時事問題
2025.03.15
東日本大震災、東電福島第一原発事故から14年
〜「備えたことしか、役には立たなかった」教訓を胸に
皆さんこんにちは井之上喬です。
3月11日は東日本大震災の日。14年前のその日、私はインドからの来訪者と会議室にいました。突然の大揺れに狼狽する3人のインドビジネスマンに、テーブルの下に身を隠すように声を上げたことを、今でも鮮明に覚えています。
地震による大津波は、東京電力福島第一原子力発電所事故も引き起こし、いわゆる関連死も含めた死者・行方不明者の数は2万2000人以上となる大災害となりました。
あらためて亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、それぞれの思いを胸に、新たな一歩を踏み出している皆さんに心よりエールを送りたいと思います。
3.11の前後には、さまざまなメディアが東日本大震災特集を組みます。皆さんも多くの関連ニュースに触れ、思いを新たにされたことと思います。
特に、原発事故が起こった福島県の地元紙である福島民報と福島民友は、本紙での特集記事に加え、別刷りで20ページの特集を組みました。福島民報は「防災新視点」、福島民友は「未来を担う私たちの思い」というテーマで、将来の社会、個人のあり方に向けての視点を提示していました。
私の印象に残った報道を紹介します。
NHK「災害列島 命を守る情報サイト」の2月21日付け「3.11 東日本大震災 “M9.0巨大地震” の衝撃」です。
事故から学んだ5つの教訓
この特集では、大震災を引き起こした巨大地震、巨大津波についての多様な観測データを見やすく示すとともに、政府から地域社会までを含む、災害への備えや対応を詳細に分析、検証しています。
この震災では、事前想定の範囲や、津波避難や被災者支援のあり方など、多くの教訓が私たちに残されました。特集では、教訓を5つにまとめています。
教訓1 「想定」“想定の対象外”だった地震・津波
教訓2 「津波避難」 “大丈夫”と避難しなかった人も
教訓3 「被災者支援」避難所・災害弱者・住宅・行政対応の課題
教訓4 「広域・大規模災害への即応体制」
教訓5 「帰宅困難者」首都圏で515万人
です。
内容を少し紹介しましょう。
1000年に1度とも言われた、東日本大震災を引き起こす規模の巨大地震は、当時は「想定の対象外」でした。その後、国の防災基本計画を作る中央防災会議は、事前の想定を作る際には「あらゆる可能性を考慮した最大クラスの地震・津波」を基本に、最悪の事態を考えた、「悲観的」な想定を行うこととしたそうです。
大地震のリスクがあるとされる「日本海溝」や「南海トラフ」、「千島海溝」、そして「首都直下地震」の被害想定は、いずれもこの考え方をもとに作られています。しかし、2024年1月1日に日本海側で発生した能登半島地震をめぐっては、想定の甘さが専門家から指摘されたそうです。
国の活断層のリスク評価でも当時、能登半島地震に関係があるとみられる活断層は含まれていませんでした。断層の評価や想定が、すべてのリスクを網羅しきれていないのも現実ですね。
「備えていたことしか、役には立たなかった」
また、地震後に行った被災地の住民への聞き取り調査からは、災害の規模を実際より小さく考えて避難しなかった人がいたことも分かってきました。気象庁によると、「津波の予想の高さが3メートルとなっていて、大丈夫と思っていた」、「防波堤の10メートルには余裕があると思い家の中にいた」という人がいたとのことです。
そして私が一番印象に残ったのが以下の部分です。
「備えたことしか、役には立たなかった」
これは、震災当時に国土交通省の出先機関のトップを務めた官僚の言葉です。「あの時の機転だけでできたことなんて、一つもなかったんですよ。備えていたことしか役には立たなかった。災害が起きる前にどれだけ準備できていたか、というのが非常に大きかったんです」
まさにその通りでしょう。どれだけ想定しても、想定外のことは起こりえます。その想定外をどれだけ減らし、想定外の事態が起こっても最大限の対応が出来るようにする。そのためには、政府から地域社会、家庭、個人まで、日常の備えを地道に、怠りなくしておくことが欠かせません。
東日本大震災で残された多くの課題と教訓は、その後の災害対応に生かされているものの、昨年の能登半島地震災害でも同じような課題が繰り返された、という特集の指摘は重く響きます。
巨大地震に加え、地球温暖化が原因とみられる、これまでに私たちが経験したことのない激甚災害が毎年起こる可能性が、世界中で高まっています。
前回のこのブログでも書きましたが、パブリックリレーションズ(PR)の考え方は、危機管理も重要な要素として包含しており、災害への備えとしても大きく役立ちます。最新のテクノロジーを大胆に駆使しつつ、多様なステークホルダーとともに、地域・組織が一丸となってより実効性のあるリスクマネージメント体制の構築、これが平時にしっかりと行われるよう、14年目の今年の3.11にあらためて強く願っています。