パブリック・リレーションズ

2006.06.30

パブリック・リレーションズの巨星たち5.〜双方向性コミュニケーションのパイオニアアール・ニューサム(Earl Newsom,  1897-1973)その1

こんにちは、井之上喬です。
相変わらずうっとおしい天気が続いていますが、皆さんいかがお過ごしですか?

今回は、「パブリック・リレーションズの巨星たち」第5弾として、ニューヨーク・タイムズで「最も影響力のあったパブリック・リレーションズの実務家」と讃えられたアール・ニューサムを2回にわたり紹介します。

ニューサムは1920年代後半から50年代にかけて活躍した実務家で、世界大恐慌や第二次世界大戦などの激動期を経験した米国で多くの大企業へのカウンセラーとして活躍しました。

彼は、情報発信者とパブリックの相互理解を醸成する対称性の双方向性コミュニケーションが普及する60年代に先駆けて、それをいち早く実践した実務家でもありました。

倫理観を養った少年時代

1897年、エドウィン・アール・ニューサムは、米国アイオワ州ウェルマンに、プロテスタントの牧師であるエドワード・ニューサムとエマ・ニューサムの6人兄弟の4番目として生まれました。ニューサム家は、教師や聖職者を生み出す誠実で知的好奇心溢れる一家でした。そんな環境で育ったニューサムは、成長の過程で常に強い探究心と正義感そして一貫性を身に着けました。

オハイオ州、オバーリン大学へ進学したニューサムは、英語の魅力に目覚めてアカデミックの道に進み、卒業後はオハイオ州の教育機関で2年間教えました。23年にはロイス・ラインハートと結婚しその後2人の子供に恵まれますが、同年ニューヨークに移り住み、高校で英語や数学の教鞭をとりました。

その後ニューサムはいくつかの企業の販売促進部門を経験した後、Oil Heating 社で知り合ったフレッド・パーマーと意気投合。35年、パブリックリレーションズ・オフィスのNewson & Palmerをニューヨークに設立。その後パーマーが一時的にオフィスを離れたのを機に、社名をEarl Newsom & Companyと改名。

この頃アメリカは株価大暴落による大恐慌と第2次世界大戦の2つの大事件の影響下にあり、政府による大企業への批判や規制が強まるなかで、国民の大企業に対する感情は極めて悪化していました。

その頃の時代背景を少し説明すると、1933年に始まったF.ルーズベルト大統領によるニュー・ディール政策により、大企業は悪のレッテルを貼られ、パブリック・リレーションズにその理論構築の必要性が求められ、産業界には必要な政治的手腕の実践が強く求められました。危機的状態に直面した企業は、その解決策として外部専門家との契約をすすめると共にパブリック・リレーションズ部門の設置に動きだしたのです。

ビジネス・リーダーは自らのストーリーを伝えることでパブリックの支持を求めるようになりますが、社会との対話に慣れない彼らは、パブリック・リレーションズの専門家からアドバイスを受けるようになりました。

大企業を多くクライアントにもったニューサム

こうして、30年代の後半を通して瞬く間に、ベンディックス、ボーデン、イーストマン・コダック,イーライ・リリー、フォード、ゼネラル・モーターズ、パン・アメリカン、USスティールなど数十に及ぶ大企業がパブリック・リレーションズ部門を設置し、PRの専門家は最も重要な推進役を担うことになるのです。

このような状況の中でニューサムは経営手法と事業方針の両面で独自性を発揮し、他のPR会社と一線を画していました。経営面ではパートナー制を採用しAE(アカウントエグゼクティブ:顧客担当)などの役職は設けず、全てのクライアントに対して複数のパートナーが協力し合いプログラムを計画実施。また、大企業をクライアントに多く持つスペシャリスト集団にこだわりをもち、最大規模での従業員数が23人という少数精鋭を貫きました。

事業面では顧客企業に「PRプログラムの立案、組織内のPR部門設置、企業刊行物や法廷用の必要書類の作成、調査」の4つの主要サービスを提供。PR部門がない企業に対しては外部カウンセラーとしてPRプログラム提供の傍ら、PR部門の設置を促し、運営方針の策定や担当者の採用にいたるまでアドバイスを行い、確実に社内でプログラムが実行できるシステムを作り上げました。

この頃、国際状況は緊張の度合いを深め、第二次世界大戦へと突入していきます。

次回は、スタンダード・オイル社(現エクソン社)やフォード社のカウンセラーとしてのニューサムの功績を中心にお話したいと思います。

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