交遊録

2015.03.12

『きずなづくり大賞2014』から〜「家族」と「地域」と「仲間」のつながりの大切さ

こんにちは、井之上 喬です。
この原稿をしたためている今日は奇しくも3月11日。

東日本大震災から4年の歳月が経とうとしています。災害という厳しく辛い経験の中から私たちが学んだのは、『家族』、『地域』、『仲間』というつながりの大切さでした。」ときずなづくり大賞2014の入選集巻頭で社会福祉法人東京都社会福祉協議会の古川貞二郎会長(元内閣官房副長官)は、述べています。

ちなみに古川さんについては、この3月1日から日本経済新聞(朝刊)の人気コラム「私の履歴書」で連載されています。

今年8回を数える「きずなづくり大賞」には、家族や地域の多様なつながりを表現した作品が数多く集まり、市民同士が工夫しながら支えあっている素晴らしい実践が紹介されています。

東京都社会福祉協議会が主催する恒例のエッセイ・コンテストの第8回表彰式が2月26日、京王プラザホテル43階「ムーンライト」を会場に催されました。私も「きずなづくり大賞」運営委員会の委員として出席し、入賞者の方々と歓談し、楽しい時間を過ごしました。
今回は、入賞11作品の中でも私の心に強く残った2つの作品について紹介したいと思います。

「あさやけ子ども食堂」

先ずは、満場一致で東京都知事賞に輝いた山田和夫さん(東京都豊島区)の「あさやけ子ども食堂」です。

五年ほど前に奥様が亡くなり、同じ頃サラリーマンを定年退職。さらに原発事故の影響で息子夫婦が関西に移住し、一人暮らしのどん底ともいうべき日々を過ごしていた山田さん。

そんなある日、大田区で「子どものための食堂」をやっていると教えてくれた方がいて、山田さんはさっそく見学に行きました。子どもたちが集まって、美味しそうにご飯を食べて、そこには一家団簗の暖かさがあり楽しそうでした。

その時、同じことを自分の家を開放して出来ないだろうかと山田さんは思いついたようです。

それからの山田さんの準備は大変でしたが、とうとう2013年の春に「要町あさやけ子ども食堂」をオープン。長い夜が終わって、もうじき夜明け、でも今はまだあさやけの時。そんな気分で名前をつけたそうです。

「子ども食堂」は、子どもだけでも入れる食堂と銘打って、一食300円で夕食を提供。食堂には、親の帰りが遅く夕食を一人だけで食べていた子や、不登校だった子、赤ちゃん連れのシングルマザーなどが立ち寄ります。

みんなで同じご飯を一緒に食べる。食べた後は、幼児から高校生の年代の子までが、一緒になって遊びます。子どもたちはすぐに仲良くなるのです。お料理は、調理を担当してくれるスタッフに加え、ボランティアをしたいという方が次々と来られ、学生さんからお年寄りまで老若男女が入りまじり、わいわいみんなで作ります。

現在、開店から一年半ほどになり、素敵なことがたくさん起こっていると山田さんはいいます。誰がどうしたというわけではなく、子ども食堂という「場のちから」によるものだと考えているようです。

山田さんの子供食堂は、これまで朝日新聞やNHKでも大きく取り上げられていますが、こうした動きが全国的な展開になることを期待したいと思います。

「きずなづくり」は、リレーションシップ・マネジメント

2つ目の作品は東京都社会福祉協議会会長賞の小池常雄さん(東京都町田市)の「エミおばあちゃんのほほえみに?畑がつなぐ地域と命のきずな」です。

「私が生きているあいだだけだよ…。それでもいいかい?」…と、エミおばあちゃん(仮名)が微笑みながらいう。この言葉が、私の週末を、農業生活に変えてしまったと小池さんはいいます。

おばあちゃんはもう80代半ばで耳は遠く、腰は曲がって随分小さくなった。けれど元気に、自宅の裏畑を毎日のように耕しています。

近くに住む小池さんは、この畑の一部を無償でお借りして、子供たちと作物づくりをすることになりました。

夏から秋にかけては、サッマイモを主として、エダマメ、ラッカセイ、ヤーコン、トマト、キュウリ、ウリ、サヤインゲン、カボチャ、ワタ、ソバなど。冬から春にかけては、ダイコン、ユカブ、サヤエンドウ、ソラマメを育てたといいます。

作物を育て、子供たちに収穫させるまでには面白いドラマが沢山生まれます。イモ畑に潜んでいたネズミが飛び出して子供たちが大騒ぎする事件やカボチャ畑に謎の巨大ウリ出現事件などなど。

毎日食べている食材がどうやって作られるのか、どうした苦労や手間がかかるのか。スーパーで買い物していては、決してわからないことが経験をとおして子供たちに伝授されるのです。

地域の子どもや大人たちが農業を通して作物を育て収穫する喜びに触れながら、人や自然とのつながりを回復していくという取り組みは、読むにしたがって心がだんだんと温まってくる作品でした。

そのほか、過疎化の進む地域で、伝統的な食文化を活かしビジネスを始めた高齢者の方々の取り組みを描く「落人味噌出来ました」(運営委員会委員長賞)は大変ほほえましく、元気をいただきました。

また、知的障害のある人たちと高齢者施設の方々との歌を通した交流を描く「歌で心を一つに」(東京新聞賞)にも心を惹かれました。社会から疎外されている障害者が高齢者施設を訪問することで、自分たちも役に立っていることを自覚していく話です。

大病を患った経験から、患者さんやその家族の孤独に気づき、インターネットで支えあえるシステムをつくる元コンサル会社の方や、アウトドアでの結婚式をいろいろな方たちと一緒に企画するといった新しい時代のつながりを感じさせてくれる「絆インフラ作り」(東京都社会福祉協議会会長賞)も素晴らしい作品でした。

これまでこのブログを通して、「パブリック・リレーションズ(PR)は、主体(企業・組織・個人)を取り巻くさまざまなステークホルダー(パブリック)との間のリレーションシップ・マネジメント」であると紹介してきました。

「きずなづくり大賞」の入賞作品のそれぞれに「家族」と「地域」、あるいは「仲間」とのリレーションシップ・マネジメントを構築していくための示唆が沢山認められます。

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