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2020.06.26

スパコン「富岳」が8年半ぶりに世界一に
~技術開発には「2位じゃダメなんです」の気概が大切

皆さんこんにちは井之上喬です。

6月23日、住民を巻き込んだ激しい地上戦で20万人を超える人が亡くなった沖縄戦から75年の「慰霊の日」を迎えました。最後の激戦地となった糸満市では、新型コロナウイルスの影響で規模を大幅に縮小して戦没者追悼式が行われたとの報道がありました。

新型コロナとの闘いはまだまだ続きますが、23日は、改めて平和の大切さ、戦争の悲惨さを思い起こさせてくれた日でした。

最先端技術で社会課題解決へ

そんな今週、テクノロジー関連で興味深いニュースがありました。

一つは、スーパーコンピュータ(スパコン)の計算速度を競う最新の世界ランキングが6月22日に公表され、理化学研究所と富士通が開発した「富岳(ふがく)」が首位を獲得したことです。

もう一つは米国アップルの発表です。オンラインで開幕した年次開発者会議「WWDC」の基調講演のなかで、同社のティム・クック最高経営責任者(CEO)が、MacのCPU(中央演算処理装置)を米国インテル製から、iPhoneなどと同じ英国アーム・ホールディングスの半導体設計技術を使った自社開発の半導体に切り替えるとアナウンスしました。

スパコンの世界ランキングは専門家による国際会議で、毎年6月と11月に公表されます。最新版で富岳は1秒間に41.5京(京は1兆の1万倍)回の計算性能を示し、2位の米「サミット」(同14.8京回)に大差をつけて首位に立った、とのことです。富岳は京の100倍の性能を目指し、来年の本格稼働を前の試験運転段階ですが、それでもこれだけの性能を出したことは素晴らしいことです。

3位は米国、4位と5位は中国のスパコンで、世界一は日本として8年半ぶりの奪還です。高速コンピュータ開発大国の米国と中国の2強体制に風穴を開けた形になりました。

詳細についてはさまざまな報道や発表資料を参照いただければと思いますが、富岳は富士通が設計・開発した高性能のCPUをなんと約15万個使い、それらを効率よく通信するネットワークで結んで全体の働きを最適に制御し、膨大な量の計算を瞬時にできるようにしたとのこと。

半導体技術の進化と普及によるデジタル社会は、私たちに身近な存在となりました。高性能化したスマートフォン(スマホ)は、大量の通信、計算をこなして私たち一人ひとりに合わせたサービスの入口となっています。対して、スパコンの進化は気象予測、新薬、新素材の探索、人工知能(AI)の活用など、社会全体に革新をもたらし、そのさまざまな恩恵が人々の生活へと浸透していくでしょう。

富岳の開発では、速度だけでなくランキングには表れない「使いやすさ」を追求したとのことです。とにかくスピードを追求し、首位は取ったものの、使いこなすには習得すべき独特な仕様が多く、実際の研究開発では敬遠されがちだった先代のスパコン「京(けい)」。その反省から、富岳は汎用性や使い勝手を高め、企業や大学などでの利用を促進することを重視しました。私たちがビジネスで使うプレゼンソフトを動かすことさえできるとのこと。現在も新型コロナの分析や治療薬開発などに、緊急的にその計算能力を提供しているといいます。さまざまな社会課題の解決につながるよう期待したいですね。

高性能コンピュータがますます身近に

一方のアップルの発表です。クックCEOは、自社開発CPUへの切り替えにより「Macを次のレベルに引き上げる」と述べました。電力消費が少なく処理性能の高いパソコンを作りやすくなるほか、人工知能(AI)やセキュリティーの機能も加えやすくなるといいます。さらに、すでに自社製のCPUを採用しているiPhoneやタブレットの「iPad」などとの連携性も高め、高性能の自社製半導体でユーザーの利便性の追求と囲い込みをはかる戦略を発表していました。

スパコンと私たちの身近にあるPCやスマホは、いずれも最先端の半導体技術に支えられて急速に性能が向上しています。現在のスマホは、20年前のスーパーコンピュータと同じ計算能力を持っているともいわれます。一連のニュースに、そんな進化を改めて実感しました。

そんななか、今後1年間の経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)を巡る議論が6月22日、本格的に始まったとの報道がありました。

政府は骨子で、社会や行政のデジタル化を最重点課題に据える考えを示しています。安倍晋三首相は「国・地方ともに行政サービスをデジタル化し、デジタルガバメント(電子政府)を国民目線で構築していくことはもはや一刻の猶予もない」と述べ、行政の電子化を急ぐ方針を強調しました。

新型コロナウイルス感染拡大を受けた給付金では、行政がオンライン申請の仕組みを作ったものの、入力間違いが自動でチェックできず、結局人力での点検や、郵送での申請に頼らざるを得ないといった、時代錯誤にもみえる事態が頻発したのは記憶に新しいところです。せっかくのIT(情報技術)も、人間の側に十分に使いこなす能力がなければ宝の持ち腐れになりかねません。

「富岳」の8年ぶりの世界一奪還のニュースに関連して思い出すのは2009年、事業仕分けで、スパコン「京」の開発に際し、蓮舫議員が「2位じゃダメなんですか?」と発言したシーンです。その映像が何回も流れていたのを、今でも鮮明に覚えています。

科学技術の世界では1位を目指すことは重要です。ただ、道具の性能が一番であるだけでは不十分です。世界規模での課題解決を意識した開発、私たち消費者の使い勝手、利便性の向上を追求した開発。多様な視点での「1位」を目指す思考が、真のデジタル社会の実現に重要だと痛感しました。

新型コロナウイルス後の「新常態」においては、最先端のIT技術を駆使した新たな価値創造が必要になっています。最高の道具を使って何を実現するのか。その大きなポイントはやはり「社会性と倫理観」だと思います。

1月にスイスで開かれたダボス会議でのテーマに象徴されるように、企業活動はこれまでの株主至上主義から、マルチステークホルダーとの良好な関係構築づくりに軸足を置く時代へと一気に動いています。その後世界規模で進む新型コロナウイルスの感染拡大は、世界は一つであり、単眼的な見方、一部の利益追求だけでは結局、どこも行き詰ることを肌身に感じさせてくれています。

この流れに遅れることなく、的確な情報発信を継続し企業価値を向上していくためにも、リレーションシップマネジメントを主軸にするパブリック・リレーションズ(PR)が不可欠です。

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