皆さんこんにちは、井之上 喬です。
九州北部を襲った記録的な豪雨で、福岡県と大分の各地で多大な被害が出ています。被災者や関係者の方々に心よりお見舞い申し上げます。
週末の7月9日(日)に私が副会長を務めるグローバルビジネス学会(丹羽宇一郎会長/小林潔司理事長)の2017年度「研究発表会」 (実行委員長:高木朗義岐阜大学教授)が岐阜の長良川で実施されました。岐阜大学との共催により「地方活性化とグローバルビジネス」を統一テーマに岐阜市の「長良川うかいミュージアム」(写真左)を会場に催されました。
写真右は左からグローバルビジネス学会の小林理事長、丹羽会長と筆者
このミュージアムは、2012年8月に伝統文化である「長良川の鵜飼」の価値を分かりやすく紹介・情報発信する場として岐阜市長良鵜飼屋の地に誕生したものです。
長良川に面した会場は自然を生かした設計で、金華山頂上の織田信長ゆかりの岐阜城を眼前に仰ぎ見ることができます。
天気に恵まれた研究発表会には昨年を上回る28件の発表が行われ、活発なディスカッションが続きました。
私は、「地方活性と教育」をサブテーマに午前中に行われた5つのセッションのモデレータを務めました(写真右)。その概要をシンプルにご紹介します。詳細は、下記グローバルビジネス学会ホームページの「予稿集」をご参照ください。
http://s-gb.net/seminar_studygroup/2766/
映画制作体験授業など
1)「実践型インターンシップを通じた地域産業のイノベーションの実現」 南田修司 NPO法人G-net
少子高齢化、生産年齢の人口減少など地域が抱える課題は根深く長期的視点では、産業活性と担い手となる人材確保に大きな課題があるとしています。
こうした状況の中で、双方を両立するプログラムとして実践型インターンシップが効果をあげています。岐阜に拠点を置くNPO法人G-netが取り組む実践型インターンシップ「ホンキ系インターンシップ」の実践事例をもとに企業側、若者側の効果について発表。
2)「アクティブ・ラーニング型講座のオンライン化による学習効果」 炭谷俊樹 神戸情報大学院大学 学長
多くの双方向対話を必要とするアクティブ・ラーニング型講座はオンライン学習には不向きとみなされてきましたが、最近のインターネットベースのビデオ会議システムは、遠隔地に散らばった参加者間のリアルタイム双方向の会話や小グループでのディスカッションをも快適に行うことができるとしています。
このようなビデオ会議システムの一つである「ZOOM」を用いて、アクティブ・ラーニング型の講座「ナビゲーション講座」のオンライン版を実施し、その学習効果について発表。
3)「映画製作が寄与する社会人基礎力の向上の考察」 古新舜 コスモボックス株式会社 代表取締役
文部科学省は2014年、教育現場における「アクティブ・ラーニング」の導入を提言。これは社会の多様化やグローバル化が進む中,主体的・対話的な深い学びを教育現場で実践するあり方であるとしています。
古新さんは、このアクティブ・ラーニングについて映画制作を通じて行っているPBL(Project-Based-Learning)、すなわち課題解決型学習を通じて本活動を実践することで、学修者の主体性、協調性を引き出し、社会人基礎力の向上に如何に寄与できるかを考察しています。
新しいパラダイムが求められる日本の教育
4)PlanE:Checklist for Japanese University Undergraduate System Paradigm Shift 八木 エドワード 麗澤大学 教授
日本の教育は、大学に問題点が山積していと指摘しています。八木さんによると既存の改革のパラダイムは失敗し、新しいパラダイムが求められているといいます。
日本の大学のゆるさだけでなく、大学入学試験の問題、t-スコア(偏差値)へのこだわり、塾制度、学術分野や行政における英語力不足、そしてグローバル経済に要求される批判的思考、コミュニケーション能力や語学スキルも大きな問題になっているとのこと。
これらは八木さん自身が大学院で学ばれた経験や4人のお子さんの通学(保育園から高等学校)から得た知見、国内大学・大学院で教鞭を取られたことなどの実体験に基づくお考えのようです。
5)梅田眞司 Social Design Laboratory「フィンランドの教育の体現による、学びの意欲向上」
この研究の目的は,フィンランドの教育のあり方をクラスに体現することにより、日本の教育現場においてもその教育のあり方が学習者の学習意欲の向上や脱落者の防止に有効であるかを模索することにあったといいます。
最終的に一部の測定項目においていわゆる進学校の生徒たちの出すアウトプットと遜色のない結果が認められたといいます。この一連の活動を通して、生徒たちの学習意欲の向上が認められ、脱落者防止に寄与する結果が得られたとしています。
話は外れますが、「4)PlanE」をプレゼンテーションいただいた八木さんとは何と20年ぶりの偶然の再会となりました。当時私は、1994年10月に決裂した日米自動車・同部品交渉においては、米国大手自動車部品メーカー、テネコオートモティブのPRコンサルをしていた時期で、八木さんはキャリア外交官としてアメリカ大使館の経済担当で、いわばカウンターパートでした。
外国人の研究発表の中には、日本の大手企業の現状について「いまだ20世紀の成功モデルを追いかけ、沈みゆく巨艦タイタニック号で、その危機にも気づかずに蝶ネクタイをした楽団員が演奏を続けている」と厳しくコメントし、オーナー経営者の多い地方企業への期待を表すものもありました。
紙面の都合で全てを紹介できないのが残念ですが、トランプ政権とアメリカ議会についての発表や最新の冷凍技術による日本の農林水産業の強化などいずれも興味深い内容の発表が盛り沢山でした。
今回の「研究発表会」でのそれぞれの研究成果を聴くにつけ、グローバル化、ハイパー化が加速する中にあって地方活性化のために強力な推進力を持つパブリック・リレーションズ(PR)がますます重要な役割を担っていることを改めて実感しました。
大会前日の懇親会は長良川名物の鵜飼の篝火(写真)を楽しみながらのバーベキューパーティーで地方都市ならではの学会大会を満喫することができました。
そして20年ぶりとなる偶然の再会や発表者それぞれの地方活性化への思いを熱く感じながら、岐阜市での一日が過ぎていきました。