交遊録

2010.02.11

ワシントンのNPBに出席して〜オバマ大統領のモチベーション

こんにちは、井之上喬です。
皆さん、いかがお過ごしですか。

先週出張で、ニューヨークとワシントンDCを訪問しました。訪問の主目的は、ワシントンDCでのNational Prayer Breakfast(NPB:大統領朝食会)への出席。昨年1月ワシントンで行なわれた、オバマ大統領就任式でテレビから伝わってきた寒さは厳しいものでしたが、現地ワシントンでは88年ぶりの豪雪の直前。東京では体験できない厳しい寒さでした。

NPBは毎年米国大統領出席のもとで行なわれるもので、世界平和を祈る目的で毎年2月に開かれています。今年はオバマ大統領、ミシェル夫人に続き、バイデン副大統領、ヒラリー・クリントン国務長官、マレン統合参謀本部議長など米国政府の要人や上下両院議員、海外からはスペインやフィージーの首相や政府要人、議会関係者、宗教指導者など約140カ国から3000名を越える人が招かれました。

覚醒するリーダーに触れて

NPBは1953年、アイゼンハワー大統領の時代に、上下両院議員を中心に党派を超えて始められたもので、当時のPresidential Prayer Breakfastの名称は現在の名称に変更。発足時は議会関係者が中心で、党派を超えた連邦議員の個人的な交友を深める目的で始められたようですが、やがて世界各国に広がり、宗教や民族、政治体制を越えた個人のつながりを深めるための朝食会として定着しています。

毎年2月第1週に行なわれるこの行事への出席は私にとって今回が3度目。大統領朝食会の前後にはさまざまな食事会があります。NPBでは着席するテーブルが毎回異なる関係もあり、新しい友人に出会えるのも楽しみのひとつです。

オバマ大統領は席上、「人にしてもらいたいことを、人にしてあげる」ことの必要性を説きました。また「米国は礼節を取り戻す必要がある。祈りは私たちを高慢から守り、我々の心を謙遜にしてくれる」と語り、「成功した時にこそ謙遜になり祈ることが必要」と祈ることの大切さを説いていました。

また「(私の)政策を問題にしてもいいが、動機(motivation)を問題にしないでほしい」。たとえ政策が異なっていてもMotivationが同じであれば相手を受け入ることができるはず、と訴えました。物事を成し遂げるためには目標達成のためのモチベーションが重要となります。国内で医療年金や雇用問題、増税問題など多くの問題を抱えるオバマ大統領が苦悩の中で目標に向かって突き進んでいこうとする強い信念を感じ取ることができました。

また「我々を隔てているのをみるのではなく、互いの共通点を見つけよう」。そしてYou see face of God in enemiesと敵の中にこそ神を見ることができると説いたアブラハム・リンカーン(1809-1865).の言葉を引用。双方が共存できる方法を考えることを訴えました。9/11事件しても、テロの非人道性を叫ぶと同時に、「彼らがなぜ攻撃したのかを考えなければならない」とも語ったのです。相手の視点に立つことの重要性が伝わってきます。

オバマ大統領は最近起こっている数々の問題に対して、「我々は貧困や諸問題に直面しても、日常化したものに無神経になりやすい。自分の快適な空間(comfort zone)から飛び出し、求められているものに答える必要があるのではないか」と、自分の中に閉じこもらず外に目を向け行動することを促しました。

リーダーが持つべき謙遜さ

オバマ大統領のスピーチに先立ってヒラリー・クリントン国務長官のスピーチがありました。ヒラリーは1993年から出席しているようで、「1953年のアイゼンハワー大統領が出席した最初の朝食会は、わずか200名ですべて男性。それが今では世界百数十カ国から多くの女性も出席する会になった」と喜びを表わしました。

そして出席者全員に向かって、「これまでこのNPBには大統領夫人として、また知事として、上院議員そして国務長官として出席してきたが、私たちはそれぞれ政策や理念が異なっていても、ビジョンや許しや愛に対する思いは同じはず」と語りかけました。またリーダーの果たすべき責任について、最近起きた「ハイチ地震では多くのグローバル・リーダーが試されている。私たちリーダーには問題解決の責任がある」と訴えかけました。

最後に、94年にマザー・テレサがNPBに出席した時のことを話してくれました。サンダル履きの小柄なマザー・テレサはそのスピーチの中で、当時出席していたクリントン大統領に向かい、「世界平和を祈るために私たちは集っているのに、人工堕胎を認めるあなた(大統領)には平和を語る資格はない」と夫クリントン大統領を叱責したエピソードを紹介。

マザーはスピーチのあとヒラリー夫人に呼びかけ、ワシントンに「子供の家」を一緒に建設することを提案したそうです。ヒラリーはこれを受け入れ、翌年の95年6月に孤児院「マザーテレサ・ホーム」がワシントンにオープン。ヒラリーによると、その間マザーはベトナム、カンボジアなど、マザーの出向く先どこからでも矢継ぎ早の電話をかけてきて進捗状況を聞いてきたそうです。マザー・テレサの偉大さを感じさせる話でした。

この話は朝食会の後に話題となりました。偶然に94年の朝食会に出席していた人が、マザー・テレサのあとのクリントン大統領のスピーチの一部を話してくれました。大統領はこのマザーの強い叱責で、「誰かがバスケットの試合で見事にシュートしたあとに、自分が隅でドリブルしているみたいだ」と、自分の存在がいかに小さなものであるのか、その気持ちを出席者の前で素直に明かしたといいます。自分の非を認めることができるリーダー像をみる思いがします。

大統領朝食会のあと5日の昼から強い雪が降り始めました。ワシントンの空港のフライトが全てキャンセルされたことを知り、一日予定を早め、大急ぎで荷造りをしてホテルをチェックアウト。ワシントンのユニオン・ステーションで、間一髪で電車に飛び乗り無事ニューヨークに到着し、銀世界のJFK空港を後に帰国の途に着くことができました。

パブリック・リレーションズ(PR)は個人や組織体と社会の間のインターメディエータ(仲介者)。複雑化する世界をしっかりつなぎ、目的達成のために良好な関係構築を行う手法です。世界平和のための道具として使われるよう祈りたいと思います。

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