時事問題

2011.08.29

ジョブズ氏CEO辞任に感じる大転換期  〜リーダーに求められるストーリーテリング力

こんにちは井之上 喬です。
残暑が厳しいですが、今週から多くの学校で秋学期が始まります。
夏の思い出を胸に飛躍の秋になると良いですね。

先週もさまざまな動きが国内外でありました。リビアでのカダフィ政権の崩壊、ムーディーズが日本国債格下げ、島田伸助の芸能界引退、民主党代表選挙への立候補の動きなどなど。

そのなかで衝撃的だったのは米国時間8月24日、アップルのスティーブ・ジョブズCEOの辞任発表でした。
今年1月から病気療養に専念。彼の病状からいつかはこの日が来ると思っていましたが心配されます。

パソコン時代の終焉

くしくも今年は1981年8月にIBMが「IBM-PC」を発売し、パソコン時代が幕を開けてからちょうど30年の節目を迎えました。
日本経済新聞社も大型特集企画「パソコン30年 先駆者たちの証言」を8月9日の日経産業新聞紙面から連載していました。初回の見出しは『「ジョブズの予言」超す進化』でした。

どういうことかと記事に目を通すと、「・・・実はジョブズは10年前、記者とのインタビューで台頭し始めた高機能携帯電話の将来に疑問を呈し、「パソコンは情報端末の主役であり続ける」と語った。」と“予言”を紹介。

しかし、2011年6月の新しいクラウドサービス「iCloud」の発表では「パソコンはまもなくデジタルライフの主役ではなくなる」とパソコン時代の終焉を宣言したとしています。

このところヒューレット・パッカードがパソコン事業の売却を検討しているとの報道や、ハイテク調査会社IDC社による、2011年第2四半期の世界パソコン市場での中国の出荷台数が米国(1770万台)を抜き去り初めて世界トップ(1850万台)に躍り出たニュースなど、パソコンを取り巻く環境の激変には目を見張るものがあります。
パソコン業界は地政学的にみても、またスマートフォン(高機能携帯電話)の台頭によるプラットフォームの変化などからも、いま未曽有の転換期にあるといえます。

デスクトップPCの機能が、今まさに手のひらのiPhoneやスマートフォン、タブレットPCで実現できるようになりました。
わずか30年ですが劇的なパソコンの進化の中で、ジョブズ氏はアップルを株式時価総額で世界一のIT企業に育てあげたカリスマ経営者。ジョブズ氏の後任には、順当にCOOとしてジョブズ氏を支えてきたティム・クック氏が昇格しました。

アップル社が井之上PRのクライアントだった1984年の1月24日、世界同時発表のために東京で最初に「Macintosh」の発表を行いました。当時IT業界の記録となった200人近い報道陣が出席するなかで、熱気あふれる記者会見を開催したことが昨日のように思い出されます。

新しいリーダーに求められる資質とは

S・ジョブズ氏とは80年代の初頭にシリコンバレー、クパティーノのアップル本社で会ったことがあります。当時日本進出に注力していたパソコン黎明期のエキサイティングな空気を共有させてもらいました。

彼とは詳しい仕事の話はしませんでしたが、そのときの印象は「とんがったカリスマ青年」といった感じ。

アップルIIにしてもマッキントッシュの前に発表(1983年)したマウス型の「Lisa」にしても、その開発理念や発表時のユニークなプレゼンテーションスタイルなど、彼から発せられるメッセージにはいつも心躍らされる説得力がありました。

以来、カリスマ性とともにストーリーテリングができる経営者の一人として、私は彼のプレゼンテーションには常に注目してきました。

経営トップが自ら語るストーリーテリングはパブリック・リレーションズ(PR)によって磨かれます。なぜならストーリーは、リレーションシップ・マネジメントが理解できないと語れないからです。

パソコンに代表されるIT業界だけではなく、すべての産業でグローバル競争が激しくなっています。日本企業にとっても規模の大小を問わずグローバル化は待ったなしの状況です。

新たな経営モデルを模索しながら、時代の流れを敏感に読み取る経営体制、これまで以上にスピードと決断力が経営トップに求められています。

いままさに経営トップによる、企業を取り巻くさまざまなステークホルダーに対する新しい企業像や企業ビジョン、そして自らの思いをアピールするためのストーリーテリング能力がリーダーの条件として求められているのです。

8月29日の午後には新しい民主党の代表が決まります。世界に向けしっかりとストーリーテリングができる日本のリーダーの登場を切望しています。

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