時事問題

2010.05.10

加熱する国際原発商戦、日本の勝機は? 〜急浮上する「高温ガス炉」その1

こんにちは、井之上喬です。

5月の連休中に、仙谷由人国家戦略担当相と前原誠司国土交通相はベトナムを訪問し、同国初の原子力発電所建設事業を日本企業に受注させるよう働きかけました。

「政官民が一体となって取り組もうという意識が今の日本には欠けている」と世論が高まる中で、民主党政権下、日本政府主導の相手国政府との交渉が展開されたことになります。

昨年12月のアラブ首長国連邦(UAE)の原発建設の国際入札では、後発の韓国が李明博大統領によるトップ・セールスで総額約3兆6千億円のプロジェクトを落札。

続くベトナムでの原発建設の競争入札(4基のうちの2基)にも、ロシアがほぼ受注を決めるなど、高度技術を有する日本勢は敗退を喫していました。

今回の仙谷国家戦略相のベトナム訪問で、日本政府の政策転換が見えてきます。また米国(ワシントンDC)やベトナムにこれら日本の担当大臣がトップ・セールスに出向いた記事は主要メディアが連日ニュースで取り上げ、多くのオーディエンスは勇気づけられたはずです。

そんな中で、今なぜ原子力発電が注目されているのでしょうか?

それは原子力発電が地球温暖化の大きな原因とされている二酸化炭素(CO2)をほとんど排出しないからです。

風力発電や太陽光発電、そして水素などのクリーン・エネルギーは、工業用電力など安定した大量消費の電力源として、その実用化にはまだ数十年の年月を要するとされています。それ故、つなぎ的な利用法として、軽水炉型の原子力発電が重視されているのです。

CO2の追い風を受け、1979年のスリーマイル島原発事故から新設が途絶えていたアメリカでさえ、オバマ大統領主導のもとで新たな原発建設に乗り出しています。

日米欧だけでなく原発建設の流れは中国、インドなどの新興国や途上国でも大きなうねりとなって表れています。
国際原子力機関(IAEA)によると、世界の原発は軽水炉型で、現在の約430基から、2030年には530基から800基に増加すると予想。

この背景には新興国での新設に加え、日本を含む先進国での建て替え需要が見込まれていることがあります。

そんな市場拡大を当て込んでか、世界規模で原発商戦が激しさを増しています。

原発を巡っては米国のGEや東芝、三菱重工、日立製作所、仏アルバなど世界の重電大手を中心に、各国が国家の威信をかけて受注合戦を展開しており国際原発商戦は今後もヒートアップするばかりです。

その象徴ともいえるのがあのマイクロソフト創業者、ビル・ゲイツ会長です。東芝と組み次世代原子炉を開発するというニュースは大きな衝撃を持って迎えられました。

5月2日付けの日本経済新聞(朝刊)の日曜版「サンデー・サイエンス」には、次世代原子炉にビル・ゲイツ(Terra Power社)/東芝の共同プロジェクトとともに日本の「高温ガス炉」が紹介されていました。

現在、実用化されている原子力発電は軽水炉型ですが、次世代原子炉開発で急速にクローズアップされてきたのが、「高温ガス炉」。

2004年に日本の研究炉で、世界に先駆け、水素製造に必要な温度である950度を実現した高温ガス炉が次世代原発の切り札として期待されているのです。(次号に続く)

 

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