パブリック・リレーションズ

2007.09.02

日本のイノベーションをアクセラレートする〜グローバリゼーションを視座に日本を再生

日本を国際舞台で高付加価値の技術やサービスを提供できる国として再生させなければならない。私は、日本再生への経済的道筋として、いつもこのように考えていました。

先日私は、グローバル・イノベーターズLLC(合同会社、Global Innovators LLC=以下GIL:仮称)の立ち上げのための会議に出席するために札幌に行きました。

北海道大学を会場にした2日間にわたる会議には、全国の主要大学(東大、京大、阪大など)からは知的財産責任者や特許管理(TLO)責任者、また多様なグローバル・ビジネスの経験者、ベンチャーファンドや証券会社のマネジャー、加えて知財専門の弁護士、税理士などの専門家に海外からの参加者を含め約40名が参加。イノベーションの持つ意味については次回のこのブログで触れますが、会議ではITを知財の中心に据え、GILの創設を日本再生への具体的な処方箋としてさまざまな話し合いが行なわれました。

LLC(合同会社)は昨年5月から施行された新会社法で設立可能となった新しい法人資格。従来の株式会社とくらべ合同会社は、出資者自らが業務執行を行うことが原則。したがって早い意思決定が可能。これに対し株式会社は、出資者である株主が取締役を選任し、取締役が業務執行を行うことを原則としています。

推進役(アクセラレータ)はグローバル・ビジネスの専門家

GIL設立の目的は、日本経済の活性化のため、新しい技術や考え方を取り入れた新たな価値を生み出す事業をグローバルな視点で創出し、その事業を育成すること。

GILでは、新事業を効率的に展開させるため、アクセラレータ(仮称)と呼ばれる新事業の創出・育成を促進させる専門家集団を設置します。アクセラレータは、技術、経営、法制、財務、コミュニケーションなどあらゆる分野からの人材で、日本を拠点とする外資系企業のトップや日本でビジネスを大きく成功させたベンチャー・キャピタリスト、大学関係者なども含まれます。

GIL設立に尽力されているのは、現参議院議員の松田岩夫さん。小泉政権下で松田議員は、科学技術政策・IT担当大臣を務め、現在は、自由民主党知的財産戦略調査会会長をされています。

「どうして国が莫大な予算を付けても成功できないのか?」通産官僚出身である松田さんは、政治や行政にできることに限界を感じていました。先の問いを繰り返すうち行き着いた答えは、プロジェクトが成功しない理由は、グローバル・ビジネス経験を豊富に持つ民間人の関与が少ないのではないかということでした。

そして松田さんは大きな柱として、「世界に誇れる、高付加価値技術の保有国として日本を再生させること」、そして「世界市場に照準を合わせた効率的な事業展開のために、プロジェクトの推進役としてグローバル・ビジネスの経験者を起用すること」を打ち立て、GILの設立を考え推進しています。

日本再生は地方の再生から

松田さんと私の出会いは、2カ月前。私をグローバル・ビジネスの経験者として、シリコンバレーでビジネス・コンサルタントやファンド運営をしている友人の紹介で私の経営するPR会社、井之上パブリックリレーションズを訪ねてくださった時のことです。

初対面でしたが、私たちの日本再生に関する考え方が一致するのに時間はかかりませんでした。回を重ねたミーティングは時には深夜にまで及び、互いに興奮気味に語り合いました。これまで私がお会いした政治家のなかでイノベーションをベースに包括的に日本再生を語った人は松田議員が初めてでした。

GILにおける具体的な活動は、グローバル事業を展開する視座に立ち、大学に眠る世界に通用する優れた技術やベンチャー企業を発掘・支援すること。この新しい試みには最適なビジネス・モデルが必要とされます。現在、松田さんの依頼で私もコア・メンバーの一人としてビジネス・モデルを構築中です。

日本は、グローバリゼーションの波の中で国際競争力をどう発揮・維持していくのか?国の再生には、プロジェクトが何千、何万と生まれ育たなければなりません。日本再生には、豊かな地方文化に育まれた、独自の技術や発想による地方発のプロジェクトの成功がなんとしても必要。地方の再生が鍵となります。

地方再生には地元の大学にとどまらず、自治体、地元高校でのカリキュラムの見直しなど地域を挙げて取り組まなければなりません。公共事業が減っていく中、地方自らが自立するためには、グローバルを意識した地方の国際化、そして異なった産業分野からの労働人口の移動にも積極的に取り組む必要があります。

そうした意味で、今回GIL設立に向けた会合が、札幌という地方都市で行われたことに意義を感じます。また会合に参加した人が、「日本再生」にかける熱い思いを共有し建設的に議論できたことは大きな収穫でした。

1980年初頭に、欧米先進国をお手本に近代工業社会で世界の頂点に立った日本経済はほんの少しの間、半導体や自動車などの経済的成功に酔いしれました。やがて羅針盤を失い、90年を境に長期間にわたり混迷を続けます。原因はどこにあったのでしょうか?

その答えは3年前の早稲田大学の授業にありました。シリコンバレーのファブレス半導体メーカーで顧客でもある、ザイリンクス社のウイム・ローレンツ会長兼CEOは日本経済が低迷を続ける04年、私の授業で学生に語っていたのです。

「日本の企業経営者は、イノベーションをよく口にするがイノベーションにはリスクが伴うことを理解していない」。シリコンバレーで、世界最大のファブレス(工場をもたない)半導体企業に仕立てた経営者が、熾烈な競争にさらされるなかで体得したその言葉は、日本の経営者に重大な警鐘を鳴らしていたのでした。

私は、80年代にインテル社やアップル社などの米国発ベンチャー企業のトップ・マネージメントやMITの科学者たちとさまざまな仕事をしました。その中で、彼らがパブリック・リレーションズを経営中枢に取り入れ、強くなっていく過程を目の当たりにしました。自らのメッセージを明確に伝え、イッシュ・マネージメントやリスク&クライシス・マネージメントなどをもパブリック・リレーションズの視点で戦略的に捉えていたのです。

その経験から、日本のイノベーションには、その中枢にパブリック・リレーションズを導入することが不可欠であると感じています。グローバル・イノベーターズLLCの事業発展にパブリック・リレーションズを導入し、数多くの成功プロジェクトを育てること。これが私の願いです。

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