アカデミック活動
2006.09.15
伝統あるボストン大学で2人の教授とミーティング
こんにちは、井之上喬です。
皆さん、いかがお過ごしですか。
ホノルルを後にして学術の都、ボストンへと飛びました。私が今取り組んでいる論文のフィールド・サーベイを行うためです。今回はパブリック・リレーションズの学部が米国ではじめて設置されたボストン大学で2人の教授にお会いしたお話をお届けします。
1839年に創立されたボストン大学は、全米で4番目に大きな私立大学として多くの著名人を輩出しています。
1947年ボストン大学は、いち早くパブリック・リレーションズの重要性を認識し、School of Public Relationsとして全米で初めてパブリック・リレーションズの専門教育を行う学部を創設しました。今では、College of Communicationと名前を変え、ジャーナリズム、パブリック・リレーションズ、広告の三つの分野にわたって専門教育を提供しています。
気さくで品格のあるオットー・ラビンジャー
そんな伝統あるボストン大学でパブリック・リレーションズを教えるオットー・ラビンジャー(Dr. Otto Lerbinger)とその後継者ドン・ライト(Dr. Donald Write)に会いました。
ラビンジャー教授のその気さくで品格のあるお人柄は、初対面とは思えない友達との間で交わすような会話を楽しませてくれました。
ラビンジャーさんは50年以上にわたる教育や研究活動を通して、米国で著名なパブリック・リレーションズの学者です。もともと経済学者であった彼は、MITで博士号を取得。後にパブリック・リレーションズの学者となりました。特に企業経営にパブリック・リレーションズがいかに重要かを説き、組織体におけるパブリック・リレーションズつまり、コーポレート・パブリックリレーションズやコミュニケーション論を専門とし、危機管理やマネジメントにおけるパブリック・リレーションズに関する本や研究論文を数多く執筆しています。
ボストン大学では1954年に教鞭をとり初め、以来50年以上にわたり同大学でPRを教え、何度も学部長もつとめるなどパブリック・リレーションズを心から愛する教育者。これまで日本、韓国、中国、台湾、タイ、中東などアジアからの学生や、欧州をはじめ世界各国からPRを学びにやってくる学生を教えてきました。2年前には同大学の名誉教授となっていますが、現在も現役でいくつかの授業を持ち精力的に活動しています。
彼は、「パブリック・リレーションズはマネジメント機能の一部」だとして、パブリック・リレーションズが経営中枢において機能することではじめて組織体の経営や運営が良好に機能すると話していました。
彼の身のこなしはとても軽く、年齢を聞いてびっくりしたのですが、81歳とは思えない足取りで、キャンパス内をいろいろと親切に案内してくれました。
一方、ドン・ライト教授は、1990年代に私がIPRA(国際PR協会:本部ロンドン)の役員(Board Member)をつとめていたときの仲間。とても爽やかな人柄で、1997年に私が議長をつとめた、パブリック・リレーションズの専門性を高めるための啓蒙書「IPRA Gold Paper」(3年に一回発行)へ寄稿してもらうなど、アカデミックな領域でも交流があった人です。
彼はその後IPRAの会長を務め、2000年にシカゴで開催されたIPRAとPRSA(米国PR協会)のジョイント世界大会の開催に共同議長として大きく貢献しました。彼はこれまで南アラバマ大学でパブリック・リレーションズを教えていましたが、この9月からボストン大学で教鞭を執っています。
彼のボストン大への赴任は、同大学でPRを学んだ関西学院大学助教授の北村秀美さんから渡米前に偶然聞き、ドンとボストン大での6年ぶりの再会をはたすことになったのです。ドンの招待で、ラビンジャーさんともども中華レストランでランチをはさんで大学の授業のことや、米国のPRの現状などについて楽しく語らいました。
ラビンジャーさんに案内してもらったボストン大学の図書館を訪れて気づいたことは、外国新聞のセクションに日本の新聞がひとつも置かれていなかったことです。欧州系が中心でしたが日本のプレゼンスの低さにがっかりさせられたと同時に、日本からの働きかけ不足を痛感しました。他の大学でも同じような状況にあることが推察されますが、次世代を担う世界の若者に日本を理解してもらういい機会として、将来への投資と考え、新聞や書籍を寄贈する動きがあってもいいのではないかと思います。特に知的好奇心をさそうこれらの媒体は、日本を知ってもらう格好のPR素材です。
私の共著本が授業の教科書に
ラビンジャー教授は、私の提唱する自己修正論にも大変興味を示してくださいました。特に倫理観に支えられた自己修正(Self-Correction)の概念に関心があったようです。私の著書『パブリック・リレーションズ』をお読みになった方はよくご存知だと思いますが、自己修正論は、「パブリック・リレーションズには倫理観と双方向性コミュニケーションを伴った自己修正が必要」とし、従来の経済効率重視型モデルから、21世紀の複雑化する多文化・グローバル社会の中での共生型モデルの根底となる理論です。
ラビンジャー氏は、以前、訪問前のやり取りのなかで、私が共著の本(Global Public Relations Handbook、このブログの右下にある最後の本をご覧ください)を読んだといってくださっていましたが、実は、彼が学生に教えている「International Public Relations」の授業のなかでこの本が、テキストブックとして使用されていることが分かり、とても嬉しくまた光栄に思いました。ちなみに、私の自己修正モデルは、英訳で、「Self-Correction Model」としてその本の中にも紹介されています。
その日の別れ際に彼が、「今度授業で、その著者に会ったと学生に言っておくよ」とウィンクしながらチャーミングに微笑んでくれました。
忙しい中、貴重な時間を割いてくれた、オットー・ラビンジャーさん、ドン・ライトさん、ありがとうございました。
次週は米国の首都ワシントンDCに飛び、PRの4つのモデルを提唱する、現在のパブリック・リレーションズにおける最も著名な学者であり研究者、ジェームズ・グルーニッグをメリーランド大学に訪問します。お楽しみに。