時事問題
2017.01.04
トランプ大統領誕生で問われる民主主義〜パブリック・リレーションズ教育を如何に深化させるか
あけましておめでとうございます。
2017年の幕が開けました。皆さんはどのような正月をお過ごしでしょうか?
波乱に満ちた昨年は実に様々なことが起きました。とりわけ英国のEU離脱と米国大統領選の結果は私たちに驚愕を与えました。
トランプ勝利に終わった大統領選で顕著化した米国の孤立主義、保護主義の台頭に世界は、これまでの秩序が大きく変わることへの強い危機感を抱きつつ固唾をのみながら注視しています。
それでも民主主義を守る
米国のトランプ大統領候補に見られる政治家の強力なリーダーシップは、いまや世界の潮流になりつつあります。
一方で大統領候補の言動は、トーマス・ジェファーソン大統領(第3代)草稿の建国理念、「真の民主主義社会において、全ては民意によらなければならない」とする米国の民主主義の理念を大きく踏み外し、世界は寛容や忍耐と対極にあるその独善的ともいえる立ち振る舞いに強い懸念を抱いています。
米国大統領選をきっかけに相互の理解を欠いた社会の分断は、人種問題、貧富格差、宗教問題、性別問題など様々な分野で顕在化し、米国の建国史上まれに見る現象は民主主義に危機をもたらせています。
現在民主主義を標榜する欧米先進国の倫理観は、多数が物事を決定する「功利主義」と少数弱者にも目を向ける「義務論」が補完をなすものですが、独善性が支配する政治情勢に直面し、この二つのバランスが崩れているように感じています。
民主主義が機能しなくなる先は、絶対主義、独裁・軍国主義です。昨年ある国際的な会合で、小泉政権で防衛庁長官を務めておられた大野功統(よしのり)さんのスピーチが心に残りました。
それは「軍事力は重要だがより重要なのは外交力。しかし最も重要なのはヒューマン・リレーションズ」と最終的には個々人の良好な関係構築が重要であることを説いていました。
これこそパブリック・リレーションズ(PR)。パブリック・リレーションズは、自由で民主主義社会でのみ生存可能な手法です。民主主義環境が無くなると、国民を洗脳するプロパガンダが跋扈するようになります。
20世紀において何千万もの尊い命を犠牲に勝ち得たこの民主主義を守ることは私たちの次世代に対する責任と義務だと思うのです。
1月20日には米国でオバマ大統領に代わり新たにトランプ氏が大統領に就任しますが、これまで内外問題に過激な発言を繰り返してきたトランプ大統領と議会との関係はどのようになるのでしょうか?
かつて米国政府職員で米国連邦議会・上院予算委員会補佐官として共和党に奉職していた、グローバルビジネス学会理事の中林美恵子早稲田大学准教授は、「米国議会の権限は強く、マケインやグラハム上院議員などのいる共和党内の支持を完全に取り付けていない現状では、必ずしもトランプ氏の思いどおりに物事は進まないのではないか」と話します。民主主義国家のお手本であった米国の民主主義が問われる年になりそうです。
戦後70年が経ち戦争体験者が少なくなっています。
歴史は繰り返すといいますが、世界は再び混迷の道を辿りつつあると感じているのは私だけではないはずです。とりわけ1990年代に普及が始まったインターネットは瞬時に世界中の情報を共有化し、異なった価値観をもつ地域に、リアルタイムで洪水のように様々な情報を流し、時として世界を混乱に陥れ、取り返しのつかない結果をもたらす元凶にすらなっています。
このような時代には、冷静に状況を分析し判断できる知恵と感性が求められますが、国家間においては多様な視点を持つパブリック・リレーションズ(PR)の手法を取り入れることで、自国以外の国々や人々と共存する方策を柔軟に考え実行することが求められています。
パブリック・リレーションズ教育をどう進化させるか?
今年は2015年に出版した拙著『パブリックリレーションズ:第2版』(日本評論社)の中国語版と英語版が北京とロンドンで出版されます。
この訳書は、インターネットが普及しグローバリゼーションがハイパー化する中で、様々なステーク・ホルダーと良好な関係構築を行なうリレーションシップ・マネジメントを首座においたパブリック・リレーションズについて、筆者の45年の実務体験をベースにアカデミアでの理論体系を「自己修正モデル」として書き記したものです。
海外での出版を機会に、目標・目的達成のために、「倫理観」、「双方向性コミュニケーション」、「自己修正」の3要素を統合する「自己修正モデル」を世界に問うてみたいと思います。
2004年に早稲田大学(のちに大学院にも)で始めた、「パブリックリレーションズ論」は、2012年には、京都大学経営管理大学院、昨年より、国際教養大学、そして今年は神戸情報大学院大学での授業へと広がりを見せ、これまで2000名を超える受講生が社会で活躍しています。
しかしながら真のグローバル人材育成を考えた時に、ローコンテクスト型が求められるパブリック・リレーションズの教育は大学からでは手遅れ、幼児からの教育が重要になってきます。嬉しいことにいくつかの高等学校や中学校からは導入の話をいただいています。
今年はまた、数年がかりで準備してきた幼児向け絵本の第一号が出版(「リスおばあちゃんのふしぎなうた:仮題」)予定です。
そして、小・中・高向けの「パブリック・リレーションズ教育」(幼児には、「きずな教育」)の教材や教師講習教材開発なども計画しています。嬉しいことにこうした活動にかつての大学の教え子たちも携わってくれています。
以前このブログでも紹介した、ローマ教皇が警鐘を鳴らした「世界のフラグメンテーション化」つまり価値観の断片化による普遍的な価値観の共有度が揺らぎ始め、人類が自制を失い、予想しない方向(第3次大戦)へ進む可能性すら脳裏を横切ってきます。
今年も不確実な年になりそうですが、希望の持てる社会を築くことができる年であってほしいと願ってやみません。
本年もよろしくお願い申し上げます。
*「井之上ブログ」は今年から旬刊になります。
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