「組織体は、変化によってすべての当事者に利益があるような調整を行わなければならない。」(筆者訳)と規定。そして前述のW・キャノンの自己調整機能を用いて、変化する外界に適応するホメオスタシス(恒常性維持)の概念をパブリック・リレーションズに適用したのです。
組織体はあらゆる面において環境に依存しています。EPR第9版(2006年)の中で、著者のカトリップ、センターそしてグレン・ブルームは、すべての組織体が繁栄し、将来を生きぬいて行くために以下の3つの重要性を指摘しています。
「1つ目は.相互に依存する社会から課せられる多くの社会的責任を引き受けること(マネジメントにおけるパブリック・リレーションズ思考の出発点)。2つ目は、さまざまな障害が増大する中にあって、距離感と多様性のあるパブリックとのコミュニケーションを図ること(専門スタッフ機能としてのパブリック・リレーションズの成長)。3つ目は、社会と一体化することを目指すこと(経営層と専門性をもつ実務家の双方が目指すゴール設定)。」(以上、筆者訳)
それでは、組織体は、自らの恒常性維持のために、どのような行動姿勢をとればいいのでしょうか?
オープン・システムとクローズド・システム
カトリップによると、一般的にシステム(機械的、有機的、社会的)はそれらの性質と環境間の相互作用の総量によって分類できるとしています。その範囲は対極にあるクローズド・システムからオープン・システム領域をカバー。クローズド・システムでは、通り抜け不可能な境界があるため、起こったことやエネルギー、情報などをそれぞれの環境との間でやり取りできません。これに対し、オープン・システムは、通り抜け可能な境界を介して、それらを自由にやり取りできるとしています。
カトリップはシステムがクローズドの場合、その度合いは環境に対する鈍さを示し、新しい事柄やエネルギー、情報などを取り入れることができません。つまり、外部変化に適応できず、やがては崩壊の運命をたどります。カトリップはシステムがクローズドの場合、その度合いは環境に対する鈍さを示し、新しい事柄やエネルギー、情報などを取り入れることができません。つまり、外部変化に適応できず、やがては崩壊の運命をたどります。日本で頻発する不祥事はまさにこのパターン。一方、オープン・システムは環境変化を和らげたり、受け入れたりするために調整と適応を行うとしています。
端的にいうとクローズド・システムは、環境と資源・情報の交換を行わないシステムで、オープン・システムは、環境と資源・情報の交換を行うシステムであるといえます。
カトリップたちは同第9版で、「システム論者は相対的オープン・システムの動的状態と相対的クローズド・システムの静的状態を区別するため、変化可能なゴールの状態をホメオスタシス(恒常性維持)と言う」と論じ、「ホメオスタシスは、相対的に安定的なゴールの状態」(いずれも筆者訳)を意味していると述べています。
高度なオープン・システムには、環境の変化を予見し、課題や問題が重大化する前にその変化にどう対応し、修正行動を行うかが問われます。「倫理観」、「対称性双方向コミュニケーション」が伴なう「自己修正」が重視されるところです。
地球温暖化、エネルギー・食糧危機、地域紛争など数えきれない問題を抱える世界にあって、組織体には恒常性維持のためのパブリック・リレーションズ機能の強化が強く求められています。
これからの新しい時代を生き続けることができる組織体は、単に力をもった組織ではなく、内外の環境変化を複合的に捉え、さまざまな視点をもち、世界やパブリックに対して調整・適応し、自己修正のできる組織体なのです。