パブリック・リレーションズ
2008.01.26
PRパーソンの心得 20 対話する力
こんにちは、井之上喬です。
このところ寒い日が続きますが、皆さんいかがお過ごしですか。
対話とは、双方が良い方向に向かう新しい展開を生み出すコミュニケーション。世界で絶えない紛争や不祥事などは、充分な「対話」が不足していることによって起きる歪みが顕在化したものであるといえます。
対話・理解・和解
対話とは、双方が自らの考えを明らかにし、互いの違いを自覚し、各々が新たな考えや立場を形成していくプロセスです。
対話には、お互いの働きかけ、つまり双方向のコミュニケーションが欠かせません。しかし、表面的な情報のやり取りでは不十分です。そこに必要なのは、先入観を取り払って心を開き、相手の視点に立って傾聴すること。そして得た情報を自分の中で咀嚼し、何らかのアクションを起こすことです。
パブリック・リレーションズの実務家や広報(PR)担当者に求められる対話力には、クライアントや組織のトップ、それらを取り巻くパブリックとの対話に加え、彼らの考えや立場を深く理解し、当事者が建設的な対話を行なえる環境を整えることも含まれます。そして、対話がどのように目標に結びつくのか、何を生み出せるかを予測しながら環境を創出することが重要となります。
私の所属するある会のアニュアル・ミーティングにイスラエルとパレスチナの代表がときどき出席することがあります。彼らが試みていることは、各15名ぐらいの人たちが同じ部屋で数日間生活を共にし、終日自分たちのこれまでの体験を話し合うことです。家族が殺された話、理不尽な仕打ちを受けた話など徹底的な対話をします。やがて両者は、お互いが被害者の立場だけではなく加害者でもあることを理解するようになるといいます。立場は違っても大切な人を失うことは相手も同じ。その痛みが共有できると両者は、如何に戦争や紛争が意味のないことであるかを認識し、和解による平和を希求する気持ちが強まるそうです。
対話を通して大きな問題を解決する場合は時間と忍耐力が必要となります。このイスラエルとパレスチナの人たちの試みから学ぶものは、ダイアローグ(対話)を通して互いが影響を与え合うことで双方に変化をもたらし、相互理解のなかで歩み寄り和解することです。
対話が世界を変える
1990年、私はソビエト連邦からロシアに変わる間際の激動のモスクワでGlobal Dialogueという新しい企業体を訪れました。当時のソビエトは、ゴルバチョフ大統領主導のペレストロイカの真っ只中。多くの国民が自由主義(資本主義)に夢と憧れを持っていました。
そんな中で、民主主義の国からやってきた私と共産主義の下に暮らす人間が出会ったのです。最初は互いが違和感を持ちながらコミュニケーションをはかっていました。相手はもとより、私にも言論統制される特異な環境に身をおく人とのやり取りに先入観があったのかもしれません。
しかし話し始めると、彼はモスクワ工科大学出身でコンピュータの世界に精通。私の会社のクライアントであった、アップル社やインテル社など共通の話題をきっかけに、いつの間にか互いの気持ちは和み本音で語り合うようになっていました。彼との対話のなかで、旧体制の問題や将来への期待と不安など、改革の狭間で悩む一人の人間の姿をみることができました。
共通の価値観や文化的基盤のない環境では、対話そのものが成立しないこともあります。しかし相手とのコミュニケーションを通して、小さな共通点をも見逃すことなく互いが変化し対話が進展することもあります。
対話は対等な関係における対称性をもったコミュニケーション行為といえます。それゆえ対話を深めることは、自己修正を行う環境を醸成することになります。継続的に良好に推移している関係を注意深く分析してみると、そこには深いレベルでの対話が実践されていることがわかります。
私たちPRパーソンは、対話の力と対話を促す努力によって社会に大きな変化をもたらすことができます。毎日一つでもいい。皆さんがその第一歩となる対話を築くことができたら、5年後10年後の世界は大きく変わっていくことでしょう。