アカデミック活動

2010.01.11

北川正恭さんを授業に迎えて〜マニフェストの勝利

こんにちは井之上喬です。
今日1月11日は「成人の日」。皆さんいかがお過ごしですか?

先日、2004年4月にスタートした早稲田大学での私の授業「パブリッ・リレーションズ概論」のゲスト・スピーカーに、同大学院公共経営研究科の北川正恭教授(前三重県知事)をお招きしました。北川先生は私の授業には2005年から登壇してくださっています。

北川さんはマニフェスト選挙の立役者。2003年の選挙から日本に導入したマニフェスト選挙は昨年7月の都議選に続き8月の衆議院議員選挙が総仕上げとなりました。1955年以来の自民党の長期政権を倒し、選挙によって初めて民主党政権を誕生させました。今回の講義では、マニフェスト選挙が果たした役割や民主主義社会を完成させるために何をなすべきなのか。これから社会人となっていく、若者への強いメッセージが込められていました。

結実したマニフェスト選挙

昨年8月の衆議院議員選挙はマニフェスト選挙として各党が政権公約を掲げました。メディアも各党のマニフェストを紹介し国民への投票行動を促しました。その結果選挙民は、マニフェストがより明確で国民目線をもった民主党を、次の政権党として希望を託す相手として選択したといえます。

北川教授は、「これまで日本の選挙は政策で争われることなく、お願いや陳情に訴えてきた」とし、選挙は「地盤」「看板」「鞄」の「ドブ板的なキャンペーンにしがみついてきた結果が860兆円の借金をつくった」。そして一票による投票で55年体制を壊し、政権交代で国民主権を実現したとしています。「マニフェストはお願いから、約束に変えるために提唱されたもの」とし、マニフェストが国民への約束事のために使われだしたと語りました。

北川さんはまた、気象学者エドワード・ローレンツの「北京の蝶々」のたとえ話を引き出し、「北京で一羽の蝶々が羽ばたくとニューヨークでハリケーンが生じる」とバタフライ効果について話をし、江戸末期に、坂本竜馬が羽ばたくと共鳴して、西郷隆盛、勝海舟らが羽ばたき、次から次へ共鳴者による羽ばたきで明治維新が実現したと語っています。マニフェストで一羽の蝶々を羽ばたかせ、他の知事が共鳴しマニフェストが鳴り全国へ伝播されたと語っています。

また、「戦後、世界で50年以上も政権が変わっていない国は、日本以外にキューバと北朝鮮だけ」と断じ、日本は「世界第二の経済大国とはいわれても、民主国家といわれたことはなかった」と日本の未成熟な民主主義を指摘。しかし、権力の交代は通常武力戦争によってなされ、「一票による革命で政権交代できる国は世界200カ国のうちわずかしかない。今回の日本の歴史的な政権交代は、『一票による革命』で実現した」と、先達が54年間、営々と積み重ねてきたものが初めて実現したことは、世界に誇りうることで大いに情報発信が可能としました。

北川さんは、「民主主義は民が主力の制度、民が主権者だからこそツー・ウエイ性を有するパブリック・リレーションズ(PR)が機能し、新しい時代にあった政治行政が行われなければならない」と情報公開が進むことで、政治のありようも変わり、パブリック・リレーションズがより求められることを強調。

しかし「マニフェストは特定の政党を応援するものではない」とも説いています。むしろ真の民主主義国家において、「政権党がマニフェストを思うように具体化できないときは、国民は次の選挙で政権交代させることができる。」とし、今回の選挙同様、国民の一票で政権交代を実現させ新しい政党を選択することができるとしました。私たちはあまり自覚していないことかもしれませんが、今回の選挙を通して国民有権者が「一票の重み」について身をもって体験したといえます。

一票で、民意が権力者を交代させた。国民の民意で政治が変わるようにしなければならない。民主党への期待は高いが、今回4年に1回で枠組みが変わるとは思えません。北川さんは「10-15年に1回政権交代させる文化をつくることが大切。なぜなら長期政権は権力を腐敗させる」と自身の三重県知事時代の経験を語り、「失政すれば政権は崩壊することを3?4回行えば日本は真の民主国家になる」と将来起こるべきイメージを話してくれました。

若者へのメッセージ

北川教授は、日本の財政の現状に触れ、「国の860兆円の借金は私たちの世代がしでかしたこと。我々国民が政治家や官僚に白紙委任状を出し続けてきた結果」であることを反省。お任せ政治を許し、甘えたい放題甘えた結果、借金を作ってしまったと新しい世代の人に向かって謝罪。

また、民主主義は生活者・国民の視点が必要であるとし、日本の「納税者」はアメリカでは「タックス・ペイヤー(tax payer)」と表現。両者の違いは、日本では国家の立場から見て、「税金を納める人」、反対に米国では支払う人の立場でタックス・ペイヤー。この逆は「タックス・イーター(tax eater)」つまり政治家や役人を指し、これまで国の説明責任はタックス・イーターに行われていたとし、タックス・ペイヤーとしての自覚をもち説明責任を求めるべきことを強調。

以前福田赳夫首相(1976-1978)は日本の政治レベルの低さを憂いて国民のガバナビリティ(被統治者能力)について語っていましたが、北川さんは、「政治家のレベルはその市民のレベル」。権力を持っているのは国民であることを自覚し、「特定の権力者をつくろうとせず、民主主義政治の質を高めなければならない」。そして、「将来前世代が贅沢三昧をし、抱え込んだ借金を皆さんが返さなければならなくなる、ゆえに投票に行ってもらいたい」と強く訴えたのです。

北川教授は、地元三重にもつながる近江商人の「三方よし」、つまり「売り手よし」、「買い手よし」、「世間よし」の考え方を英語に言い換えるとCSRになるとしています。「法律」だけにとらわれず、また売り上げも利益も大切であるが、「浮いた利益」だけを求めず、「道義的にお天道様に恥じないような生き方をこそ再認識しなければならない」と訴えました。

そして「お天道様に説明責任のつくビジネスができなければならない」とし、企業が永続的にサスティナブルであるためには、コミュニティに対しきちっと責任を取っていなければだめだとしています。そのためには基本に倫理観と責任感が確保される必要性を説いています。

北川さんは、人間は固定概念に縛られやすい。その場を支配する空気(ドミナント・ロジック)に流されやすいとし、物事の変化はそんな自分に「気づく」ことから始まると語っています。「改革」も最初はまず「気づき」から始まり、「共鳴」、「誘発」、「相互作用」、「爆発」の過程を踏むことで物事が成就するとし、最初に気づいたことを行動に起こさなければ何も始まらないと指摘しています。

講義の後に学生の質問にも答え、民主主義の思想を高めるためには、マニフェストは一つの道具。お天道様に誓うことは「神に誓う」ことで、まさにマニフェストは「神に誓う」ものである。これを持っているかどうかで人生は決まる。そして常に新しさを求めて変化し続けることこそ松尾芭蕉の「不易流行(変化こそ普遍)」の精神であるとしました。

人があっての自分。素晴らしい家族、みんなそろって正月が迎えられ、人として堂々と誇れる人生をおくり、組織、地域をつくり上げてもらいたい。いくつになっても、「万年青年のようなみずみずしさが大切」と説いています。新しい世代への反省と愛情のこもったメッセージでした。北川さん、ありがとうございました。

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