パブリック・リレーションズ

2007.05.18

ケミストリー(Chemistry)〜相手と長く良好な関係を築くベース

‘I have very good chemistry with him(彼とはケミストリーが合うんだ)’

これは、私の会社( http://www.inoue-pr.com/ )が海外クライアントとして初めてインテルと取引をしていた頃の話です。1979年、インテル社の創業者の一人ロバート・ノイス会長が来日した際、彼は私との会話の中でこのように表現しました。

当時の私はまだビジネス英語に慣れていませんでした。そこで私は‘chemistry’を化学と解釈し、集積回路の発明者の一人でもあるノイスさんは電子工学系のサイエンティストなのに、化学系の人だったのかと勘違いしました。後でアメリカ人の友人から‘chemistry’とは、「肌合いが合う」「フィーリングが合う」といった意味で、欧米人が人との交わりの中で大切にしているものだと知りました。

今回は、‘chemistry(ケミストリー)’についてお話します。

良いケミストリーは成功の基

‘chemistry’をOxford のDictionary of Englishで引いてみると、‘The complex emotional and psychological interaction between people(人と人との間で交わされる複雑な感情的、精神的なやりとり)’と出ています。この複雑な感情には同情や共感なども含まれています。‘The chemistry was there between the partners.(パートナー同士の波長が合った)’のように使用されます。

人と人とが交わるとき、自然に話が弾む人や、そうでない人がいます。そこに大きく作用するのがケミストリー。ケミストリーが合うと自然に打ち解けあい、双方が深く理解し強い絆ができます。これまで様々な仕事に関わりましたが、成功した多くの仕事は良好なケミストリーを持つパートナーとのプロジェクトでした。

良いケミストリーを感じる守備範囲は人それぞれ。その人の度量の大きさや懐の深さに比例するようです。誰とでもケミストリーを合わせられる人は、オープン・マインドで楽観的。逆に、心が狭く志向性の強い人は、良いケミストリーを感じる守備範囲も狭いといえます。

人との関わりの中で良好な関係性を構築・維持するPRパーソンは、良いケミストリーを醸しだす間口を広くしておく必要があります。それには自ら良いケミストリーを発する人になること。相手の共感を得ながら、その心を開く努力をしてみることです。

自ら心を開きケミストリーを育てる

自分が相手に共感していることを態度で示すことは重要なことです。相手と同じ言葉で話す。呼吸を合わせる。積極的に頷く(もっとも、欧米人はあまり頷きませんが)。「Aさんのおっしゃるように」など相手の話を受けて会話を始める。交流をスムーズにするための技術的な話はいろいろありますが、全てに共通しているのは、相手を認めて受け入れる心と態度だと思います。

初対面の場合は、なごやかな雰囲気をつくるために相手の心を開かせることが大切です。そのために自らの心を開いていきます。ここでの力強い味方は、明るい笑顔。明るい笑顔は、場をパッと明るくし、何でも言える気軽な雰囲気を作り出します。

気分が乗ってきたら相手の良いところを見つけ、実際に褒めること。日本人はあまり褒め言葉を口に出しませんが、口に出して自分の気持ちを相手に伝えることが大切です。褒める行為は良好な双方向のコミュニケーションの潤滑油となります。

初めからケミストリーが合う人との出会いは最高ですが、時間をかけてケミストリーを醸成し、深い交流を維持するケースもあります。あるビジネス・パートナーは、人見知りをする気難しいタイプの人でしたが、こちらから心を開いて明るく接したことで、心を開いてくれました。このとき私は、ケミストリーは努力で醸成できることを学びました。

とはいっても良いケミストリーを生む努力をした結果、どうしても相手と合わないと感じる場合もあります。その時は潔く諦めて退却するべきです。

プロジェクトを計画し実施するのは人間。ギクシャクした雰囲気の下で仕事をするのはつらいものです。また良好でない人間関係の下でのプロジェクトは、活動そのものが停滞し、成果を得られない可能性も大きくなります。必要とあらば退却する勇気を持つ。これは、様々な決断を迫られるパブリック・リレーションズの実務家に求められる資質のひとつです。

ケミストリーが合う人と仕事をしていると心身共に充実し、幸福感に満たされます。一生、そのような相手と仕事をするのが理想的ですが、ビジネスの現場で自らの土台をつくらなければならない大事な時期には、意識的にそのような環境に身をおくべきです。良いケミストリーに囲まれて仕事をすることは、あなたの潜在能力をも引き出し、成長の大きな原動力となるでしょう。

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