パブリック・リレーションズ

2007.06.29

PRパーソンの心得 10 様々な視点を持つ

こんにちは、井之上喬です。
皆さん、いかがお過ごしですか。

訪問介護大手「コムスン」の介護事業を巡る一連の不正問題や食品加工卸会社ミートホープによる食肉偽装問題など、不祥事が相次いで発生しています。これらは倫理観の欠如は言うまでもなく、消費者や従業員といった、組織を取り巻くパブリック(ステークホルダー)の視点を無視した結果起きた事件であるといえます。今回は「PRパーソンの心得 10 様々な視点を持つ」をお届けします。

物事は様々な影響のもとで動く

『広辞苑』によれば、「視点」とは、「視線が注がれるところ。また、ものを見る立場。観点。」と出ています。視点には、自分の視点、相手の視点、第三者の視点など、様々な視点があり、それぞれの視点で物事を捉えると、ひとつの事象が全く違うものに感じられたり、見えたりします。

先週も書きましたが、人間は一人で生きていけません。人との関わりの中で生きています。一見すると様々な立場の人々がバラバラに動いている様に見えますが、実は互いに影響し合って存在しています。

パブリック・リレーションズの実務家が、個人や組織を取り巻く様々なパブリックとの関わり(リレーションズ)を統合して、目標達成や問題解決に取り組まなければない理由もそこにあります。したがってPRパーソンは、各パブリックの置かれた立場を深く理解し、それぞれが持つ視点で思考する努力をしなければなりません。

物事を多面的に捉えて行動することは自己修正の機会を増やします。そうすることにより、情報発信者と情報受容者の双方が修正しながら相互理解を深める対称性の双方向性コミュニケーションを実現し、結果としてよりスムーズに目標を達成することが可能となります。

冷静な頭脳と温かい心

様々な視点を確保するのに必要となるのは、冷静な頭脳と温かい心。この2つの要素は相反するものに見えますが、実は補完関係にあります。 心ない冷静な思考は、自分本位の独善的な判断を生む傾向をもち、冷静な思考を欠いた温かい心は、感情に突き動かされた衝動的な行動に走りがちです。

冷静な頭脳は、多面的に捉えるべき事柄を適切に認識し、それぞれの立場をありのままに捉えることを可能にします。そして、自分の直感、知識、経験則などをベースにしながらも、それらを過信することなく、適切に判断が下せるようになるのです。これは以前にこのブログで紹介したメタ認知の能力のひとつです。

一方温かい心は、善意や徳といった言葉に置き換えることができます。 温かい心は、相手の気持ちや置かれた立場に感情移入し、相手の利益を常に意識し行動することを可能にします。

先にも述べたコムスンの不正問題では、事業所による訪問介護員人数の虚偽申請による介護報酬不正受給や介護事業所指定の虚偽申請などが発覚しました。自社の利益を追求するあまり、行政を欺き、社内の営業担当には福祉の理念を踏み越えた拡大路線を強要し、介護士には劣悪な環境下での仕事を強いて、福祉に志を抱いて介護の世界に入ってきた若者の良心を著しく傷つけたことの責任はとても重いと思います。

この問題は行政、従業員や介護を必要とする人々の視点を無視した結果起きた悲劇です。こうした結末として、社会からの批判を受け、親会社であるグッドウィルグループは介護事業からの撤退を余儀なくされました。

先にも述べたミートホープによる食肉偽装問題において、もし消費者や業務に携わる従業員の視点があったならば、コスト削減のためにトップ自らの指示による、腐敗寸前の食肉を消毒液で消毒するなどといった常識を逸脱した行為に走ることはなかったでしょう。
このように、相手の視点に立った思考と行動が個人や組織体の自由度を増大させ、 結果として一定の自由度を確保しながら目標達成を可能にするのです。

PRパーソンは、自らがさまざまな視点を持つだけでは不十分です。個人や組織体が相手の視点を欠いた不正や過ちを犯し暴走する場面でも、組織のトップに相手の視点が欠けている事実を伝え、相手の視点の確保のために具体的な処方箋を指し示し行動することを説得しなければなりません。PRパーソンには、インターメディエータとして個人や組織とパブリックとの間に立ち、様々な視点を目標達成のために結びつけることが求められるのです。

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