こんにちは井之上 喬です。
多くの企業、学校では新年度がスタートしました。期待と不安の入り混じるなか、新しい生活、新しい環境で新年度を迎えた方も多いのではないでしょうか。不透明な時代ですが、個々が強くなることで新しい日本が形作られていくことを願っています。
国際競争の激化、日本市場が縮小する中で多くの日本企業がグローバル化の動きを加速しており、その流れは大手だけでなく地方の中小規模の企業や町工場にまで及んでいます。いまやグローバル化は日本企業にとって待ったなしの大きな経営課題。
グローバル化の流れの中で、進出先の国民に信頼され現地企業としてビジネス展開し、結果として収益性と継続性を追求するためにもCSR(企業の社会的責任)経営がますます重要になっています。
CSRで自社紹介
“CSR活動はグローバルビジネスにおいて、まさに名刺代わりだ”と的を得た表現があります。「まずCSR活動から」。現地で信頼される企業になるためにはCSR活動が不可欠というわけです。
週刊東洋経済が3月17日号で「いまこそ問われるCSR経営 ?信頼される企業とは?」と題する特集を組んでいました。
その中でCSR経営の国際規格としてISO26000を紹介するとともに、日本のCSR企業ランキング300を掲載しています。
ISO26000の7つの中核主題としては、組織統治、人権、労働慣行、環境、公正な事業慣行、コミュニティ参画・発展、消費者に関する課題、があり特に人権、労働慣行など日本企業の今後のグローバル化で課題になっているダイバーシティ(異文化と多様性)に関連する項目が含まれているのが注目されます。
また同誌のCSR企業ランキング部門としては、雇用、環境、企業統治+社会性、財務がCSR経営の要素となっていることを示しています。
CSR企業ランキングの雇用の対象項目としては、女性社員比率、残業時間、外国人管理職人数、女性管理職比率、ダイバーシティ推進の基本理念、障害者雇用率、人権尊重などの取り組み、従業員の満足度調査、勤務形態の柔軟化などの30項目となっています。ISO26000と共通の項目も多いようです。
CSR企業ランキング300のトップ10をみると、第1位が前年の4位だった富士フイルムホールディングス、2位が前年トップだったトヨタ、3位がソニー、4位が前年7位からランクアップした富士通、5位がシャープ、6位デンソー、7位富士ゼロックス、8位リコー、9位NTTドコモ、10位ホンダとなっています。皆さんはこのランキングをどのように感じますか。
世界では低評価の日本のCSR経営
日本企業も積極的にCSR活動に取り組んでいますが、世界的なCSR経営における日本企業の評価はまだまだ低いようです。
ニューズウィーク誌は、CSR活動の大きなポイントである環境にフォーカスし、企業の環境経営度ランキングとして「ニューズウィーク・グリーン・ランキング」を2009年度から実施しています。
2011年10月に発表されたニューズウィーク・グリーン・ランキング2011は、米国企業500社とグローバル企業500社をそれぞれランキングしており、グローバル500社のランキングには日本企業48社が含まれています。
その中の上位5社は富士通が13位、東芝が27位、NECが48位、日立製作所56位、NTTドコモが59位となっています。
ちなみにトップ3は、1位がミュンヘン再保険(ドイツ)、2位がIBM(米国)、3位がナショナルオーストラリア銀行(オーストラリア)。
2010年度と比較するとランキングに占める日本企業の比率は約1割で変化はないものの、前年度は上位20社に6社がランクインしていたのに対し、今回は富士通だけになっています。
評価方法の変更があったようで単純な比較は難しいですが、日本企業に対する評価はまだまだ低いのではないでしょうか。
その一方でランクアップされた企業数では、中国32社、ブラジルとインドがそれぞれ10社と台頭が目立ち、ある意味、世界経済の中での勢いの差が出ていると判断できるのも日本にとっては心配な材料です。
紹介したランキングについてはさまざまな意見があるでしょうが、指標の1つとして考慮するのに値すると思います。
世界で信用される日本企業、世界の各地で根付いた日本企業となるような真のグローバル化を推進するためにも、日本企業のCSR活動やそれに根ざしたCSR経営は新たなステージに入ったことだけは確かなようです。
最近ではこれまでのCSR活動から、CSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)という概念がよく使われています。
CSVは、 米国ハーバード大学の「競争戦略論」で著名なマイケル・E・ポーター教授の提唱する考えで、「社会問題の解決と企業の競争力向上の両立を目指す取り組み」を指しています。
この考えは、2006年の拙著『パブリックリレーションズ』(日本評論社)の中で紹介した、フィリップ・コトラーの究極のCSR(「CSRは、企業が本業を活かしその枠組みの中で自主的に実現すべき社会貢献で、社会に貢献できる本業の延長線上にあるべき」)の考え方と同様のものと考えます(当ブログ2006年6/9号を参照ください)。
企業は本業を通して企業価値の向上と、社会課題の解決の両方に同時に取り組まなければならない、単なる貢献活動ではなくCSR活動でも長期的な戦略が求められるということでしょうか。
パブリック・リレーションズ(PR)のカバー分野でもあるCSRは、戦略性を持ったコーポレートPRを推進していく上で極めて重要な活動要素なのです。