パブリック・リレーションズ

2006.10.28

公共セクターを対象に、初めての本格的セミナー開催〜広報部門の機能強化へ向けて〜

10月23日、24日の2日間にわたり公共セクターを対象にパブリック・リレーションズのセミナーを開催しました。主催は株式会社日本パブリックリレーションズ研究所(JPRI:http://www.japan-pri.jp)。2年前、政府・公共機関へのパブリック・リレーションズの導入と普及を目的に設立した組織体です。

安部政権による報道担当補佐官の設置や組織体における広報機能の強化など、広報・PRへの急速な機運の高まりの中で行われたこのセミナーには、政府系機関、地方自治体、独立行政法人、NPOなど多くの公的機関の方々からのご参加をいただきました。

また、ゲスト・スピーカーとして、前三重県知事、早稲田大学マニフェスト研究所所長の北川正恭氏、クライシス・コミュニケーションの第一人者・田中辰巳氏やマスメディアの現場からは共同通信編集委員の龍野建一氏、元ジャーナリストで現在EU駐日欧州委員会代表部報道室長の小関真理氏などをお招きし、公共セクターにおけるPRの役割について各方面からお話いただきました。

三位一体改革が叫ばれ、道州制の導入が現実のものとして論議される安部政権の下で、自治体改革は本格的な局面を迎えようとしています。税金のばらまき行政から、自存・自立を促す行政構造改革は自治体にとってこれからが本番といえます。独立行政法人も政府補助金の削減により自立への道を強く迫られています。まさに公共セクターはこれらの劇的変化に対応するために、多様な納税者のニーズに合った政策やサービスの強化が求められているといえます。

民間のPRノウハウを活かす

では具体的に、どのようなシフトが必要なのでしょうか、パブリック・リレーションズの視点で考えて見ましょう。

全国的に進む市町村統合はさしずめ民間におけるM&A。合併による摩擦は極力避けねばなりません。その際先ず必要となるのが職員全体の意識改革です。民間で行われるエンプロイー・リレーションズ(従業員広報)の適用が求められるでしょう。

第2に、より自立した強固な地方行政を実現するには、いままで中央に多くを依存していた体質から、自己責任に基づいて、「人」「モノ」「金」「サービス」を有効活用する体質へと生まれ変わらなければなりません。つまり中央へ目を向けるのではなく、地元へ目を向け、納税者との間に双方向の環境を実現させることにより、納税者と共に自ら考え行動する、新しい活動パターンを作り上げる必要があります。

第3に新しい収入源の確保があります。地方への財源移譲によって、補助金漬けから開放されるものの歳入の絶対額の縮小により、自治体自らが新たな財源を創出したり、新しい収入源を見出さなければなりません。そのための企業誘致や観光開発、地場産業・産品の開発・育成など、自治体の特色を活かした新しいビジネス・モデルの考案が急がれています。収益体質の強化に失敗すれば最終的に破綻する自治体も出てくることは夕張市の例を見るまでもありません。

そのためには民間で行われている、マーケティング手法が採り入れられなければなりません。これまで政府・自治体広報のベースは広告が中心でした。戦後長い間、大手広告会社がこれらの機関の広報事業を受注してきました。ある意味で異常な事態が続いていたといえます。これからは、広告一辺倒のマーケティングから、マーケティングPRへの期待が高まってくるでしょう。

第4に人材の確保。インターネット社会の進展による高度情報化により、誰もが、いつ、どこからでも情報を発信し受信できる時代。急速に進展するグローバリゼーションの波からは一地域といえども逃れることは不可能です。そんな変化の激しい時代に対応できる組織を構築するには、個の確立されたリーダーシップが不可欠です。鋭いビジネス感覚と組織を統率するカリスマ性をもつ人材。このような人材の確保が急がれています。

また公共セクターでは、2?3年の周期で変わるジョブ・ローテーションのために、広報の専門家が組織内で育ちにくい環境にあります。新しい時代に合った人事政策の見直しも必要となってくるでしょう。

広聴・政策立案・広報=パブリック・リレーションズ

最後に、従来のお知らせ型の広報ではこれらの課題解決に寄与することは極めて困難といえます。しかし現在の広報に、戦略的手法を持つパブリック・リレーションズを導入することで、組織体の変化を劇的に加速させ、戦略的な組織運営を可能とします。北川さんは三重県知事時代に、広報の前に広聴による状況把握を行い、それに基づいて政策を立案し、その内容を広報したといいます。

つまり北川さんの知事時代に、徹底した双方向コミュニケーションによるパブリック・リレーションズを実現していたことになります。北川さんの時代を読む目には驚嘆させられます。
北川さんの提唱するマニフェスト(選挙公約)は、国民や納税者のニーズを把握して政策の立案を行い、行政の執行者の立場で掲げた公約の進捗状況を情報公開(広報)をとおして納税者に知らせ、公約の実行・実現を可能としなければなりません。その手法はパブリック・リレーションズそのものであるといえます。

現在、日本の公共機関に従事している人の数は約300万人とも言われていますが、この「300万人が変われば日本は確実に変わる」と北川さんの基調講演における鋭い言葉は、私の心にとても印象深く残っています。

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