パブリック・リレーションズ
2006.09.01
「PRパーソンの心得」 第2回:理論と実践を両輪に
こんにちは、井之上喬です。
もう9月です。時のたつのはほんとうにはやいですね。
皆さん、いかがお過ごしですか。
先日、日本広報学会主催のシンポジウムが開催されました。「広報人育成の課題と方法 ?基本文献プロジェクトの発足にあたって」をテーマとしたこのシンポジウムのパネル・ディスカッションにコーディネーターとして参加し「広報プロフェッショナルの育成に何が求められるか」を主題に活発な討議をおこないました。
専門家育成に不可欠な理論
米国でPRのバイブルといわれている、“ Effective Public Relations ”の日本語版出版を皮切りとする基本文献プロジェクトを紹介するこのシンポジウムをとおして、パブリック・リレーションズに対する期待と普及への機運の高まり、そして専門家育成がいかに急務であるかを改めて感じました。そこで今回は、「PRパーソンの心得」第2回として、PRパーソンにとって理論と実践を兼ね備えることの重要性についてお話したいと思います。
戦後GHQにより日本にもたらされたパブリック・リレーションズは、GHQ撤退後、専門家不在のなかで変遷を遂げてきました。長きにわたってPR先進国である米国から、PRの概念や本質を捉えた理論体系が移入されることはなかったのです。
加えて広告会社内にPR部が創設されたことでその機能と能力は矮小化され、パブリック・リレーションズの体系的な理論に基づいた教育はほとんど行われませんでした。したがって組織体にあっては、高等教育でPRの専門知識を持った学生の就業が皆無の状態。やっと広報部門で仕事を覚え、これから本格的に取り組もうとする矢先に、2?3年で別の職場に異動させるジョブ・ローテーションに組み込まれるなど、パブリック・リレーションズを専門職とする実務家は育ちませんでした。
『広辞苑』によれば、理論は、「個々の事実や認識を統一的に説明できる普遍性を持つ体系的知識」とされていますが、理論を習得することは、PRを実践する上でのバックボーン、いわば迷ったときに立ち返る場所を確保することにもなるのです。
PR理論の体系的な理解は、個々の実践的な行動の統合化を可能にし、より確実に目標達成の成果を生み出す素地を私たちに与えてくれます。そしてパブリック・リレーションズに初めて関わる人やその本質を理解していない人には、PRの機能と役割を認識させ、立案した戦略の有効性を説得するのに役立ちます。
実践を通して理論を構築する
しかし実践抜きの純粋な理論習得だけに終わっては、現実に起きている問題に対応する柔軟性や適応力を欠く場面も出てきます。したがって実務家は、日常業務において理論と実践の両輪をしっかり持ち行動することが極めて重要となるのです。理論を実践に適用してその有効性や正当性を検証し、実践をとおして新しい理論を構築することが可能となるのです。このような行動によって、実務家としての技術や思考、そして感性が研ぎ澄まされていくのです。「PRは生涯勉強の連続」というのもうなずける話です。
シンポジウムの会場からは、従来の広報の枠組みではその活動そのものに制約を感じるとの声が挙りました。つまりパブリック・リレーションズのカバー領域は多くの日本の企業の広報部門の業務範囲を超えているということを指摘したものです。現在広報に携わる多くの人が抱く問題を提起したといえます。
PR実務家にとって行動すべきことは、日々の活動のなかでPRの理論体系に照らし合わせて頭を整理すること。そしてその理論に沿って、より多角的で長期的な視野に立ち戦略的にPRプランを構築し実践することです。
この2つを実行することで、実務家は日々の活動の立ち位置や成果を統合し、最終ゴールの達成に確実につなげていくことができます。このように理論に裏打ちされた一貫性のある行動をとおして、従来の広報の枠組みを越え、幅広く経営中枢に関わることのできるパブリック・リレーションズの展開が可能となるのです。米国でのPRの目覚しい発展は私たちにこのことを教えています。
不確実な時代にあって、各方面からパブリック・リレーションズの必要性が叫ばれています。広報担当者やPRの実務家は、理論を学ぶことが実践の質の高め、日々の実践を理論にフィードバックすることがパブリック・リレーションズの質そのものを向上させることを肝に銘じて行動しなければなりません。そのような行動こそパブリック・リレーションズの実践をよりスムーズにし、日本社会におけるパブリック・リレーションズの導入を加速させることになりましょう。