交遊録

2017.08.23

橋本明さんのご逝去を悼んで〜自由奔放に生き切った畏友

残暑お見舞い申し上げます。

長きにわたり親交のあった橋本明さんが、72回目の終戦記念日を前に8月13日84歳でご逝去されました。

橋本さんは、天皇陛下のご学友として、ジャーナリスト、評論家として著名な方。また、内閣総理大臣を務めた故橋本龍太郎さんや高知県知事を務め、現在はテレビ朝日「ワイドスクランブル」のキャスターを務めている橋本大二郎さんとは父方の従弟同士ともなります。

橋本さんは、1933(昭和8)年、神奈川県生れ。学習院大学政経学部を卒業後1956年に共同通信社に入社。その後同社社会部次長、外信部次長、ジュネーヴ支局長、ロサンゼルス支局長、国際局次長、ジャパンビジネス広報センター総支配人などを歴任。

パブリック・リレーションズ(PR)の分野でも、日本PR協会理事や長野オリンピック組織委員会メディア責任者、国際オリンピック委員会報道委員会委員などを務められた私たちの大先輩でもありました。

私の心に残る本

橋本さんは学習院初等科より明仁天皇の同級生。皇室関係の著書には、『平成皇室論: 次の御代へむけて』(朝日新聞出版 2009)、『知られざる天皇明仁』(講談社 2016)、そして『美智子さまの恋文』(新潮社 2007)などがあります。

私のブログ(2007年5月26日)でも橋本明さんの著書『美智子さまの恋文』 を採り上げました。その内容を抜粋して紹介しますが、詳細についてブログを一読いただければ幸甚です。

皇后美智子さまがご成婚前と、皇太子さまをご懐妊中に天皇陛下に出された2通の手紙。ここには皇后陛下の静かで深い決意と揺れるお気持ちが、みずみずしいまでの美しい日本語で語られています。

この手紙を通して皇城の時の移ろいを垣間見ることができます。昭和の激動の世紀から平成にかけた皇室の変貌を、民間初の皇妃となった女性の心中を軸に描かれ、天皇のご学友が見た宮中裏面史ともいうべき内容です。

ジャーナリストとしての鋭い視点と自由奔放に生きてきた橋本さんらしい率直な語り口、趣ある豊かな日本語。橋本さんの美しく伝統的で切れ味のいい文章は十分満喫できるものです。

橋本さんからは、海外旅行の旅先でご学友である天皇陛下との思い出を語って頂きました。太平洋戦争の最中奥日光へ疎開した時のエピソードなど往時を懐かしむように語ってくれました。

公私にわたって

私が橋本さんと初めてお会いしたのは、ジャパン・バッシングが激しかった80年代後半。私が日本PR協会の理事で国際委員長をつとめていた頃のことです。橋本さんも同じ委員会の仲間で国際セミナーを企画するなどお仕事をご一緒させていただきました。以来公私にわたり長いお付き合いが続きます。

橋本さんとは、仕事でも随分お世話になりました。1996年末から翌97年にかけてペルーの首都リマで起こった在ペルー日本大使館人質事件で人質解放に尽力し、事件解決に深く関わったシプリアニ大司教の公式訪日の際のことです。

井之上パブリックリレーションズが非公式行事に関する仕事を担当していましたが、その際持ち上がった問題の解決に助力いただいたことがあります。

帰国していた大使館人質解放者の方々と大司教との公式ミーティングで、外務省設営の再会行事に出席を躊躇する人質関係者との面会を実現させるべく橋本明さんに相談。その結果、本人を介しプライベートチャンネルで久美子首相夫人の仲立ちで渋谷のカトリック教会で面会が実現したのでした。

また1994年10月の日米自動車・自動車部品交渉決裂の際は、米国の通商法301条適用対象に補修部品が認定され、日本の自動車産業は57億ドルの損失を被ると推計され、深刻な局面を迎えていました。

ここで日本の自動車補修部品市場の不公正な実態を調査した当社の「テネコ・リポート」が、日米交渉の落とし所を巡るなかで、日米両国政府の議論の有力資料とされたのでした。翌95年8月には日米が妥結するに至り、規制緩和が実現することとなりました。

紙面の都合で詳細は記述できませんが、下記Webサイト「イチ企業のPR戦略を超え、国家間の経済摩擦解消に貢献」に概要が載っていますのでご参照ください。この事例でも当時の通産省(橋本龍太郎大臣)に対するガバメント・リレーションズにおいて様々なアドバイスをいただきました。
https://www.pr-table.com/inouepr/stories/641

橋本さんは美声の持ち主でもありました。自身が所属するコーラスグループのリサイタルに招かれたり、また私が大学時代の音楽サークル仲間と催している恒例の発表会にご夫妻で参加いただくなど、公私にわたって親しくさせていただきました。

これまでの橋本さんとの交遊が走馬灯のように浮かびます。23日午後6時から桐ケ谷斎場で催されるお通夜に私も参列します。橋本さん、これまでいろいろありがとうございました。ご冥福を心よりお祈り申し上げます。

祈りのうちに—————- 井之上 喬

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