時事問題

2010.05.17

加熱する国際原発商戦、日本の勝機は? 〜急浮上する「高温ガス炉」その2

皆さんこんにちは、井之上喬です。

先週は、原子力発電の国際商戦で苦戦する日本企業の話をしましたが、このところ原子力発電の中で、「軽水炉」型に対してもう一つのタイプで、安全性がより高い「高温ガス炉」が急速に脚光を浴びています。今回はその高温ガス炉について話します。

日経記事でベールを脱いだ「高温ガス炉」

日本の高温ガス炉の研究は、独立行政法人日本原子力開発機構によって行われています。先週もご紹介した日本経済新聞(5月2日付け)の記事には、同機構が研究レベルで2004年に世界に先駆けて水素製造に必要な温度である摂氏950度を達成したことが報じられ、新興・途上国などの海外輸出を想定した場合、高温ガス炉を使った小型で安全な原子力発電が有効とされると記されていました。

高温ガス炉の存在については、日経新聞が取り上げるまではほとんどの日本メディアに知られていませんでした。業界でも一部の専門家の間でしか知られていないことです。

なぜこれほど歴史的な偉業を成し遂げた研究が、広く知らされなかったのか不思議でなりません(ちなみに950度達成している他国の高温ガス炉はいまだにありません)。

実用的な原子力発電は大きく2つに分けることができます。一つは従来から使われている「軽水炉」、もうひとつは「高温ガス炉」です。

これ以外に先日14年ぶりに再開した「高速増殖炉」(「もんじゅ」)がありますが、核燃料が再生産される高速増殖炉の実用化にはまだ40年ほどかかるために、ここでは触れません。

関係者の話を総合すると、日本の原子力政策では、軽水炉で「電気エネルギー」、高温ガス炉では将来の水素製造を目的にした「熱エネルギー」をつくりだすこととし、それぞれの役割りが固定化されていたようです。

その結果、水素社会(熱エネルギー)の実現には30?40年もかかるとし、2004年に950度達成後も積極的な水素開発に力を入れてこなかったとしています。

途上国型でテロ攻撃に強い

しかし近年、途上国の急速な電力需要に応えるために、実用化までに時間がかかる熱エネルギー(水素)開発と並行して、小型発電施設としての高温ガス炉の役割がクローズアップされてきました。

ここで、上述の2つの原子炉の違いについて少しお話します。私は専門家ではありませんが、これまで得た知識では、高温ガス炉は、炉心構成、原子炉構造等の特性から、軽水炉などの他の形式の原子炉に比べて、「高安全性」、「高熱効率」、そして「高経済性」という3つの特徴を有しています。

加えて、軽水炉と比べ、小型化された原子炉をもつ高温ガス炉は、送電線などのインフラ設備のない途上国用に最適だとされています。いわゆる地産地消型原子炉といえるわけです。

まとめると、日本は世界をリードする国産の高温ガス炉技術を有しており、急増する世界のエネルギー需要問題を解決し、2020年までに日本が目標とする、25%炭酸ガスの排出量削減を実現するばかりでなく、新興国、発展途上国への戦略的技術支援を行うことが可能となります。

高温ガス炉は小型でも高い経済性を有するゆえ、分散エネルギー源として、燃料電池用の水素供給やコンビナートにおける大口自家発電所用など様々なニーズに応えることが可能となります。

そして高温ガス炉の技術では日本が世界の最先端をリードでき、CO2問題の解決策として最も有望なソリューションを持つ日本にとって大きなビジネス・チャンスであることに疑いの余地はありません。
途上国向けの原発輸出には、先進国ではこれまで真剣に考えてこなかった、セキュリティ問題にも留意しなければなりません。

高温ガス炉の他の利点は、地下に埋め込むことにより、施設をテロ集団のミサイル攻撃から守ることができる点です。これ以外にも高温ガス炉は多くの利点を有しています。

20世紀は石油争奪の世紀といわれるほど、エネルギー問題はいかなる国家にとっても最重要課題です。
これまで高温ガス炉は、国内利用として熱エネルギーを取り出す目的で考えられていましたが、世界的な急速な電力需要に応えるために発電施設としての役割が期待されているのです。

こうしたプロジェクトを社会の理解を深めつつ行う上においても、リレーションシップ・マネジメントであるパブリック・リレーションズ(PR)なしに推進することは困難といえます。

今後も、水が原料の水素製造を可能にする高温ガス炉について取り上げていきたいと思います。

 

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