パブリック・リレーションズ

2007.10.26

PRパーソンの心得 失敗

こんにちは、井之上喬です。
皆さん、いかがお過ごしですか。

ボクシングとは思えぬ反則プレーで話題騒然となった内藤大助選手と亀田大毅選手の世界ボクシング評議会(WBC)フライ級タイトルマッチ。大毅選手は判定負け。日本ボクシングコミッション(JBC)は、反則を繰り返した大毅選手を1年間の出場停止処分、父史郎トレーナーを無期限のセコンド資格停止処分としました。

その後、父と伴に試合後初めての記者会見に臨んだ大毅選手。頭を丸刈りにした痛々しいまでの大毅選手は無言を貫き、チャンピオン内藤選手への明確な謝罪はありませんでした。そして試合から2週間後の11月26日、亀田家を代表して兄の興毅選手が謝罪会見を行いましたが、そこに大毅選手の姿はありませんでした。18歳という大人になりきれない年頃。彼にとって失敗を認め謝罪する行為は大きな試練だったようです。その苦難を乗り越えることはできませんでした。

問題解決の5つのプロセス

人は誰でも失敗します。しかし失敗は、その時の対応次第つまり事後処理をどのように行なったかで、将来プラスにもマイナスにも働くもの。

例えば2005年に明るみになった松下電器製FF式石油温風機の欠陥問題では、同社はその直後に石油機器(暖房機のみならず、石油給湯機なども含めた)からの完全撤退を決定。その後も徹底したリコール活動を展開。その結果、組織としてのレピュテーション(品格)を一層強固なものにしました。一方、雪印企業グループの例では、失敗時の対策が不十分であったため、その後も不祥事が相次ぎ、グループの解体・再編を余儀なくされました。このように失敗は、その事実にどのように向き合い対処するかで、その後の大きな飛躍にもまた大きな傷にもなり得るのです。

失敗へ適切に対処する過程は、問題解決のステップとよく似ています。心理学者であるジョンソンとゼッタミスタは彼らの著書『クリティカルシンキング』(1997 北大路書房)の中でそのプロセスを5段階に分類しています。

1)問題の存在を認識すること
2)問題の性質をきちんと理解すること
3)目標達成のためのプランを立てること
4)プランを実行してみること
5)実行の結果をチェック(モニタリング)すること

このプロセスで特に精神的な困難を伴うのは 1)の失敗と素直に向き合い、その事実をありのまま認めるプロセスと、4)のプランを実行する段階だと思います。外部からの非難が集中するなか自分の立場を客観的に把握し適切な方向へ自らを修正していくには、強い精神力と目標への高い集中力が要求されます。

一方、同じ過ちを防止する対策を講じるには、原因の究明とともに問題を徹底的に分析することも重要です。そしてプラン実施の際に、その行動から得られるフィードバックに細心の注意を払わなければなりません。このフィードバックを分析することで、実施プランの成否を客観的に知ることができます。

また何よりも全体のプロセスを円滑にするのは、全てを受け入れること。人は失敗すると必ず苦悩や混乱に直面します。しかしそんな時こそ自分をストレスから解放し冷静さを取り戻すことが重要です。全てを受け入れると、不思議にプライドや恐怖心などのストレスから解き放たれ、全体像や取るべき行動が自ずと見えるようになります。

成功者は学習だと捉える

私も20代の駆け出しの頃、ある仕事で大きな失敗をしたことがあります。その頃の私は表面的には謝罪したものの、顧客に心の底からお詫びする事はできませんでした。相手に謝罪する前に、失敗した自分のあまりの情けなさに憤りを感じ、その事実を素直に認めることができなかったからです。その結果、リカバリーのための対応は迅速性を欠いたものとなりました。この失敗は今でも私の心に苦い思い出として残っています。

しかし私は、その経験から多くのことを学びました。まず、失敗した際にその事実から逃避せず冷静に受け入れること。何故このような問題が起きてしまったのか頭を整理して考えること。そして、問題解決のためにスピーディな対応を行なうこと。その際、ひとつの戦略に対し常に複数のシナリオを持つことなどを肝に銘じました。この失敗のおかげで、私は、より大きく成長することができたように感じています。

先日ご紹介した『ビジョナリー・ピープル』に「永続的な成功をおさめている人たち全員に共通しているものがひとつだけあるとすれば、それは、彼らはみな失敗の達人だ、という事実ではないだろうか」とするくだりがあります。

大きな成功を望むほど、失敗のリスクも高まります。成功できない人とできる人の違いは、敗者はそれを失敗と捉え、成功者はそれを学習だと捉える点です。失敗は飛躍のチャンスであることが理解できれば、失敗への恐怖心も払拭され、物事に果敢に挑戦できるようになります。

パブリック・リレーションズの実務家や広報(PR)担当者は、クライアントや所属する組織が過ちを犯し危機的状態にある時にも、その問題を自分のものと考え、真摯にカウンセリングを提供することが求められます。自らの失敗を糧とし飛躍した経験を適用すれば、実行力の伴った質の高い戦略やシナリオを描くことができるのではないでしょうか。

失敗を成功体験として積み重ね、失敗を恐れず新しい問題に果敢に取り組んでいく。21世紀にはそのような強い個を持ったPRパーソンが求められているのです。

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