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2008.05.24
異常な国日本〜自殺者ゼロを目指して
こんにちわ井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?
このところ、ニュースでまた「自殺」に関する報道が増えています。
その特徴も、最近の硫化水素自殺のようにまわりを巻き込むケースもみられ心が痛みます。
日本の自殺者の数は、1998年に3万2863人とはじめて3万人を超えました。以来3万人台で推移し、2006年は、3万2155人(警察庁:2007年6月発表)、2007年も3万人台を超えているとみられ、10年連続の大台記録樹立の汚名をかぶせられそうです。今日は皆さんと自殺について考えたいと思います。
毎年人口3万人の都市が消滅
日本で発生する自殺の原因としては、健康問題、家庭問題、勤務問題、経済・生活問題などが挙げられますが、経済格差が広がりをみせる中で、このところ経済・生活問題による自殺者が急増しています。日本の自殺者の数(2004年WHO:人口10万人で24.0人)は国際的にみると、G8参加国の中で、ロシアについで2番目。米国の約2倍。イギリスの4倍となっています。
ここで3万人という数がどの位のものなの考えてみると:
1) 15年続いたベトナム戦争の米軍の総戦死者数、約5万8千人の半分を
上回る数
2) 昨年、54年ぶりに5000人台となった日本の年間交通事故死者の5倍を
超える数
3) そして人口3万人の地方都市がそっくり消滅する数
などいずれも、尋常ではない数字ということになります。
また年間1万人を越える米国の銃犯罪による死者の数は日本人にとって驚くべき数字ですが、3万人という数は実にその3倍ということになります(ちなみに自殺未遂者はその10倍といわれている)。
日本では自殺が文化の一部になっているようです。古来、武士道精神にみるように責任を取るために「腹を切ってお詫び」自決したり、年老いると「姥捨て山」を受け入れるなどの精神構造がいまだ残っているように思います。一部のメディアが、「自殺天国」という表現でこの社会的問題を捉えるのも根は同じということでしょうか。
今こそ自殺防止国家キャンペーンを
小泉政権による構造改革では、自己責任の名の下で痛みを伴う思い切った政策が実行されました。しかしながらグローバル化の流れの中、「自己責任」という名のもとで、十分なセーフティ・ネットへの対応(十分なコミュニケーション)の怠りについても強い反省が起こっています。しかし自殺問題が社会的な大きな問題となっているにもかかわらず、この問題について国民的論議がなされていないことは信じがたいことです。自殺の直接の原因は過労や失業、倒産、いじめなどさまざまですが、この問題の解決に向けて真剣に取り組む姿勢は見られません。多くの日本人はこの話題を避けているのでしょうか。やむを得ず口にする場合は、異口同音に、グローバル化のひずみや経済の失速、失業者の増加などにその原因があると分析する程度。
日本は今こそ国を挙げて自殺防止キャンペーンを展開しなければなりません。自殺による人材損失がどの程度のものかデーターはありませんが、少子化で日本の人口が漸減していく中で、自殺者を減らすことは国益にもかなうはずです。かってはハンガリーと並んで自殺大国(2004年WHO調べ:90年に人口10万人あたり30.3)であったフィンランドなどの諸外国では、様々な自殺対策がとられています。残された遺族のケアや、増加する児童や生徒の心の問題に目を向けていくことなど、自治体も含めて社会全体で自殺予防に取り組んだ結果、約10年間で自殺者を30%も減らしたとしています。
WHO(世界保健機構)によると、自殺は「追い詰められた末の死」であり、「避けることのできる死(avoidable death)」としています。このことは、数年来、北九州市で生活保護受給に関連して起きた複数の餓死事件をみても理解できます。突き詰めると、受給者を増やしたくない役所の窓口の非人間的な対応に起因していたといえます。
また自殺する人の動機はいろいろあるようですが、生きる支えは、どんなにつらくても希望があることです。希望がなくなった時から人間は自らの存在の否定を始めるからです。
先日、あるテレビ番組で自殺者の心理について語られているのを観ました。理由はどうあれ、キーはコミュニケーションにあるようです。番組の中である自殺志望者は、「親にも見捨てられ(そう感じている)相談する人が誰もいなくなった結果自らの死を選ぶ」とコメントしていました。
人間の命は、天からの大切な授かりもののはずです。また人間はひとりで生きていくことはできません。誰でも「関わり」を持っています。自殺をする人が、他との関わりがなくなったと思い、失望して自らの命を絶つのだとしたら、社会で救いの手を差し伸べることができるはずです。パブリック・リレーションズ(PR)を適用する意味がここにあります。