時事問題
2008.05.03
衆院山口補欠選挙が語るもの
こんにちは井之上喬です。
皆さん、新緑が目にまぶしいゴールデン・ウイーク、いかがお過ごしですか?
4月27日に福田政権発足後初の国政選挙となった、衆院山口2区補欠選挙では、民主党の前衆院議員で社民党推薦の平岡秀夫氏が、自民党新人で公明党推薦の前内閣官房地域活性化統合事務局長山本繁太郎氏を得票率20%以上の差で勝利。ガソリン税や4月からスタートした、後期高齢者医療制度への不満が民主党勝利の大きな要因となったとされています。
総力戦の果て
今回の選挙では与野党とも今後の国政の行方を占う重要な選挙と位置づけ、それぞれの党幹部を選挙区に送り込み、総力戦を展開しました。自民、民主の代表も現地入りし、自民党福田総裁は、選挙の人気取りだけでガソリン税の切り下げを主張する民主党を非難する一方、民主党小沢代表は、長期政権の弊害を指摘し、国民の生活に目を向けた政治の必要性を説くなど、加熱したものとなりました。
選挙期間中、地方の活性化を訴える自民党とガソリン税や後期高齢者医療制度の廃止を訴える民主党との闘いは拮抗していたかにみえましたが、終盤での後期高齢者医療制度の不備が次々にメディアで取り上げられ露呈。自民党の敗北は、お年寄りにしわ寄せする制度への批判が有権者の間で急速に高まった結果といえます。高齢者の支持が多い自民党にとっては今後の政局運営を左右する大きな痛手となりました。
後期高齢者医療制度の実体について、理解している人はほとんどいないと考えた方が自然です。この制度は、新しく制定された高齢者医療確保法に基づく後期高齢者医療制度として、小泉政権時代の2006年6月に立法化されたもので、その施行が2008年4月1日から始まったものです。国会での批准後、制度の国民への周知徹底のための時間的猶予は2年近くあったはずでした。
果たされない説明責任
田原総一郎さんは、BPnet mail 05/02朝刊の「なぜ自民は山口で惨敗したのか」の中で、後期高齢者医療制度の問題について、制度自体の良し悪し以前の問題として、この制度についての与党の説明責任の欠如が一番の問題であることを指摘しています。
そして、「本当にこの後期高齢者医療制度について書かれた自民党の説明書や厚生労働省の説明書などを読んでも、何を言わんとしているのか、何のためにやるのか、さっぱり分からなかった。何でこんなに分かりにくいのか。」と疑問を投げかけ、元大蔵官僚の榊原英資さんの現役時代の話を披露し、「『官僚の書く文章は、暗号だ。国民にはさっぱり分からないように書くのが官僚の文章なのだ。だいたい官僚の書くものは国民に理解されては困るものが大半なのだが、その中でも特に理解されて困るものは徹底的に分かりにくく書く。官僚仲間にだけわかる暗証番号がないと、その暗号は解けないのだ』。つまり、わざと分かりにくく書いてあるから分からないというのだ。」と官僚の作成する文章が説明責任を果たすことからほど遠いことを批判しています。
私も2001年に日本でのBSE問題に関わったことがあります。農水省のプレス向け資料を手にした時は、文章のあまりの難解さに愕然としたことがありました。当時の広報手法や広報体制についての問題点を指摘したことがありましたが、真の答えは田原さんの記事にある榊原さんの話のなかにあったのでしょうか。当時とはいえ、官僚が本当にそのような意識で行政に関わっているとしたらおぞましい限りです。こんな話はパブリック・リレーションズ以前の問題ですが、いずれにせよ日本の公的機関のシビル・サーバントとしての心構えや志が希薄なのには憂うべきものがあるといわざるを得ません。
山口の補選では、制度の適用を受ける多くの有権者が知らされないまま制度の発効を迎え、自らに降りかかって初めてことの重大さに声を上げ、投票行動に出たということになります。政権与党、自民党の敗北は、制度そのものに対する不満と共に、行政を把握できず、結果として説明責任を果たさなかったことへの有権者からの厳しい判定とみることができます。自らが掘った墓穴に落ち、民主党を利することになったのです。
そんな中で、ガソリン税の暫定税率を復活させる税制関連法案を与党が4月30日に衆院で再可決しました。
それにしてもこのところの政治は行なうことがチグハグして迷走状態。福田政権への支持率も20%を切りました。各種世論調査では、「衆議院を解散し、総選挙により民意を問うべき」とする声が高まっています。
パブリック・リレーションズは、明確な目標設定を行い、個人や組織体、国民や国家、地域や世界をよりよい方向へ導いていくための、関係構築(リレーションズ)活動です。混迷にあるときにこそ、倫理観、双方向性コミュニケーション、自己修正機能を持つパブリック・リレーションズが求められているのです。
5月3日は憲法記念日。国民の政治への関心は一段と高まっています。